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行動経済学―クラスでの実験 投稿者:TM 投稿日:2012/10/21(Sun) 07:40 No.532

行動経済学 – クラスでの実験(実施日: 10/18/2012)

場所:国際教養大学(秋田県)
コース:グローバルビジネス課程(学部)、ECN322 「グローバル化の経済学」

アンカー効果(Anchoring effect)に関するクラスでの実験:
経済学では通常「合理的」な個人が想定され、例えば消費者はある物から得る満足度や、それに対して最大限支払ってもいいとする額(その消費者の需要曲線の縦の高さ)などを自分で知っていて、それに基づいて自由な選択行為を行うとされている。
しかし現実には、人間の選択行為は色々な事柄に思わぬ影響を受けており、例えば選択を行う直前に、それが選択と無関係なものであっても見聞きした情報によって、選択結果が違ってくる場合が多い。
この事実を学生に実感させるように工夫された実験は以下の通り:

ステップ1:
クラスで学生たちに、自分のID(学籍)番号の最後の3桁を紙に書かせて、その額(円)が次のステップで提示される物を買うのに使える額であると説明する。
ステップ2:
ある物(値段が分かりづらいアイデア商品など)を学生たちに示して、それを学生たちがステップ1で与えられた額(円)を払って買いたいかどうか尋ねる。
ステップ3:
以上のステップ1での数字やステップ2の答えとは関係なく、学生たちに自分の選好に従って、その物に対して最大限いくらまでならばお金を払って買いたいと思うかを尋ねる。

予想される結果:
ステップ1とステップ3は関連しており(ステップ2は意味のない質問)、平均すると、ステップ1で与えられた数字が大きければ大きいほど、ステップ3の最大限払ってもいいと思う額も大きくなる傾向がある。つまり、ランダムに与えられた数字がその後の選択に影響を及ぼす可能性が高い。

クラスでの実験結果:
学生.ID番号.最大限支払額..学生.ID番号.最大限支払額
(1)..132.....150......(9)...574...1,500
(2)..181.....300......(10)..590.....400
(3)..300.....400......(11)..628...1,000
(4)..301...1,100......(12)..694...1,500
(5)..318.....210......(13)..697...1,200
(6)..425.....450......(14)..754.....450
(7)..433.....420......(15)..834.....300
(8)..454.....500

結論:
実際に、アンカー効果によって、平均するとID番号が大きくなればなるほど、最大限払ってもいいと思う額も大きくなる傾向があるようにみえる。つまり、人間は経済学でよく想定されるように常に「合理的」ではなく、一定のバイアスをもって「非合理」な行動をとる可能性があることが分る。
この一定のバイアスの方向や大きさを、経験則として知ることによって、それを政策や経営に活かすことができるかもしれない。
なお、「アンカー効果」(Anchoring effect)については、どの「行動経済学」の解説書にも書かれているので参照されたい。
(宮尾)



授業で役立つ本 98回 投稿者:新井 明 投稿日:2012/09/19(Wed) 21:34 No.529

 9月も半ば、日中間がぎくしゃくし、ナショナリズムの嵐が猛威を振るっています。こんな時こそ、冷静な経済の目が必要ではないかと思いつつ、本を読んでいます。今回も日記風にこの間読んだ本を紹介します。

9月某日
 授業開始。勤務校は9月の最初の一週間授業をやり、そのあとは行事週間として体育祭、文化祭を集中してやってしまうスタイルなので今週は貴重な授業時間である。休み明けの頭の体操で、今週は宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』のアニメを見ながら、仏教について語る。生徒の感想、「アニメはいいけれど、賢治が何が言いたいかよくわからない」。それでいいのだ。分からないことが分からないということが分かれば十分と答えたが、そんな授業でいいのかなあ。ともかく、釈迦の仏教は究極のニヒリズム、欲望の消滅をテーマにしているが、賢治の菩薩行はかなりラディカルであり、その落差は結構大きいかと感じる。

 賢治のわからなさを考えたいと、吉本隆明『宮沢賢治の世界』(ちくま叢書)を購入。これは吉本さんの賢治に関する講演を集めた本で、わかりやすい。賢治と法華経の関係も整理されている。それにしても、わからなくても何かを感じた作家を一生追求していた吉本さんはさすがだと改めて思う。

9月某日
 いじめ自殺がこのところずーと話題になっている。時々よる古本屋で手に入れた中島義道さんのエッセイと佐伯一麦さんの小説(一冊200円×2=400円)に期せずしていじめの話が出ていて、この種の問題は永遠の課題なのかと思う。

 中島さんの『人生に生きる価値はない』(新潮文庫)では、2007年1月の日付の文章で「いじめの本当の原因」は「日本的集団主義」であると私たちのメンタリティを断罪する。そして、私たちは「みんなと一緒主義」を本気で切り崩す気がないのだから日本型いじめの撲滅は無理と診断している。佐伯さんの『遠き山に日は落ちて』(集英社文庫)という小説が最初に刊行されたのは1996年。書かれたのはもっと前ということだろう。そこでは、学校でいじめにあい登校拒否になった中学生の家庭教師をしている主人公の奥さんの話がでてくる。実は賢治の『銀河鉄道の夜』のなかでもジョバンニは級友からいじめられている。

 最初にも触れたが、いじめは、永遠の課題だと感じる。そのなかで、教員ができることやってはいけないことなどを学ぶのも読書の効用である。今日は400円をはるかに超える収穫。

9月某日 
 文化祭。勤務校では創作展といっている。後期生(高校生)は全クラスが演劇をやる伝統が高校時代からあり、それが継承された。すべての後期生を教えているので全クラスを見なければいけないのだが、それは無理なので、3年生と今教えている1年生をできるだけ見る。さすが、連続して生徒の演劇を見るのは疲れるが、生徒が何に感じているか、その価値観のようなものが見えるのは面白い。

 結論は、軽い喜劇でかつ何らかの感激があるもの、教訓的なものが好まれるというのが共通項のようだ。
演技が上手なのは運動部の男子。これは一発芸を強要されるからではと思う。なかなかの役者が多い。反対にボケ役を演じるおとなしいタイプもいる。これってひょとすると役を押し付けられたのとおもうところもあるが、意外といい味を出している。中島流みんなと同じ主義のなかで、生き延びるための戦略の一つか。勝気な女子生徒はリアルで怖い。

 授業だけではわからない生徒の側面を見ることができる貴重なチャンスであったが、中島さんタイプの生徒には、青春の強要のこの時期は、つらい時期だろうなとも思う。

9月某日
 行事週間の代休で二日間のお休み。こんな時こそ、たまった本を読み通している。この休みは4冊の新書を読んだ。ひとつは、若田部昌澄・栗原雄一郎『本当の経済の話をしよう』ちくま新書である。結論から言えば、この本が今回のぴか一のおすすめ本である。

 前書きが面白い。『やばい経済学』と『経済ってそういうことだったのか会議』を超える本をねらうという栗原さんの発言に「あのくらいぱーっと派手に売れるといいですよねー、あっはっは」と答える若田部さん。でも、残念ながらぱっと派手にはうれないだろう。うれなくとも、しっかりした本であることは事実。全体はオリエンテーション+5部にわかれている。オリエンテーションでは、四つのヒントで考えるとして、インセンティブ、トレード・オフ、トレード、マネーの経済学のキー概念が紹介される。キー概念がこの四つでいいのかは議論の余地ありだが、このように基本概念をベースにして、そこから問題を考えようと言う姿勢は大事である。

 次の五つの章はそれぞれ4つの講にわかれて、対話方式で話が進む。インセンティブでは、その重要さとダークサイドも扱われる。夏の経済教室の中川先生の講義で紹介されたカプランなども登場する。事例としてはすもうの八百長などにも言及。

 トレード・オフでは、サンデルが俎上に上る。サンデルは日本で受けた理由など興味深い裏話なども紹介されている。事例としては東電の値上げ、エネルギー問題、財政問題などがここで扱われる。

 トレードに関してはTPPがメインで扱われる。もちろん賛成派としての議論だが、反対派の著作をリサーチしながら批判を加えてゆくので、全体の議論の鳥瞰を得るのに良いだろう。また、比較優位の意味、貿易収支の誤解などもしっかり説明してあるのでその部分も役立つはず。

 マネーは、リフレ派の若田部さんの真骨頂の箇所である。天下の周りものか諸悪の根源かとサブタイトルが打たれているが、両方の側面をみることで重要性がよりはっきりでるだろう。ここでは、日銀の政策は一講分しか扱われていないが、国際金融のトリレンマやユーロ問題など幅広く扱われているので、ここも全体を見るのに都合がよい。

 最後は、幸福の問題、格差の問題などが扱われる。あなたはブータンに住みたいかという見出しは、これも夏の経済教室の大竹先生の講演と比較しながら読んでゆくとよいと思われる。全体として、日銀の政策への評価は別としても経済学の基本を踏まえて、まさに「本当の」話になっていると感心した。

 若田部・栗原さんの本に対して、残り三冊は経済学への批判本と言ってよい。
 経済学者の本では、佐伯啓思『経済学の犯罪』講談社現代新書、を読む。
 佐伯さんは保守派の論客であるが、この本は経済と経済学批判の本とご本人も言っているが、経済学史を踏まえた論考と言える。ただ、結論は簡単で、現在の希少性を原理とした経済学は効率追求の価値観を選択させるように強要するが、脱工業化社会になった現在の日本では、それは通用しない。

 経済学は希少性の経済学から過剰性の経済学に転換すべきであり、その根底には、反グローバリズム、戦略的に内向きになること、文化として日本の価値をもう一度取り戻すことが重要という。これは若田部・栗原本とは全く正反対の結論である。

 佐伯本でも、金融、市場、幸福などが扱われるが、主流派経済学ではすべて解決できないというのが佐伯さんのご宣託である。佐伯さんは私と同じ年齢なのだが、経済学批判派よいとして、最後の日本の価値というところは、何を原像としてそれを言うのかが見えず、軽いなあと思わざるを得ない。これは先にふれた吉本隆明が「大衆の原像」という言葉を使ったことと対比すると、やはり佐伯さんの言に共感はわかない。経済学への批判は十分にわかりつつ、「涙を流しながら」それを滑る覚悟の方が今は必要かと思ったりする。このあたりは同世代故の近親憎悪かもしれない。

 のこり二冊は、橋本治『その未来はどうなるの』集英社新書と、小熊英二『社会を変えるには』講談社現代新書である。
 橋本さんの本は、同じ集英社新書の『わからないという方法』以来の、ぐねぐねエッセイである。結論は、無私とか無私の精神が大事というだが、扱ったテーマがテレビ、ドラマなど身近なところからはじまり、TPPや経済も扱われているので面白く読める。

 ただし、TPPと経済はちょっといただけない。実感はわかるけれど、経済の基本の理解が間違っているからなのだ。例えば、貿易。「貿易は二国間で行うものですから、この輸出で得をする国と輸入で得をする国同じではありません」と橋本さんは書く。こう書かれると、あとがどんなにおもしろくとも説得力に欠けてしまう。橋本さんは、リーマンショックの前に、このバブルはおかしいと実感で言っていた人なので、その直感はかなり信頼に足りるのだが、臥龍点睛を欠くというのであろうか。

 それに対して、小熊さんの本は新書にしては500頁を超える大作。小熊さんの本はほかでも長すぎるというのが欠点であるが、この本ももっとコンパクトに書けるはずだが、まあこのくらいなら許容範囲か。

 小熊さんの結論も、現代はポスト工業化社会であり、そこにおける新しい社会をつくる社会運動は新しい形態、例えば脱原発デモのような楽しい運動で行うことが必要だということである。その論証のために、デカルトからはじまる近代哲学、社会学の考え方やその思想展開、運動論では学生運動などまで振り返るから膨大になってしまう。

 そのなかで経済学に関しては、物理学をまねてつくられた経済学では、常に情報を集め合理的に行動するホモエコノミクスを想定して理論が構築されていて、それは現実には当てはまらないという箇所が、近代の思考の産物と指摘して面白く役立つ。小熊さんが指摘している経済学批判は、佐伯さんもしていて同じであるが、佐伯さんが日本的価値に回帰するのに対して、小熊さんが楽しく対話と運動をやろうというのが世代差を感じさせて考えさせられる。

 小熊さんは、この本を教科書にしないでほしい、結論だけを紹介しないで討論の素材としてほしいと書いている。その言や良しである。この役立つ本の紹介も、なんらの素材となればいいなと思っている。

9月某日
 東京は久しぶりの本格的降雨。行事は終わった。わたしだったら、さあ働こうになるのだろう。生徒はさあ勉強しようになるかな。



Re: 授業で役立つ本 98回 新井 明 - 2012/10/08(Mon) 21:08 No.530

補足です。

 若田部さんは、紹介した『本当の経済の話をしよう』にひと月遅れで、『もうダマされないための経済学講義』という新書を光文社新書から発行しました。前著が対談本でわかりやすく語っていますが、後者の本はセミナーでの講義に加筆したもので、ちょうどうらと表の関係になっています。
 この本も、インセンティブ、トレードオフ、トレード、マネーの四つの概念を中心に、経済学の考え方と経済学の歴史を踏まえて語り口はやさしく、内容はしっかり書かれた本です。特に、マネーに関してはかなり力点を置いて書いています。特徴的なのは、金解禁を扱った箇所で、城山三郎さんの『男子の本懐』に出てくる井上準之助の政策はまちがっていたとしている個所です。それに対して、高橋是清を高く評価しています。したがって、城山三郎さんの解釈も違っていると指摘しています。
 このあたりは、以前紹介した杉山伸也さんの『日本経済史』の金解禁評価とはかなりことなっています。一つの歴史的事象にかんしても解釈の対立があるのはあたりまえで、どちらの解釈が正しいかはもっと専門家の議論が必要かと感じました。
 その点から言えば、本のタイトルに「本当」とか「だまされない」という言葉を使っていますが、まあ販売上はそれでもよいのかもしれませんが、内容がしっかりしているのに、ちょっとゆきすぎかなと感じられないこともありません。
 評価はみなさんが手に取って読まれて判断してみてください。 



授業で役立つ本 97回 投稿者:新井 明 投稿日:2012/08/30(Thu) 21:50 No.528

 夏の経済教室が無事終了しました。この間は、新しい本はほとんど読めず。授業準備に再読した何冊かの本以外に本は読んでいないのが実情です。その点では、役立つ本が紹介できないという事態になっています。とはいえ、退職教員がどんな夏休みを過ごしたかの記録として、日記風にこの間の読書記録を掲載させてもらいます。

7月某日
 夏休みがはじまる。クラブ合宿にでかけるところもある。クラブ指導をやらなくてよいので少し本格的な本を読むことができる。今年の休みは、杉山伸一さんの『日本経済史』(岩波書店)に挑戦。全体が4部28章からなるので、一日1から2章を読んでゆけば、ほぼ半月で読了の予定。
 序章で全体の構想が書かれている。それによると、岩波版の『日本経済史』がそれまでの研究水準を飛躍的に上げたとのこと。その成果を踏まえて、四つの視点で近現代の経済史を通観するというのがこの本のみそとなる。四つは、@対外関係(空間軸)と国内の経済成長(長期の時間軸)の二つから考察すること、A連続性と断絶性の二つから歴史をみること、B国際収支と財政収支の二つから経済の成長を分析すること、C市場形成における政府と民間の関係に注目すること、である。
 この本の特色は、Bの観点を軸としているところと感じる。産業論的な視角を強調する橋本寿朗さんの本などと比較をしながら読むとより立体的になるかと感じる。
 通読しながら感じたのは、よくまとまっているということである。慶応義塾大学の講義をもとにして書き下ろされているのである意味当然であるが、一つの標準になるであろうとの感じをもった。もうひとつは、通説を結構否定しているところが多いことに気付く。例えば、幕末の金貨流出の額や評価は、それほど多くないし、金銀比価の違いで流出した時期は1か月半であり、流出の原因は幕末の貿易収支が輸出超過であったからである、という指摘などがそれである。
 金解禁前後の金融政策の評価に関しては、高橋是清にやや厳しい評価をしている。一時、『男子の本懐』で井上準之助が持ち上げられ、その反動もあり、高橋是清の評価が高まるというシーソー現象が見られるが、高橋の「大きな政府」論と井上の「小さな政府」論を対比させながら、高橋が金解禁の時期を逸したことなどにも触れつつ、バランスのとれた評価をしている。
 ここではこれ以上は紹介できないが、少なくとも戦前までは、読みでがあった。ただし、第四部の戦後経済史の箇所は、特に強い印象がないのが残念。失われた20年は、失った20年であるとして政策の失敗を書くのであるが、このあたりになると、ではどんな政策があってそれが政治情勢や国際情勢のなかでどう意思決定をしながらこうなったのか、については細かい分析がなされているわけではないので、説得力が弱くなっている。経済史の本であるがゆえの制約かとも思う。とはいえ、デフレや財政危機を徳川時代から通観できるのは経済史ならではのメリットである。
 この本の最大の難点は、とにかく厚い本なので、持ち運びに不便なこと。読むのも大変。分冊にするなどの工夫も欲しいところ。でも、分冊にしたら下巻は売れないだろうが、仕方がないか。

8月某日
 夏の教室がはじまり、広島にでかける。二泊せざるをえないので本を持参。持参した本はお経の本とその解説本。お経は「法華経」(岩波文庫)である。二学期から仏教、儒教と東洋思想の授業をやらなければいけないので、その準備もかねてである。以前、トマスアクイナスを新幹線で読んだ話を書いたが、今回はお経である。
 法華経は文庫本で三冊もあるのでさしあたりは1巻だけ持参したが、これがとてもおもしろい。文庫の構成が、まずサンスクリット語からの日本語訳があり、そのあとに漢訳とその読み下しを掲げる形になっているので、ストーリーや内容が良く分かるのである。ただし、それがどんな意味をもつのかは原文だけでもわからないので、中公新書版の田村芳郎『法華経』を持参したというわけである。
 日蓮宗では、法華経を最高法典としているが、要は釈迦の入滅後、大乗仏教派で、さまざまな仏典が創作されたその一つである。とはいえ、釈迦の仏教が一種の倫理学説であるのに対して、大乗仏典は世界の成り立ちがとかれ、存在の意味が説かれるという点で宗教哲学になっていることが特徴である。特に法華経はスケールや考え方が釈迦の原始仏教とは似て非なるものまで大きくなっているのが特徴ということが、原文を読んでいるとよくわかる。また、大乗のマニフェストであるなあということも、原文で理解できる。
 経済との関連でいえば、苦の原因は欲望であるというのが仏教の基本的な考え方。これは希少性発生の原因でもある。だから、欲望を正しい修行で減らせばよいということになるが、そんなことができるかどうか。欲望を最大限に刺激するようなマーケッティングが行われている現代では、だから仏教的な考えが必要という論理もなりたつし、そんなことは市場経済の社会ではしょせん無理という論理もなりたつ。さて、私たちはどちらに進むべきか。
 そんなことをホテルの狭い部屋で考えながら、本を読むのも一興である。

8月某日
 日本弁護士連合会主催の「裁判甲子園」に生徒が出場するので、付き添いで朝からでかける。実際の事件から作った事例をもとに、検察側と弁護側にわかれて、論証を競うというかなり本格的な裁判シミュレーションのコンテストである。
 今年で6回目であるが、そのうち4回に出場している。なかなか上位には食い込めないが、審査員特別賞というものを昨年に引き続き頂くことができた。
 法教育と経済教育の対話が必要というのが、ネットワークからの問題提起であるが、この主のコンテストでも刑事事件だけでなく、民事事件を取り入れたら経済的な観点が必要なことがわかりよいのではと思ったりする。

8月某日
 夏の教室のために大阪、名古屋へ。3泊4日の旅となるので、何を持参するか迷う。お経ばかりでは抹香くさくなるので、今回は趣向をかえ、興津要『古典落語』(講談社学術文庫)と桂枝雀『桂枝雀のらくご案内』(ちくま文庫)を持参。
 このごろ、落語を聞くこと(だいたいYou tubeで見ること)が多い。特に、ちょっとうんざりしたときなど、気分転換に聞く。息子が大阪の女性と結婚したこともあり、最近は上方落語を聞くことが多い。なかでも、桂枝雀が面白い。枝雀さんは99年になくなっているが、文庫本では二冊の「理論書」と全集がでている。
 興津さんの本は、江戸落語を中心にした有名な話を集め、解説した本で、昔は講談社文庫で出ていたものが復刻されたもの。古典落語はよんでいて笑うというより、なぜこれがおかしいのか考えなければいけないので結構大変。でも、有名どころをしっかり読むことができるので有難い。
 ホテルではインターネットの接続ができたので、早速、枝雀の「地獄八景亡者戯」を見る。これは、枝雀の師である米朝師が復活したものを枝雀さんも演じているものである。長い話であるが、枝雀さんは熱演。途中、話を忘れ、観客が助けるシーンなどもあり、テレビ寄席であるが、雰囲気が良く出ている。
 ちなみに、落語と経済でいえば、「千両みかん」という作品は、どうしても夏にみかんが欲しいという豪商がみかんを千両で買ったという話で、希少なものだとどれだけの値段が付くかという経済の原点を考える教材で使えるはず。あわせて、江戸や大阪の庶民の生活を知るためにも役立つと思うがいかが。

8月某日
 夏の教室の前半が終了。すこし時間が取れたので、学校の帰りに神田により久しぶりに本を購入。
 経済書にあまり食指が沸かず、シーナ・アイエンガーの『意思決定の科学』(文藝春秋社)という本を購入。この本、出たときにどうしようかと迷った本だったが、一年たってNHKで取り上げられたりして一部では話題になっていたので、購入を決心。これも意思決定である。
 内容は、カナダで生まれた、インドのシーク教徒の子どもである筆者の体験と研究から生まれた選択に関する社会心理学的な実験、調査、研究が一般向けにかかれたものである。シーク教徒という制約や、高校三年の時には全盲になるというハンディのなかで、研究をつづけた記録でもある。
 経済は選択であるというのが私の経済教育の原点なのだが、本書は、社会心理学的な実験が中心で、経済的選択は正面切って取り上げられているわけではないが、ジャムの実験として有名な事例や、自由恋愛での結婚と親族と宗教によって決められた結婚とどちらが幸福かなど、興味深い事例が多い。
 心理学と経済学を統合しようとする行動経済学も広がりをみせているなかで、なかなか読みでがある本であった。「現代社会」で家族や消費者問題や経済的選択におけるバイアスなどを扱う時には役立つ本だと感じた。
 同じ著者の『選択日記』という記入式の本も販売されていたので買ってしまったが、これははずれ。教師が自分で工夫して選択のプロセスを「外に出す」メソッドを考えればよいのであり、筆者のスタイルをここまで真似する必要なしと判断。980円は高い授業料であった。

8月某日
 夏の教室東京高校が終了。二日間8つの講義という超重量級のプログラムだったが、160人を超える先生方が熱心に受講。
 この間、2学期の授業準備もかねて今度は儒教の本を読み出す。論語や孟子を読んだりするのだが、どうしてもこころに引っかかるものがない。こんな状態でどんな授業ができるか不安。
 「現代社会」のときで扱わなければいけない時は、国語でやるからということで飛ばしてきたところ。でも、「倫理」をおしえるのは最後になるだろうからということで一念発起したが、付け焼刃では歯が立たないということかもしれない。
 それでも、最近は『論語』に関する新書本が何冊もでていて、ちょっと興味深い。岩波新書では井波律子『論語入門』、中公新書では湯浅邦弘『論語』、ちくま新書では、安富歩『生きるための論語』など。それらを読んでも、授業のイメージがわかなかったのだが、偶然に手にした、加地伸行『沈黙の宗教』(ちくま学術文庫)、『儒教とは何か』(中公新書)の二冊が胸にすとんと落ちた。
 加地さんの本は、儒教は沈黙の宗教であり、日本人の精神に儒教の宗教的側面がひそかに入っているという。それが招魂再生の儀礼として、お盆やお彼岸、お墓、遺骨への思いなどに現れているという。それと孔子や孟子の授業とどう繋げるのかは、まだ考えなければいけない部分が多いが、古本屋で300円で入手した本がヒントを与えるということは、面白いものだと改めて思う。

8月某日
 夏の教室が終了する。全体で延べ1,000人を越えたので、ほっとする。
 本日は、前前任校で卒業させた生徒たちと10年ぶりに再会するクラス会が開かれる。会場に行く前に、本屋により英エコノミスト編集部『2050年の世界』(文藝春秋社)を入手し、ぱらぱら読む。
 この本、英エコノミストのライターたちが20のテーマで未来予測をしたものである。予測されている分野は、人口、病気、女性の機会などの人間関係領域、宗教、温暖化、戦争などの領域、新興市場、貧富の差などの経済領域、科学、情報技術などの科学領域の四つである。
 はじめにで書かれている編集長のダニエルフランクリンによると、過去を見ること、過去からのトレンドと断絶する予想を入れること、アジアに注目すること、明るい見通しで予測することの四つの立場で予測をしているという。それは、1970年に予測した内容、特に悲観的なものはほとんどあたらなかったという経験則からくるという。
 全体的な結論は、「2050年の世界は可能性に満ち溢れている」という。個別の予測はここでは触れないが、本当だとするとうれしい限りである。
 というのは、私は悲観論者で、2025年日本の底説をとっているので、それを否定する根拠のある楽観論が欲しかったことも理由である。
 この日あった卒業生が2025年には40歳近く、2050年は今の私と同じ歳になる。そのときの世界に幸あれである。とはいえ、このなかで日本はほんの少ししか扱われず、それも大幅な後退した国となっている。客観的には仕方ない部分も多いが、いかに現在の豊かさを成熟につなげるか、私たちの世代も含めて課題は大きいと感じる。
 クラス会では、40人中28名が参加。同業者になった3人を含め、おとなになった生徒たちと再会し、生徒の成長を確認。ただ、意外とタバコを吸う人間が多く、ちょっと意外。なにしろ、大竹先生によると「タバコをすう人間の幸福度は低い」そうであるから、ちょっぴり心配だなあ。

8月某日
 休みも残り少なくなったので、妻の慰労もかねて温泉にでも行こうとなった。それでどこにするかということで「そうだ福島へ行こう」ということで出かける。
 クルマで会津、中通り、浜通りと横断。海岸近くの泊まったホテルのまわりは、土台だけの家や門だけの家など津波の被害がいたるところに残っている。百聞は一見に如かずと言ってきたが、改めてそれを確認。
 こんなかんなで、本年の夏休みは終了。経済本は秋になって、少し涼しくなってから紹介したい。



SAHARA 投稿者:一樹慎吾 投稿日:2012/08/20(Mon) 14:57 No.527   HomePage

http://www.saharamarocain.net
このサイトはサハラ砂漠について紹介しているサイトです。
サハラ砂漠というのは、環境破壊の象徴的なものになっています。
サハラ砂漠を知ることで環境の事を考えましょう。



パーサ・ダスブプタ 「1冊でわかる経済学」ー書評 投稿者:川上 敏和 投稿日:2012/07/30(Mon) 18:13 No.524

昨年度から、経済教育ネットワークでは「法と経済」の分野に関心が向けられており、加えて、最近では「倫理と経済」や「公正」といった事柄にも射程が広がってきているように感じる。それらのテーマに関して示唆に富む書籍を見付けたので紹介してみたい。

本書の著者は開発経済学が専門のパーサ ・ダスグプタである。目次を並べてみると、マクロ経済史、信頼、共同体、市場、制度としての科学と技術、家計と企業、持続可能な経済発展、社会的福祉と民主主義的な政府といった具合に、経済学の入門書としてはかなりユニークな章立てがなされている。私の勉強不足のせいかもしれないが、従来の経済学のカバーしてきた領域を大きく超えた記述が随所に見られるように思う。

本書の主要テーマの1つは、経済と制度の関係について解説することにある。制度というのは、一般にかなり広範囲なものを含む概念であるが、本書では議論の中心となる制度として、市場と共同体が選ばれている。具体的には、市場経済が確立し、豊かさを実現した社会の代表であるアメリカに住むベッキーと、主に共同体的な経済活動により営まれており、貧しさから抜け出せない社会の代表であるエチオピアに住むデスタという 2人の少女の生活を対比しながら、話は進められる。2つの柱となる制度に加えて、法律、社会規範、家族、企業、政府、科学といった制度を交えながら、「何故、貧困から抜け出せない社会があるのか」という問いに対する著者なりの解答が示される。

興味深いメッセージが多数見られるが、ここでは2点を挙げておきたい。1つ目は、経済活動に法律や社会規範がどのような役割を果たすかについての記述である。ベッキーの世界でも、デスタの世界でも法律と社会規範は存在し、それらは互いに補い合いながら経済活動を支えている。しかしながら、ベッキーの市場経済中心の世界が法律に大きな部分を支えられた社会運営を実現している一方で、デスタの共同体的な世界では社会規範に大きく頼らざるを得ない。社会規範で経済活動を維持するためには、長期的で固定的なメンバー同士での取引が主となる。規範から逸脱したものを社会のメンバー自身で罰する必要があるためである。そのため取引の機会は限定的となる。

一方、私有財産権の保護や契約に関する法律が上手く機能すると、市場での匿名的で 1回限りの取引が保証されるため、高度な分業が可能になり、取引の機会を大幅に増大させる。結果として、デスタの世界に比べて、ベッキーの世界では遥かに大きな富が生み出されることとなる。

2つ目は、いわゆる不平等に関する記述である。ここでも開発経済学者らしい独自の視点が記されている。よく、市場が持つ競争的側面が公平性を損なうという議論がなされる。それを理由にして、市場経済は批判されることがままある。いわゆる「平等と効率性のトレードオフ」と呼ばれる問題である。一方で、共同体における不平等は、外部の観察者の目には見えにくく、目立たないことが多い。けれども、貧困の状態における不平等は、たとえ小さくとも、より深刻で破滅的結果を導くと著者は指摘する。これらの2つの観点で示唆しているように、本書は盲目的に共同体を賛辞し、市場を卑下する態度に注意を喚起している。

共同体中心の社会あるいは貧困の問題は、日本の社会や経済とは無関係のように思えるかも知れない。しかし、それらと比較することにより、日本では当たり前のように成立していると思っていた制度の重要性が分かる。これだけでも本書を紐解く価値はあるのではないかと考える。




授業で役立つ本 96回 投稿者:新井 明 投稿日:2012/07/15(Sun) 17:55 No.521

 前回からひと月以上たってしまいました。この一か月は、いろいろな意味でこころ忙しく生きていたという感じです。それはさておき、役立つ本も100回をめどにそろそろラストスパートをかけたいと思います。
 今回は、日記スタイルでこの間読んだ本の駆け足での紹介をしてゆきます。ジャンルは経済書以外のものが圧倒的です。

 6月某日 中間テストの採点終了。最初から600字のエッセイを書かせるスタイルだったが、テーマを予告しておいたのでよく書けている。ただし、準備をしていたのを見せ合ったらしいものが散見される。要はコピペの高校生版。でも、だれかのものを写したものと自分で準備をしたものの差は明確。おもしろいものだ。

 6月某日 授業はいよいよ哲学に入る。まずは、映画版『ソフィーの世界』を通しで見せる。『ソフィーの世界』は、哲学者には評判は悪いが、最初に哲学史を学ぶには良くできた教材と思う。映画版は、ノルエー制作なのでかの地の中学の雰囲気などが分かり、その点でも活用ができる。主人公ソフィーの中学の先生がユニークで、良し。

 6月某日 本はプラトンやアリストテレスなど哲学書を読んでいる。40年近く前に購入していた中公の「世界の名著」シリーズが役立つ。なくなったものは、神田の古本屋の店頭などにある特売の棚で購入などもする。プラトンの「政治」はそれで読む。なんだか高校生の時代に戻った感覚である。

 6月某日 ホームにいる母に面会の帰りにDVDを購入。「トロイ」「薔薇の名前」「ブラッドダイヤモンド」の三本。前二者は、授業のイメージつくりのため。最後の一本は南北問題を扱うことがあったら参考になるかと思い購入。三本も買ったが見る時間があるかどうか。

 6月某日 まず「トロイ」を見て、ホメロスの『イリアス』と『オデュセイア』に挑戦。教科書には載っているけれど読んだことがない古典が一杯あり、それを征服するための試みである。全体のイメージをつかんでおいて、その上で原本を読むと古典の壁が突破しやすい。これは大成功。ホメロスの素晴らしさやなぜこれが2000年以上残るのかが原本で良くわかる。トロイの木馬の話は、直接にはホメロスの本では扱われていないなど、意外な発見がある。神々の生々しさというか人間臭さにも改めてびっくり。

 6月某日 「薔薇の名前」を見て、次はトマスアクイナスの『神学大全』に挑戦。これは例の40年前の中公本である。大部の本の冒頭部分のみの抄訳であるが、トマスの方法を知る意味で読む。ただし、抄訳でも全部読むことはできず。それでも何を対象にして、どんなスタイルで書いているかが分かるだけで単なる教科書の記号が、生々しく浮かび上がるのにこれもあらためて感心する。山田晶氏の解説が読ませる。

 6月某日 休業日なので、自宅で仕事をしようとしたらぎっくり腰になる。数日前、大阪へ日帰りで往復したことなどがあったからかと思う。それでも今回は動けるので、湿布薬と痛み止めを飲んでそろそろ動く。私の体調に合わせたのか、調子が悪かった家の電話器が完全にアウトになる。しかたがないので、痛い腰をかばいつつ電器屋にクルマででかける。

 6月某日 娘の結婚式で花嫁の父を演じる。本当は前日に仙台で学会があり、そちらにもゆきたかったのだがさすがに挙式の前日に家を空けるわけにもゆかず、世間並みの父としての役を担う。曇り空だったが、雨も降らず、ジューンブライドで、まあ良い式だったかなと思う。一つ肩の荷がおりた感じもする。

 6月某日 ぎっくり腰は完治しないが、なんとか日常生活は可能。学校の昼休みに近くの本屋に外出。新書を数冊仕入れてくる。今回は、大澤真幸『夢よりも深い覚醒へ』、柄谷行人『世界共和国へ』の二冊。ともに岩波新書。大澤、柄谷本は昔何冊か読んでちょっと違うなということで忌避していたのだが、哲学づいているついでで突然読んでみようと思い、衝動的に購入。新書なので空き時間と電車で読了。ともにマルクスを自分なりに読み込んでそれを手がかりにしているのが特徴。大澤本は、来年どこかの大学の現代文の問題にでてくるなという箇所がいくつかあった。授業でこれらをストレートに紹介はしないが、教える人間の問題意識としてはこの程度のものは読んでおきたいと思った。

 7月某日 はやくも7月。期末考査がはじまる。なんだかテストの間に授業をやっている感じであるが、区切りのテストをやらないと人間はだめになるというのが、我々の悲しいところである。今回も600字のエッセイを書かせる。テーマは「あなたは誰?」もしくは「世界はどこから来た?」である。これは『ソフィーの世界』の導入テーマである。

 7月某日 本日も昼休みに本屋へ。今日の購入本は、本田由紀『教育の職業的意義』ちくま新書、島田裕巳『金融恐慌とユダヤ・キリスト教』文春新書、木暮太一『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』星海社新書、の三冊。本田本を除くと比較的気軽に読める本である。この三冊共通点は何か。労働に関しての参考書を求めてである。7月の半ばに名古屋で先生をやっている卒業生に頼まれて、中学二年生向けに職業体験の前に働くことの意味に関する講話をやってくれと頼まれた準備のためである。本田本は、職業高校の意義を強調、島田本は宗教と経済の関係の簡単な見取り図を知るには手ごろ、小暮本はマルクスの剰余価値で労働力の価値を説明。講演に直接は役に立たないが、全体の見取り図を絶てる参考にはなる。

 7月某日 講演の準備で、猪木武徳『経済思想』岩波書店を再読する。第6章に「労働・知識・自由」があり、労働思想の展開を確認するために読み直す。再読して、名著だと再確認。この本はすでに紹介済みであるが、ぜひ皆さんも手に取ってみるとよいと思う。

 7月某日 頼まれた講演に名古屋へ。昼は新幹線のホームできしめん。これが人気で並んで食べた。以前立ち食いはいやと思い、うどん屋を探したがなかなか見つからず難儀をしたので、今回は立ち食い。それでも満足。
 講演は、90分。中学2年生200人が対象。カトリックの私立中学なので知的にはすぐれている生徒たちだが、さすがに午後の時間帯、うつらうつらする生徒もちらほら。寝かさないで頑張らせるために用意したのが10個のクイズ。全問正解者にはプレゼント(拙著)をあげるからとえさでつりながら、途中「囚人のディレンマゲーム」なども入れて話す。なんとか持った。後で聞いたら、先生方には好評だったとのこと。生徒はどうだろう。でも、しっかりメモを取りながら聞いていた生徒も多く、将来が楽しみな集団だと感じる。また、講演の内容でもふれたのだが、働くことの意味や倫理をキリスト教はしっかり持っているので、それに気づかせたことだけでも意味があるか。公立の学校ではそうはいかないのがちょっと残念。ちなみに、クイズの一つを紹介。「Q:中世の修道院では、どんなスローガンが掲げられていたか?A−@祈れ、そして祈れ A祈れ、そして働け B働け、そして働け」
 終了後、松原隆一郎『ケインズとハイエク』講談社現代新書、をぱらぱら見ながら帰宅。さすがに新幹線のなかでは読み切れなかった。どうしても近頃は経済学ではなく経済思想に傾斜してしまう。そういえば、同じ署名の本に間宮陽介本があるが、違いなどもあとで見ておこうと思う。

 7月某日 学校の出入りの本屋さんに注文しておいた、杉山伸也『日本経済史』岩波書店が届けられる。500頁3800円の本なので一割引きにしてもらえる本屋さんで購入。この本、慶應義塾大学経済学部の日本経済史の講義をもとにした教科書である。厚いので寝ながらや電車では読めないが、一人の著者が徳川時代から現代までを通して書いたと言う意味では力業の本である。国際収支と財政収支を基本的な指標として日本経済史を概観しているというこの本を夏休み中に読んでみようと計画している。やっと経済本らしい本に取り組む気になったところである。結果はまた紹介したい。



レタスを処分する農家の写真 投稿者:大竹文雄 投稿日:2012/06/15(Thu) 17:02 No.520

高校の政治・経済の教科書に「レタスを処分する農家の写真」が掲載されています。その経済学的な意味をコラムで説明しました。http://www.jcer.or.jp/column/otake/index.html 



オイコノミア 投稿者:大竹文雄 投稿日:2012/06/04(Mon) 19:19 No.519

4月からNHKのeテレで、「オイコノミア」という番組が毎週火曜日の夜11時30分~55分(再放送 土曜深夜24時10分~35分)に放送されています。人気お笑い芸人のピース・又吉さんと私を含む経済学者の対話で、経済学を分かりやすく伝える番組です。今まで「格差」「結婚」「給料」「保険」「オークション」というテーマで経済学の話をしてきました。おそらく授業でも役にたつ話が多いと思いますので、是非ご覧下さい。NHKオンデマンドでも見ることができると思います。



授業に役立つ本 95回 投稿者:新井 明 投稿日:2012/05/31(Thu) 20:49 No.518

 前回は、経済がきらいなのかもなどと不遜なことを書きました。今回は、少し反省して経済関係の本を二つ紹介します。

 一つは、地主・村山・加藤編著『現代アメリカ経済論』ミネルヴァ書房、です。もう一つは、おなじみサンデル教授の『それをお金で買いますか−市場主義の限界−』早川書房、です。

 まずは前者から。編者の地主先生は、ネットワークの総会で時事問題と経済のお話を伺ったことがあります。また、加藤一誠先生はご存知ネットワーク中心メンバーです。村山先生は同志社の先生です。
この本、シリーズ現代の世界経済の一巻として刊行されました。前身が2004年に刊行された『アメリカ経済論』という本で、その後の世界経済の変貌を踏まえて改定、新たに書き加えられた内容も加えて、新たな本として刊行されたものです。

 内容は、序章と四部で構成されています。第T部は、経済大国アメリカの基盤です。アメリカの地理的特色からはじまり資源、企業、法律、交通、技術が紹介されます。第U部は、20世紀以降の政治経済のあゆみと題された歴史記述です。ウイルソンからオバマ政権までが政府のサイズをキーワードとしてコンパクトに紹介されます。第V部は、マクロ・対外政策の展開です。金融、財政、貿易政策が取り上げられています。第W部は、現代の重要課題です。移民、医療、教育、環境の四つの課題が取り上げられています。

 生徒に課している論述スタイルで書けば、結論は、アメリカ経済の制度的枠組みを知るには便利かつ役立つ一冊だと思います。

 根拠は次の三つです。第一は、アメリカは身近で分かっているつもりになってるけれど、意外と知らないことが多いのですが、そんな知らないことをしっかり書いてあることです。例をあげると、第四章の反トラスト法。反トラスト裁判の事例が解説されますが、それ以前のアメリカの司法制度についてしっかり書かれているところがあります。コモンローとシビルローの違い、連邦裁判制度と州裁判制度の違いなど目からうろこのところがあります。法と経済学の世界では有名なポズナー判事が、シカゴのロースクールから転進したのは、自らの法理論を判決のかたちで実践するという紹介など、素人である現場の教員にとっては「ヘー」という感じです。そのようなアメリカ特有の制度の説明がいたるところにあります。

 第二は、アメリカ現代史がコンパクトにまとめられていることです。これは第U部、7章、8章が相当します。もちろん歴史書ではありませんから全てを網羅的に扱っているわけではありません。章のタイトルに表れているように「大きな政府へ」「小さな政府を経て新たな政府の役割へ」というように、政府の大きさの変化とそれをもたらした経済的変動を踏まえた記述はなかなか見事だと思います。

 第三は、アメリカの課題がかなり網羅的に取り上げられていることです。移民、医療、教育、環境が章立て部分ですが、それ以外の箇所でも制度の説明や政策の変遷のなかに現代アメリカが抱えている諸問題に言及されています。加藤先生が担当されている交通でも、コラムでは連邦道路予算と政治家で、いずこも同じ予算獲得と政治家の関係が取り上げられています。そのうえ、下院議員の行動と上院議員の行動のちがいなどまで説明されているのは大変親切です。
 もちろん、制度の説明だけでなくもう少し政策のダイナミズムの説明が欲しい気もしますが、それは望みすぎだろうと思います。
 ということで、この本、お薦め本です。

 次はサンデル教授の『それをお金で買いますか』です。これも3・3の法則流に書けば以下のようになります。

 結論は、お薦めではあるが、内容はそれほどでもないということです。ただし事例集としてはお薦めです。

 理由は以下の三点です。第一は、優れた点です。この本は、サンデル教授がこれまでに講義で扱ってきた経済と倫理の関係をまとめたものです。あとがきによると、オックスフォード大学での講義、BBCラジオの講義、本拠地のハーバードでの講義などが下敷きになっているとのことです。ハーバードの講義には、マンキューやポズナーなどがゲストで呼ばれて討論していとのことで、その意味では豪華、ぜいたくな講義といえます。サンデル教授は、学部生の段階から規範的経済学に関心をもってきたという。それが具体的な事例を通して十分に語られています。

 第二は、経済と倫理の関係についてのサンデル教授の見解が素直に書かれている本だからです。サブタイトルからもわかるように、サンデル教授は市場主義には批判的なスタンスをとっています。その見解は、序章の市場と道徳で明快に出ています。現代は市場主義勝利の時代となって、すべてが売り物になっているが、それは間違いであり、市場で売ってよいものと売ってはいけないものを区別する必要がある、それが成立しないと正義の社会にはならないというのがサンデル説です。いわばマイルドな反市場説といっても良いでしょう。それを、行列(1章)、インセンティブ(2章)、いかにして市場は道徳を締め出すのか(3章)、生と死を扱う市場(4章)、命名権(5章)と五つの具体例でやさしく説明します。それはまさにサンデルマジックです。

 第三は、批判点です。要は、市場批判としては常識的過ぎるという点です。リーマンショックにも関わらず市場への批判が深まらないのはなぜかという問いをサンデル教授はたてます。ぜひわたしもその理由を読みたいと思いました。ところが、結論は、市場の限界の議論を妨げているものが二つあり、一つは政府への批判と幻滅でありというものです。ティーパーティ運動とウオール街占拠運動が象徴する喧騒は同根であり、民主党と共和党の政党間の党派闘争は問題をそらす役割をしているというのです。もう一つ妨げているものとしてあげるのは、良き生という概念を公的言説から追放するようなマスコミの動きであるとします。それらを克服するには「われわれが考える社会的善の価値をはかる方法について、一緒になって公に考えること」が必要と言います。このくらいの結論だったら、ひょっとすると私でもできるかなというレベルです。うーん、サンデル教授は書きすぎかな。

 まとめです。ちょっと批判的言説を書きすぎましたが、取り上げられている事例は多く、教室で生と共に考える素材としてはきっと役立つでしょう。その意味では、経済倫理問題集として使うことは十分可能です。その際、日本にも当てはまる事例も多いので、命名権のような軽い問題から、生命倫理の厳しい問いまでのなかから生徒や授業の流れのなかでピックアップするとよいと思います。



書評:『パパ銀行のマネー哲学』(The First National... 投稿者:TM 投稿日:2012/05/16(Wed) 11:31 No.514

書評:『パパ銀行のマネー哲学』(The First National Bank of Dad)

翻訳書:『パパ銀行のマネー哲学』デービッド・オーウェン著、浅見昇吾訳(アンドリュース・プレス)、2002年
http://www.amazon.co.jp/dp/4901868012/ref=reader_auth_dp
原書:『The First National Bank of Dad』 by David Owen (Simon & Schuster, 2002, 2003, 2007)
http://www.amazon.com/The-First-National-Bank-Dad/dp/1416534253//

「子供にお金の価値をどう教えたらいいか」は、世界共通に親が抱く疑問で、おそらく結論は、親としてあまりできることはなく、実社会に出てから自ら学ぶ以外にないというものではないか。
この本は、著者が自分の子供に対して、できるだけ実社会の体験に近い経験をさせるための工夫をした興味深い本として、米国ではもう10年近く知られてきたもので、それが、金融危機もあったためかこのところ再び注目されている。例えばごく最近、以下の「EconTalk」のサイトや、ポッドキャストの放送で取り上げられたばかりである。
http://www.econtalk.org/archives/2012/05/owen_on_parenti.html

 この本から学ぶべき点は、自分の子供に限らず、学校で生徒に対して経済を教える際に、その生徒の生活実感のレベルに合わせた工夫をすることが、生徒に興味を持たせて自分から進んで学ぶようにするために重要ということである。

 まず冒頭で出てくるのが、子供に貯蓄の意味と大切さをどう体験させるかという問題で、よくある間違いは、親が銀行に子供の口座を作ってやって、そこに貯蓄するように説くことであるという。子供はそれが自分のお金でなく、親のお金なので、勝手におろせないし、貯金しても子供にとっては永遠の未来に等しい1年後まで待って、ほんの少ししかつかない利息には興味を示さないであろう。
 その代りに著者は、「パパ銀行」を開設して、その預金に月5%の利子をつけると子供に言って、後は子供にお小遣いの一部を自発的に貯蓄するように仕向けたところ、子供は非常に興味を示して、毎月ある程度の額を貯蓄するようになったとのこと。これが子供の金銭感覚に与えた影響は予想以上に大きく、例えば、子供は貯蓄をするためにお金を注意深く使うようになったこと、また利子が利子を呼ぶという複利の概念を教えなくても実感として理解できるようになったことなど、重要な効果が報告されている。

 以前、東京部会で、割引率の概念を理解できたのは、香港の生徒だけだったということが報告されたことがあったが、それは単に先生に教えられたのではなく、生活の実感でおぼえたのではないか。そのやり方に近いのが、この本での方法ではないかと思われる。

 さらに、著者は「パパ証券市場」を開設し、「パパ証券会社」が仲介して子供たちに株式に投資する訓練もしたことが書かれている。これも子供のレベルに合わせて、1ドルを1セント(つまり日本では100円を1円)とした架空ではあるが実際の株価と同じ動きをする株式を子供に提供するという試みである。会社は、子供に知っている商品(マクドナルドやコークなど)を売る会社に限定して、実際に自分のお金を「パパ証券取引所」で運用するというもの。もちろん、取引料や税金はない。
 ここでのポイントは、リスク分散や損切り、またリスク投資に回せる資金の割合などの重要性を自分の体験から学ばせることで、後に大人になってから株式市場のギャンブル性に惹かれて衝動的で非合理な行動をとるようになることを避けるということである。

 日本の学校でも、株式取引の実験やシミュレーションなどで似たような手法が使われていると思われるが、重要な点はあくまでその具体的なやり方というよりも、子供や生徒の日常の実感に近いレベルで、大人社会における制度の利用や取引のやり方を自分で体験されて学ばせるということにあるといえる。
 つまり、経済教育において、実際の制度や市場や政策などの意味と有用性を単に授業で説明するだけでは生徒は興味を示さず、自分で学ぼうとはしない。そのためには、実際の制度や市場や政策を、生徒の日常の体験や興味のレベルに合わせて修正した「模型」ないし「縮小版」を通じて体験して納得させ、自分から本物の経済に興味を示して学ぼうとする態度を養うことが重要である。その工夫(この本の場合は「パパ銀行」や「パパ証券取引所」の開設)が、経済教育を成功されるかどうかの分かれ目になるのではないだろうか。
(宮尾)

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