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非常勤日記 1回目 投稿者:新井 明 投稿日:2013/05/29(Wed) 22:45 No.544

討論室もちょっと動きが少ないようです。

役だつ本も100回やったら少々飽きてしまったので、お休みだったのですが、これから週1くらいのペースで非常勤教員からみた現在の学校や授業を日記風に書いてみようかと思います。
討論室にふさわしいかどうかはやや?ですが、記録も必要かと言うことで開始します。

5月某日
はやくも学校は中間テスト。三学期制だと4月に始まって5週くらい(2単位だと10時間前後)で定期考査がはじまる。私は、今年は総合学習の担当なので、テストから解放されているのだが、逆に生徒にとってはテストの無い教科というのは授業への熱意が全然違うのが手に取るように分かって、ちょっとつらいものがある。テストがないと勉強するインセンティブが働かないという事なのだろうと思う。人間は、やはりお尻を叩かれないと動かない動物なのか?

5月某日
生徒と裁判の傍聴にでかける。夏休みに裁判甲子園というイベントがあり、その準備。今回は、あまり事件が多くなく、生徒の中には強制わいせつ(痴漢)の傍聴をした生徒もでてきて、ややリアルすぎたようだ。それでも、実際の法廷をみることで、世の中の一端を知ることができたと思う。なにより、手錠腰縄を身近で見ることは大変な教育的効果ありのようだ。百聞は一見にしかず。

5月某日
授業で、中国革命をやる。通常の歴史の授業では「国際理解」という総合学習にならないので、歴史的展開の説明を簡単にして、平等を指向するM国と自由を指向するS国があったら、どちらの国を支持するかという問いを投げかけてみた。二クラスでやったのだが、二クラスとも見事に5:5に分かれた。歴史的に見て、どちらが現実的に成功したのかはある程度見ることができるのだろうが、それにしても生徒のこの結果は興味深い。

5月某日
少し時間的な余裕があるので、昔読んだ本や未読の本に挑戦している。4月から読んだのは『レ・ミゼラブル』。むかし子供向けの抄訳では読んでいるし、映画にもアニメにもなっているので、有名だが、実際に全訳を読むのははじめて。岩波文庫4冊であるが、なにより挿絵がありそれが手がかりになって、結構すらすらよめる。また、鹿島茂『レ・ミゼラブル百六景』文春文庫、という本もありそれも手がかりにして、完読。ウイーン体制下のフランス、カトリックの修道院の生活、パリの地下道、なによりもジャンバルジャンの生き方などドラマと歴史を同時に読み解くことができる。やはり名作は名作とあらためて思う。

5月某日
授業でDVDを見せようとしたのだが、特別教室のプロジェクターがうまく作動せず、ばたばた。器材をやりくりしたり教室を変えたりしてなんとか実施できたのだが、それだけでぐったり。2時過ぎに、遅い昼食をとったら、どうしてもねむくなり椅子に座って居眠りをしてしまう。その間、若い先生たちは、授業に生徒の対応に、会議にとコマネズミのように動いている。そこに居眠り非常勤教師。なんだか、高齢化日本を象徴するような午後であった。目覚めて私は自己嫌悪。



「おかね道」にいってきました 投稿者:新井 明 投稿日:2013/04/28(Sun) 11:58 No.543

4月号のメルマガの「授業のヒント」で書いた『波乱万丈!おかね道』の展示を見てきました。

日本科学未来館は東京のお台場にあります。新橋からゆりかもめに乗り、レインボーブリッジを渡りお台場に行きます。ちょっとした遠足気分でした。

展示は大竹先生が総合監修されたものでマスコミでも取り上げられています。

全体は10の実験から構成され、それぞれまずは実験、そのタネ明かし、それをどう生かすという三段構成で組み立てられています。

実験の内容は以下の通りです。
1 ホモエコノミカスの実験場
2 ヒューリスティックの実験場
3 同調伝達の実験場
4 認知的不協和の実験場
5 アンダーマイニングの実験場
6 現在バイアスの実験場
7 プロスペクトの実験場
8 べき分布の実験場
9 社会的価値志向の実験場
10 社会的ジレンマの実験場

ここではタイトルだけを紹介しておきます。それぞれどんな実験で、そこからどんな知見を得て、どう生かすかはぜひ関東近辺の方はでかけて体験されるとよいと思います。

実験経済学をすこし勉強された方ならだいたいたねはお分かりだろうと思います。でも、それをこのようなかたちで実際にためしながら考えさせたり、紹介してゆくのはとても面白いし、私たちだと授業に使えるなと思うヒントがたくさんありました。

ひとつだけあげると、最初の「見知らぬ人が相手が自分に900円、あなたに100円と言っています、どうしますか?」などは最後通牒ゲームの事例ですから、経済人の話をするときに使うと良いかもしれません。

とはいえ、せっかくの企画なのにもったいないなと思う箇所がいくつかありました。
ひとつは、常設展にくらべて全体がミゼラブルな印象が強いところです。これはお金のかけかたが違うから仕方がないと思いますが、高校の文化祭の展示のような雰囲気はもうすこしなんとかならないかと思いました。
とにかくルートがわからないところが何か所かありました。

二番目は、解説のボードが小さく、しっかり読んだり考えたりすることができにくいことがあります。
途中で、しっかり読んでねというアナウンスをいれているので、主催者も危惧を感じているのでしょうが、もうすこし丁寧に、かつわたしのような老人でも読めるように展示を工夫してほしかったなあと思いました。

三番目は、本当にそうなのかなと思わせる解説が何か所かあったことです。
例えば、実験5の空き地のおじさんの作戦。三つのうちひとつが作戦としては一番効果的とあるのですが、本当にそうなのか強い違和感を感じました。(ネタバレになるので詳細は書きませんが、どうなんでしょうか?)
また、実験9の他人とどうわけるかという公平性の問題ですが、他人がどういう他人なのかによって判断は大きく変わるのではと感じました。(知らぬ人、知っている人、半分くらい知っている人などによて判断はかわらないのかどうか?)

常設展(600円)と抱き合わせだからなんとかペイできたと感じましたが、これだけで1000円だったら「金返せ!」となってしまうかもしれません。ちなみに、私は科学館は初めてだったのですが、時間があまりなく常設展は駆け足でした。

ちょっと厳しい意見も書きましたが、この種の試みがかたちをとって行われていることは素晴らしいと思います。生徒の校外学習にプランとして入れることをすすめます。



役だつ本の総括 投稿者:新井 明 投稿日:2013/04/13(Sat) 10:26 No.542

お久しぶりです。

授業で役立つ本をながながと投稿してきました。昨年末で100回になり、ちょっと中断しています。
このところすこし時間がとれたので、100回分を整理してみました。

【取り上げた本の総数】 239冊(ただし厳密ではありません。)

【出版社別リスト】
1 岩波書店      39冊
2 筑摩書店      31冊
3 中央公論新社    19冊
4 日本経済新聞社   14冊
5 講談社        8冊
5 光文社        8冊
以下、東洋経済新報社6、ダイヤモンド5、ミネルヴァ書房5、NHK出版5、日経BP社5、日本評論社4、NTT出版4、PHP3、有斐閣3、みすず書房3 などでした。

【このうち新書別リスト】
1 ちくま新書    24冊
2 岩波新書     20冊
3 中公新書     18冊
4 講談社現代新書  8冊
4 光文社新書    8冊  でした。ちくま新書が経済分野ではがんばっていますね。

【著者別リスト】複数冊取り上げている著者(敬称略です)
1 大竹文雄   4冊
1 吉本佳生   4冊
3 岩田規久夫  3冊
3 飯田泰之   3冊
3 中島隆信   3冊
3 猪木武徳   3冊
3 大村敦志   3冊
以下、2冊の著者
バーンスタイン、ケインズ、安富歩、伊藤元重、吉川洋、若田部昌澄、神野直彦、松原隆一郎、新保恵志、小島寛之、柳川範之、齋藤誠、川越敏司、小坂井敏晶、橋本治、加地信行の方々です。

新井君の趣味がわかるリストかもしれません。また、複数取り上げる人たちは、やはり注目される本、役立つ本を書いていると言えるのではないかとも思っています。

【ジャンル別リスト】
1 高校までの経済教育に直接役立つもの  13冊
2 経済学の知見を使った本、時事的解説本 97冊
3 大学用向けテキスト          20冊
4 お金の本、金融関係          18冊
5 哲学、思想、宗教、歴史など      40冊
6 文学関係               23冊
7 日本社会論などその他         28冊

【2の経済学の知見を使った本の詳細分類】
21 ○○の経済学のような本       27冊
22 経済学説や経済思想を扱った本    30冊
24 経済史の本              2冊
25 時事的な経済解説の本        32冊
26 ルポなど               6冊

この分類は完全に私の独断です。直接経済学を扱っていない本、文学作品なども結構紹介しているのはこれも趣味の関係です。

リストをみて、古本屋では引き取ってくれないだろうなと思う本もたくさんあります。このあたりの事情は「番外編」で何回か触れています。また、本当に授業に役立つかどうか不明の本も結構あります。

とはいえ、現場教師の読書記録として参考になれば幸いです。内容も整理してまとめてご覧いただけるようにできると個人的にはうれしく思っています。



書評『高校生からの経済データ入門』 投稿者:TM 投稿日:2013/03/18(Mon) 17:20 No.541

書評『高校生からの経済データ入門』

『高校生からの経済データ入門』吉本佳生著(ちくま新書、2013年3月10日)
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480067050/

あの『出社が楽しい経済学』の編者が書き下ろした経済データ分析の入門書である。「はじめに」によると、この本は、「高校生でも、大人でも、データ分析の技法を基礎から学べる」とされており、実際に著者は、この本の内容を、愛知県有数の進学校でも、日本を代表する企業の調査部でも講義して大変手ごたえがあったと述べている。

確かに、高校生でも誰でも興味を持ちそうなデータ、例えば「若者の就職に関するデータ」を取り上げて、数値が持つ意味や解釈、また誤解や落とし穴などを分りやすく説明しており、新書ということもあって手軽に読める。特に感心した点は、単に一般向けに面白そうなデータを取り上げていること以外に、以下のような工夫がみられることである。

1)一つのデータについて色々と検討するだけでなく、他の商品、分野あるいは国のデータと比較してデータの読み方を示そうとしている点。
2)データそのものの分析にとどまらず、その数値や変化を説明する理論(例えば需給分析)やデータが生み出される背景(例えば政府発表の特徴)などにも触れている点。
3)このレベルでは取り上げられない重要なテーマ、例えば「実質金利と名目金利」や「ストックとフロー」などの違いを分りやすく「コラム」で説明している点。

以上のような評価できる点がある半面、残念な点も指摘しておきたい。この本を読む上で注意すべき点として読者本人や教師が心しておく必要があると思われるからである。

4)データを読む場合に注意すべき点を、色々と指摘しているが、それが体系的に示されていない(例えば、データについて標本抽出上のバイアスか、解釈上のバイアスか、結論のバイアスかなど)。そのため、単に「データを扱うのは本当にたいへんだと思った」(著者の講義を聞いた会社員の感想)という印象を、読者に与える危険がある。実際には体系的に考えて、いくつかのポイントを押さえればよいという前向きのメッセージがあまり伝わってこない。
5)データ入門という内容のためもあるが、理論的な整理がついていないため、重要な区別があいまいになり、経済の理解にかえってマイナスになる面も見受けられる。例えば、物価の変化を扱う章で、特定も財や一部の産業の価格の変化、つまり相対価格の変化(ミクロ分析)と経済全体の物価の変化(マクロ分析)との区別があいまいである点。
6)データの解釈を超えて著者自身の思い込みや通説を述べている個所もいくつか散見されること。例えば、日本やアメリカがゼロ金利政策を取ることの「副作用」として、資源の国際的価格が「株価のように動くようになり・・、日本銀行の金融政策によって世界に出ていったおカネもその原因のひとつになった」と述べている。しかし、このような説は必ずしも正しいとはいえず、いずれにしてもこれはデータ分析から導かれる結論ではない。
7)最後に、新書という紙面の制約の中で、大きなテーマを7つも取り上げていることからしてやむを得ない面もあるが、それぞれのテーマについていわば「ネタ」を提供するにとどまり、そのテーマについての基本的な理解に貢献する説明には必ずしもなっていない点は注意が必要である。例えば、「国際収支統計の黒字・赤字」の章では、黒字や赤字の意味は説明せず、「むずかしい話は避けることにして、できるだけおもしろそうなデータをみてみましょう」と言って、サービス収支のなかの旅行収支だけに絞ってデータをみるといった具合。

以上のような注意点はあるものの、この種の本としては有益な内容が詰め込まれていて、特に高校生、大学生、新入社員などにデータをみることの重要性と問題点を認識させる第一歩になると思われる。「はじめに」にある「データ分析の技法を基礎から学べる」という表現を、「データ分析に興味を持たせる格好の入門書」と書きかえれば文句なく推薦できる本といえよう。
(宮尾)



華麗なる交易 投稿者:山崎 辰也 投稿日:2013/02/15(Fri) 21:33 No.540

ウィリアム・バーンスティン『華麗なる交易』(日本経済新聞出版社)を読みました。
以前、新井先生が読んでみたいとおっしゃっていた本であり、ネットワークの「歴史から経済を学ぶ」シリーズにも通じるところがあります。
この本は、シュメールから現在に至るまでの貿易の歴史を、つながりのある物語で概観できる良著でした。
高校世界史の貿易部分も網羅しているので、授業づくりにも役立つと思います。
古代から一貫して、貿易で損をする少数の利害関係者があの手この手を使って妨害していて、現在のTPP参加反対派の論理はどうなのか考えさせられます。
経済史のなにをどう教えるか、経済教育の大きな課題ですね。






授業に役立つ本 第100回 投稿者:新井 明 投稿日:2012/12/24(Mon) 12:20 No.539

 この投稿も100回になりました。

 100回だから何かまとまったものをと考えていましたが、2000年が20世紀の最後の年であったように、100回はまだ区切りではないと思い返しました。ということで、通常スタイルで、本を二冊紹介します。一冊は、金融教育の本、もう一冊は吉本佳生さんの啓蒙書です。

 最初の本は、新保恵志編著『金融・投資教育のススメ』(金融財政事情研究会刊)という本です。この本は、公益財団トラスト60という団体のなかに組織された「投資教育研究会」の研究成果をまとめたものです。
私は、著者の一人の伊藤宏一先生から寄贈されて読みました。読者の対象は、金融関係の会社や企業で社会人向けのセミナーなどに関係している社会人だろうと思いますが、学校教育も対象にされているので、私たち学校関係者にも参考になります。

 全体は5章にわかれていて、第1章は、「日本の金融・投資教育の歴史と現状」というタイトルで、著者は山本利明さんという大阪電気通信大学の先生です。山本さんは、住友信託銀行に勤務されていて、その後大学にトラバーユされたキャリアの方のようです。

 ここでは、大学で初年級の大学生に金融を講義する中で、高校までに金融教育を受けた記憶がないという大学生が圧倒的であることから、なぜそうなるかの分析が社会人の視点から整理されています。我々から言えば、経済教育が外、金融の元プロからどう見られているかが、かなりはっきりでていて興味深いものがあります。

 山本さんによれば、学習指導要領や教科書は、教える事項がかなり幅広く網羅的であり、経済をベースに金融を教える内容としてはほぼ合格であるという評価です。しかし、その内容をすべて授業のなかで生徒にわかるように教えるのは、金融の実務家からみても至難のわざという指摘をしています。その通りだろうと思います。

 そして、金融教育の必要性を受ける生徒学生が要望しているのに、供給側の教員は、必要度は認めていても現実には実施されていないことを、需要と供給のギャップと表現しています。このあたりは、ちょっと面白い表現でした。

 山本さんは、現状を突破する視点として、金融教育の必要性をもっと社会的に認知してゆくこと、内部的には小学校からの系統的な金融経済教育の指導体制をつくることを提言しています。具体的には、金融経済教育のスタンダードをつくること、副読本や教材が学習指導のなかに位置づけられることを提言しています。

 さらに、現場の担い手である教師の意識を向上させることが大きな課題であるとも指摘しています。このあたりの認識もうなずけます。

 山本さんの文章からは、学校教育の外にいたひとが、あらためて学校における金融経済教育の実態に触れて、課題の大きさに戸惑っている様子がうかがえます。

 第二章は、吉本佳生さんの「多様な金融商品の登場と問題点」という内容で、主に社会人向けにデリバティブ型商品の特徴と、それを知らないことによる問題点が指摘されています。

 ここは、吉本さんがこれまで一般人向けに書かれた著作とほぼ同様なので、内容はよく読むと面白いし役立つのですが、中高の学校教育ではちょっと使えない事例が多く残念です。

 第三章は、伊藤宏一先生の「英米の金融教育の現状と日本の金融教育の課題」という内容です。ここでは、特にイギリスの取り組みが注目です。

 イギリスでは、ブレア政権によって金融サービス庁(FSA)が設立され、2000年に成立した金融市場サービス法によって、FSAは消費者教育の担い手として位置づけられました。そこで出されたのが、金融リテラシー概念とさらにそれを深化させた金融ケイパビリティの概念です。

 ケイパビリティは、アマルティアセンが提唱した概念ですが、金融教育でもそれが重要概念として取り入れられていると事です。

 その詳細は、本書を読んでいただくことにして、ここで私たちにとって重要なことは、リテラシーではなくケイパビリティであることです。この指摘は、私たち現場の人間にとってはあまり注視されてこなかったことではないかと思います。

 イギリスでは、ケイパビリティをベースとした金融教育に対する学校教育向けと、社会人向けの金融教育のスタンダードが作られているそうです。

 アメリカでも同様で、2010年に「金融リテラシーに関する大統領諮問委員会」を「金融ケイパビリティに関する大統領諮問委員会」へと名称変更する大統領令が発表されたとのこと。このあたりは、不勉強の私には、全くノーマークの新しい知見でした。

 ちなみに、金融ケイパビリティとは、「知識とスキルとアクセスに基づいて金融始源を効果的に管理する能力」と定義されているとのこと。ここから、金融教育の重要な方向としてパーソナルファイナンス教育が浮かび上がるというのがこの章の論旨です。

 ここの部分を読むだけでも本書は十分価値ありです。

 第4章は、朝日大学の岩ア大介さんの「金融・投資教育実施における問題点」という論文です。岩アさんは、元みずほ銀行の金融マンです。この章は、筆者の一族の金融への評価と岩アさんの銀行時代の体験からはじまり、なぜ実生活のなかで活用される金融の知識が学校では教えられないのかを、庶民の金融感覚と金融政策の歴史的変化から追っています。

 この部分は、私にとっては本書の中ではいちばん面白い箇所でした。

 それをうけて、金融教育の需要サイドと供給サイドから、金融教育のこれからの方向性を探るのは後半です。ここでは、ジェーンジェイコブズの市場における倫理と統治の倫理という概念を使って、二つの論理のせめぎ合いが日本での金融教育の進展を阻害していることが明らかにされます。

 ここも大変示唆的です。渋沢栄一などの自発的金融教育の試みなど、歴史的な取り組みも紹介され、問題を整理するのに役立ちます。

 第5章は、編者である新保恵志さんの「投資教育の姿」という論文です。ここでは、投資教育という用語がつかわれています。内容は、社会人向けの投資知識をいかに教育してゆくかが整理されています。新保さんは、岩波新書で『金融商品とどうつきあうか』という本を書いており、その本はこの連載のなかで取り上げています。内容的には社会人向けのものです。

 本章の最後には、新保さん作成の練習問題が30題ついていますから、それに挑戦してもよいし、学校でつかえるものは使ってもよいのではと思います。

 この本、社会教育的な観点から書かれた章が多く、直接は授業では役立たないかもしれませんが、学校の外から私たちの教育がどのようにとらえられているのか、また、社会に出て必要な知識とスキルをどこまで、どのように身に着けさせるかを考えるヒントとなる本であると言えるでしょう。

 もう一冊は、前著のなかの分担執筆もしていた吉本佳生さんの『どちらがトクか選べ!』(PHP刊)という本です。

 この本は、ある哲学書を探しに入った本屋さんで偶然に見つけた本です。面白そうだと言うことで衝動買をした一冊です。

 内容は、値引き、ポイントなど日常の買い物からはじまり、就活、エントリーシートの書き方、住宅ローンの金利、お金の運用など25の質問が出され、それを答えながらエコノミスト思考を身に付けるというものです。

 エコノミスト思考というのは、なんだか逆張りのすすめや鬼面人を驚かすというような面がありますが、きちんとコスト計算をして冷静に判断せよということで、経済教育の目標の一つでもあります。

 吉本さんは、『スタバではグランデを買え』や『出社が楽しい経済学』でご存じだろうと思います。この本は、それまでの吉本さんの本の内容をクイズ仕立てにしたものと言えます。

 クイズ方式は、授業でも役立ちます。導入で使ってもよいし、話の本論にクイズを入れながら授業全体を構成しても生徒参加の授業ができます。そんな学習方法の改善にもこの本はヒントになります。

 私が面白いと思ったのは、就活関連の話です。実際に吉本さんが体験したこと、また企業(銀行)でリクルーターをやった体験などが生かされて、話が構成されています。エントリーシートの評価法などは体験者ならではの設問だと思います。

 行列の問題などは、私は異論があり、吉本さんの回答とは違う見解をもっていますが、まあそう目くじらをたてずに楽しみながら学ぶというスタイルを受け入れたいと思います。

 この本、衝動買いでしたがおつりが来た感じです。ということは、直感を磨くのも大事かな。ちなみに、探していた本命の本は、一割引きにしてくれる大学内の書店で見つけました。多少探索費用がかかりましたが、これもおつりが来た感じです。

 ここまで100回、継続は力と続けてきました。一度総括をして、新たに出発したいと考えています。皆さん、良いお年をお迎えください。



短期の「公平性」と長期の「効率性」:アンケート結果 投稿者:TM 投稿日:2012/12/18(Tue) 07:16 No.538

短期の「公平性」と長期の「効率性」:クラスでのアンケート結果

目的:短期的な「分配の公平性」を達成する政策が、長期的には「効率」や「成長」を阻害する可能性について、生徒に意見を表明させ、議論させる(実施日:12月14日、於国際教養大学)

アンケートの質問:
(1)賃金について:
競争的な労働市場において需給の均衡で決まる賃金が、「公平性」の観点から低すぎる場合に、所得再分配政策(労働者への補助)を行うとする。すると、短期的には「公平性」が達成できるが、その長期的効果は以下のどちらになる可能性が高いか。
(1A) 労働者の勤労意欲を阻害し、訓練や教育によってより賃金の高い仕事につこうとする意欲がそがれ、長期的には経済の効率や成長が阻害される・
(1B) 労働者の勤労意欲や訓練・教育の効果は、現在の仕事の賃金水準によってはあまり左右されないので、長期的に経済の効率性や成長が阻害されることはない。

(2)利潤について:
競争的な商品市場において需給の均衡で決まる利潤が、「公正性」の観点から多すぎる場合に、所得再分配政策(利潤への課税)を行うとする。すると、短期的には「公正性」が達成できるが、その長期的効果は以下のどちらになる可能性が高いか。
(2A)企業が研究開発や技術革新によって費用削減や新商品開発を行おうとする意欲がそがれ、長期的には経済の効率や成長が阻害される。
(2B)企業の研究開発や技術革新への努力は、市場競争によって促進され、現在の利潤の水準によってはあまり左右されないので、長期的に経済の効率性や成長が阻害されることはない。

アンケート結果:
ミクロ経済学を履修している大学1〜2年生14人(日本人12人、留学生2人)が対象
(1) 賃金について: (1A)「阻害される」 7人、(1B)「阻害されない」 7人
(2) 利潤について: (2A)「阻害される」 8人、(2B)「阻害されない」 6人

学生の意見と最後のまとめ:
賃金でも利潤でも、「阻害されない」と答えた学生は、主観的に「自分ならば経済的な誘因に左右されない」といったニュアンスの意見が多かった。実際に、努力家、勉強家の学生たちにこのような意見が多かった。これに対して、「阻害される」と答えた学生は、客観的に「多くの人や企業は経済的誘因に左右されるはず」といった発想のようであった。

まとめ1:短期と長期の効果の両方を考えると、単純に所得再分配政策で公平性と効率性が同時に達成され得る(ミクロの教科書によく書かれている命題)と結論付けることはできない。
まとめ2:阻害されるかどうかは、具体的なデータで検証することが必要であるが、いずれにしても、経済的誘因の役割りや効果に注意を払うことが必要である(経済学的発想の基本)。

宮尾



「公共財・タダ乗りゲーム」について 投稿者:TM 投稿日:2012/11/19(Mon) 01:57 No.535

「公共財・タダ乗りのゲーム」について

「公共財サービス・タダ乗りの実験」に関する課題 (於国際教養大学、実施日11/16/2012)

小川一仁・川越敏司・佐々木俊一郎『実験ミクロ経済学』(東洋経済、2012年9月27日発行)の第15章「公共財と共有地の悲劇」にある実験15.Aを多少簡略化して、クラスで以下のように説明:
A)各人が月30万円の所得があるとき、10万円を警察や消防や国防といった「公共財」のサービスのために政府に支払うかどうか(10万円か0円か)を決めるとする。ここで各人はそのような「公共財」のサービスをどんな状況でも必ず受けられ、排除されないと仮定する。
B)クラスで4人の学生が一つの社会を構成するものとするが、お互いの名前は分らないままにする。
C)ゲームのルールは、(1)各人が政府に10万円を払うか払わないかを決める(10万かゼロかの選択)、および(2)政府が受け取った合計額Xで「公共財」を提供するが、その公共財サービスの貨幣価値は合計額Xの半分(0.5 X)で、それが社会の4人の構成員全員に及ぶとする。
参考:
以上のルールから分るように、各人は他の3人が10万円を払おうが払うまいが、自分は払わないという戦略(タダ乗り戦略)をとるほうが得になる。
例えば、自分だけが10万円払って他の3人が払わなければ、政府の受取額の合計Xは10万円だけなので、それで公共財を提供すると全員に5万円に相当する便益が及び、支払った自分だけが差し引き5万円の損となる。したがって、払わない方が損をしないだけましである。
もし自分が払って他の3人が10万円を払った場合を考えると(協調解)、政府の受取額の合計は40万円で全員に20万円相当に便益が及ぶので、支払った10万円を差し引いても残り10万円の特になる。しかし、その場合に自分だけ払わなければ、政府の受け取る額は30万円となり、サービスの価値は15万円となるが、それでも自分は何も払っていないので、15万円がまるまる特になり、自分も支払う場合(協調解)の差し引きの得である10万円を上回る。したがって、この場合も支払わない戦略(タダ乗り戦略)が選ばれるであろう。
結論:
以上のことから、この実験をクラスで行うならば、だれも支払わずタダ乗りをしようとするため、政府の受取額はゼロとなり、各人は10万円をそれぞれ自分で使うだけとなる。これは「囚人のジレンマ」の解であり、全員が10万円支払って20万円の便益を受け取り、差し引き10万円のプラスとなる「協調解」よりも明らかに劣った状態に陥るであろう。
クラスの学生たちへの質問:
『以上のゲームのルールにさらに何を加えれば、各人が進んで10万円を支払い、「囚人のジレンマ」を避けて「協調解」が得られるか考えなさい』
学生たちの答え:
答えは以下のように大別された:
1)各人に公共財の重要性を強調し、公共財が提供されない場合の影響の大きさを説く。
2)参加メンバーがお互いを知り、協力できるような機会を設ける
3)他のメンバーが支払ったかどうか分るように情報を開示し、支払いを促す。
4)支払ったメンバーが損をした場合には政府が返金するか補助金を与えることにする。
5)支払わないメンバーに支払わないことに対する何らかのリスクを負わせる。
6)支払わないメンバーには公共財サービスを消費させない。
7)支払わないメンバーには政府が後により多く支払うように要求する。
以上のうち、(1)は解決にならず、(2)と(3)はルールを変更して協力ゲームにするというもので、ここでは受け入れらない。(4)は一見すると解決になるようにみえるが、しかし損はしないという理由だけで皆が10万円を払うとは限らない。それでもタダ乗りをしてさらにもうけようとするメンバーが出る可能性がある。(6)は「公共財」の定義の変更なのでこれも却下。(7)は、それであれば政府が最初から全員に10万円課税すればいいだけ。したがって、残るのは(5)、つまり支払わないメンバーに何らかのリスクを負わせる、それも(7)のように政府が強要するのではなく、支払ったメンバーが支払わないメンバーに罰を加えるようなアレンジが必要であろう。

実は、この(5)の方法が、上記の『実験ミクロ経済学』の第15章の次の実験15.B(罰則を与える機会のある公共財自発的供給メカニズムの実験)に他ならない。
この実験では、事後的に結果を知ったメンバーは、タダ乗りしたメンバーに対して、自分が損をしても(コストかけても)いいので「報復」することが許されるというルールが付け加わる。そうすると、誰もわざわざコストをかけてまでタダ乗りのメンバーに報復しようとは思わない(はず)にもかかわらず、各人は万一そのような利他的なメンバーがいて報復されるかもしれないというリスクを恐れて支払う可能性が高い。これを実験した結果が上記の章で報告されている(p. 165-167)。
(宮尾)



授業で役立つ本 99回 投稿者:新井 明 投稿日:2012/11/04(Sun) 01:02 No.534

 いよいよ100回寸前ですが、ちょっとご無沙汰でした。現在は月1ペースですので、10月終了までにはと思っていましたが、11月になってしまいました。

 今回は、最近の経済本を新書を中心に紹介します。ぜひ皆さんに読んでほしい本もあります。紹介する本は5冊です。ランダムにあげると猪木武徳『経済学に何ができるか』、小島寛之『経済学の思考法』、飯田泰之『飯田のミクロ』、川越敏司『はじめてのゲーム理論』、小川、川越、佐々木『実験ミクロ経済学』の5冊です。

 この5冊、新しい経済学、もしくは経済教育の方向を示すものが多くありますが、猪木さんの本のようにコンパクトですが重厚なものもあり、経済関係書は今元気だという印象を持ちました。

 最初は川越さんの関係の二冊から行きましょう。
 まずは、『はじめてのゲーム理論』(講談社ブルーバックス)です。川越さんは、公立はこだて未来大学システム情報学部複雑知能学科という、なんだかじゅげむのような名前の大学学部学科に所属しているゲーム理論の専門家です。

 ゲーム理論の入門書は数多く出されています。そのなかで、この本は、サブタイトルで掲げているように2つのキーワード、ナッシュ均衡とパレート最適を前面に押し出して全体を説明してゆこうとする姿勢が特徴です。説明は、具体的であり、最初の2章には練習問題も付いていて親切です。

 加えて、ゲーム理論の限界である不可能性定理とそれを克服しようとするメカニズムデザイン論を紹介しているところに新しさがあります。終章には、量子ゲームという物理学者が研究している最新先端理論を、ギャンブルゲームを例にして説明してもいます。ただし、最後の部分は、ブルーバックスだからということで、あまり経済教育の私たちには関係ない領域かもしれません。

 最も面白いのが、川越さんの専門であるメカニズムデザインの箇所でしょう。それは、前書きにもあるように、ゲーム理論で社会をかえてゆこうと志向した川越さんがぶつかった難問である不可能性定理をいかに超えてゆくかの研究成果が記述に生かされているからだと思いました。

 その点で、この本はゲーム理論のイロハを学ぶと言うより、すでにゲーム理論に関して多少知識のある先生が、具体的事例、数々の名称がついているゲームの成立プロセスや理論根拠を整理するために役立つ本と言えるでしょう。

 二冊目は、『実験ミクロ経済学』(東洋経済新報社)です。これは川越さんを含む、小川一仁さん、佐々木俊一郎さんという若手研究者三人の共著です。この本はソフトカバーの単行本です。

 内容は、タイトル通り、ミクロ経済学の講義に経済実験を加えた新しいテキストです。はしがきに、ミクロ経済学を楽しく学びたい学生さんや、エキサイティングな授業を展開しようと考えている教員の皆様のために書かれた教科書とありますが、ずばり教員向けの本でしょう。学生さんがこれを読んでも、実験をやるわけにはいきませんから、これは教員向けのマニュアル本と位置付けた方がよいように思います。

 全体は、大学の半期授業にあわせて、経済学の原理から公共財と共有地の悲劇まで15章に分かれています。各章は、基礎概念、実験、発展の三つの構成になっていて、基礎概念でミクロ理論の概要を説明し、それが成り立つかを実験して確認し、発展的項目に関して扱うというスタイルで統一されています。

 実験は、全体で34紹介されています。ただし、最初に取り上げられている「自給自足の実験」などのように、本当に教室で実験を行ったものではなく一種の頭脳シミュレーションのようなものから、市場均衡の章での「ビットマーケットの実験」のように、講義の教室で実際に行わせるものまで濃淡は様々です。その意味では、34が全部使えるわけではなさそうです。

 著者に言わせると、この種の本で、家計や企業の行動に関する実験をとりいれたのは世界初の試みだそうです。ちなみに、企業では生産可能性フォロンティアと限界代替率逓減の実験が紹介されています。これは、紙とはさみとテープで実際にリングとスマイルを作らせて理論を確認するというものです。家計では、需要曲線の導出と弾力性の計算をさせる実験です。この箇所、両者とも手順は書かれていますが、学生さんがどんな結果をだし、それが本当に確認されたかは書かれていません。教科書だから仕方がないはいえ、気になるところです。

 それに対して、川越さんが執筆している部分では、すべてではありませんが、情報の経済学の箇所や共有地の悲劇の箇所などは、実験の予測、実験成果、その考察がしっかり書かれているので、本当に学生さんを使った実験を踏まえて書かれていることがわかります。

 この種の共同著作は、やはり執筆者によってもまた、扱う領域によっても実験の質が異なり、すべてに実験を入れながら講義をするのはかなり難しいことがわかります。

 私たち現場の人間にとっては、このなかから中高生にも使える実験を探し出し、使えるところは使うという姿勢で読む、ないし、ハンドブック代わりに使うことが出来できそうな本です。

 次は、二冊を対比させて紹介します。一冊は、飯田泰之さんの『飯田のミクロ』(光文社新書)、もう一冊は小島寛之さんの『経済学の思考法』(講談社現代新書)です。

 なぜ対比させるかと言うと、両方とも経済学の思考法、その射程距離を問題にしている入門書であるけれど、読者対象の違いが記述や論理のスタイルに表れていて、興味深いからです。

 『飯田のミクロ』は、飯田さんが財務省高等研修部で行った講義(地方財務局から派遣された実務家対象)を基に書かれています。小島さんの本は、帝京大学の「入門ミクロ経済学」(多分大学2年生くらいを対象とした必修講義)を基にして書かれています。つまり、飯田本は大人向けの経済学入門書、小島本は若い人、それも経済学学習のインセンティブがほとんどないであろう大学生たちを対象とした若者向けの入門書なのです。

 小島さんは言います。「古くさいくせに無駄に難しく、学生たちの将来に何も足しにもならない経済学の講義をしたくなくて、試行錯誤しながら新しい教授法を模索した」と、現代経済学の発想法や教授法を批判します。

 飯田さんは言います。「本来的な意味での一般教養の経済学を学びに来ている」大人相手に「経済学の基本的論理を明確にし、論理をひとつひとつ積みあげることで経済学の全体像を説明」した本であると。

 かなり対照的ですが、別にお互いを批判し合っているわけではありません。位相が違うのです。ですから、持ち味が全く違います。小島さんの本は、先ほど紹介した川越さんのゲーム理論の本に近い内容と書きぶりです。それに対して、飯田さんの本は、本格的ミクロ経済学の構成をとっています。経済学の前提となる仮説、そこからでてくる需要供給曲線の導出、市場競争と効率性、市場の失敗の問題が論路的に丁寧に説かれます。
ただし、小島さんは、経済学は「現実分析として無力に近い」と言います。それに対して、飯田さんは、一般的にそんなことをいうより、個別理論で使えるところと使えないところをしっかり経済学の前提条件や特色から分別することが大事と言います。その例として、「余剰分析の使い道」という箇所では、余剰分析は体制選択のような大きな分野では前提条件の縛りがきつすぎて使えないが、個別市場の動向分析、政策提言には有効性があると指摘します。

 これらの食い違いは、先ほども言いましたが、要するに位相の違いです。それを踏まえて、使えるところを使うというのが、現場の感覚でしょう。小島本では、オークションの部分や東京部会で宮尾先生が紹介されたようなマッチング理論などが使える例です。その点では、私たちは、中学高校生を対象として経済を教えていますから、小島本の方が使える部分はおおいかもしれません。飯田本では、第一章の出発点から考える経済学の部分をしっかり読むことで、経済学の発想法の特徴がつかめるでしょう。ここは直接生徒に教える部分ではありませんが、まさに主流派経済学がよって立つところの前提が書かれていますから、直接役立つ以上に重要な箇所と言えるでしょう。

 数学に対する考え方も、小島本と飯田本では対照的ですが、このあたりも吟味しながら読み進むとおもしろいかもしれません。先生方の関心に応じて比較しながら読まれるとよい二冊です。

 最後に紹介するのは、猪木武徳先生、ここではさんでは少々恐れ多いので先生を使わせてもらいます、の『経済学には何ができるか』(中公新書)です。

 最初に個人的な感想を言ってしまえば、この本に出あえて、今回はとてもよかったと思っています。おすすめとしてはぴか一です。

 猪木先生は、前著『戦後国際経済史』でもそうでしたが、本書でも、現実のリアルな問題をしっかり受け止めたうえで、それを性急に読み解くのではなく、幅広い人間理解や中庸の精神で一度受け止めたうえで、経済学の文脈におとして説いてゆく姿勢を貫いています。

 この本は、青山学院大学国際政経学部の特殊講義と日経新聞の経済教室に掲載された文章をもとに構成されています。前項の小島本、飯田本の丁度中間を行く本と位置付けてもよいかもしれません。

 前書きで、猪木先生は言います。「われわれの知的遺産としての経済学は一般に評価される以上に大きい」と。また、「経済学は無力だ、という皮相な批判が語られる昨今、できるかぎり偏りのない視点で、経済学によりつつ経済社会の制度や慣行の意味を考える手がかりなればよい」と。さらに、「人々の間における価値の相克と分裂、そして一人の人間の内部での価値の相克と分裂、この双方を意識しながら、経済社会の制度や慣行を学びなおす材料を提供すること」とも。

 この部分を紹介すれば、あとは皆さんがご自分で手に取ってじっくり昧読吟味すればよいと思います。取り上げられているテーマは、ギリシャ危機から税と国債、中央銀行の責任、貨幣とインフレ、不確実性と投資、失業と貧困、格差問題、学問の自由と知的独占、消費の外部性、中間組織の問題、分配の正義と交換の正義、経済的厚生と幸福です。TPPも取り上げられています。

 猪木先生はまた、「そろそろ経済学から引退しようとするものは、知的廉直さをもって、その価値を冷静に判断できるのではないだろうか」と書いています。碩学だからこそ言える言葉なのでしょうが、本当はすべての学問関係者が知的廉直さと価値への冷静な判断が必要ではないかとひそかに思っています。

 今回は以上5冊を紹介しました。次回は、100回目。何を書くべきか、知的廉直さも冷静な判断もできない一次リタイア人間としては悩むところです。



行動経済学―クラスでの実験:手順と注意事項 投稿者:TM 投稿日:2012/10/24(Wed) 00:39 No.533

行動経済学ークラスでの実験:手順と注意事項

先に投稿した「行動経済学ークラスでの実験」について、これをクラスで実験される場合、以下のような手順で行うとうまくいくと思います。

1)以下のメモ用紙を生徒たちに配って、ステップ3まで終えたら回収する。
無記名でいいが、学籍(ID)番号の下3桁を書かせるので、知りたければ誰の答えかはすぐ分かる。
なお、教師は以下に書いてある文章を読むだけで、それ以外のこと(特に数字)は何も言わないように注意する。
-------------------------------------------------------
ステップ1:自分の学籍(ID)番号の下3桁を下に書き込みなさい。
     _ _ _ 円

ステップ2:これから見せる商品の値段が、上のステップ1で示された数字に等しい場合、その商品を買いますか(ここで生徒たちに商品を見せる)。
     (  )はい   (  )いいえ
ステップ3:それでは現実に、この商品を最高限度いくらまでの値段なら支払って買いたいと思いますか。実際の値段がそれよりも安ければ買うが、それより少しでも高ければ買わないというぎりぎりの値段を、以下に書きなさい。
     _ _ _ 円
------------------------------------------------------

2)以上のメモを回収して、生徒の前で集計して発表する前に、何をめざしている実験かを説明する。
例えば、以下のような説明を行う。
「これは、人間の行動が常に合理的とは限らず非合理な場合があるが、その非合理さの方向や程度がある程度予想できることを示す実験で、今やった実験のステップ1とステップ3は関連しており(ステップ2は意味のない質問)、平均すると、ステップ1で与えられた数字が大きければ大きいほど、ステップ3の最大限払ってもいいと思う額も大きくなる傾向がある。つまり、ランダムに与えられた数字がアンカーとなって、その後の選択に影響を及ぼす可能性が高い。今回、はたしてそうなるかどうか見てみよう」

3)実際の実験結果の例(これを黒板か白板に書き出して生徒たちに見せる):

学生...ID番号.最大限度支払額....学生...ID番号.最大限度支払額
(1).........132...........150.....................(9)........ 574..........1,500
(2).........181...........300.....................(10).......590.............400
(3).........300...........400.....................(11).......628..........1,000
(4).........301........1,100.....................(12).......694..........1,500
(5).........318...........210.....................(13).......697..........1,200
(6).........425...........450.....................(14).......754.............450
(7).........433...........420.....................(15).......834.............300
(8).........454...........500

4)以下のような結論を述べる:
うまくいった場合:「実際に、平均するとID番号が大きくなればなるほど、最大限払ってもいいと思う額も大きくなる傾向があるようにみえます」
うまくいかなかった場合:「今回はあまりうまくいきませんでしたが、これはサンプル数が小さく、1度だけの実験だからです。もしより人数が多いグループに何回かこの実験を行えば、傾向として、ID番号が大きくなるほど、最大限払ってもいいと思う額も大きくなるはずです」
以上
(宮尾)
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