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授業に役立つ本 80回 投稿者:新井 明 投稿日:2011/06/15(Wed) 15:30 No.413

 このシリーズも80回になりました。目標100回としてあと二年くらいに達成できるといいな、などと思っていますが、どうなりますか。でも、目標を持つことは大事と、日ごろ生徒にも言っているので、まずは隗より始めよ、です。

 さて、今回は79回で予告した、浅子和美・篠原総一編『入門・日本経済[第四版]』有斐閣刊です。
 この本、前回紹介した日本経済新聞出版社の『ゼミナール日本経済入門』に対抗して、ロングセラーを続けている定番教科書の一つです。篠原教授に言わせると、「日経の方がチョッと売れているけれど、内容はこちらの方がしっかりしているよ」という本です。一読すると、たしかにその通りで、日経の本が新聞記者(現在は大学教授)による読みやすさを狙った日本経済論に対して、こちらは経済学者の手による本格的な日本経済論の入門書であり、それぞれ書き手による肌合いの違いが良く出ていて比較すると面白いなと思いました。肌合いの違いは、縦書きの経済書と横書きの経済書の違いと言ってよいでしょう。ただし浅子・篠原本は、横書きですが、数式が沢山使われているというわけではありません。

 結論的に言うと、日経の本よりこちらの方が次の三点の優位性があり、お勧めです。
 一つは、時代の変化をしっかりフォローしていて、かつその変化を経済学者が読み解くという姿勢を持っていることです。
 二番目は、取り上げられているテーマが包括的で、高校現場のニーズにもあっているという点です。
 三点目は、本だけでなく練習問題の解答やデータや図表の出所へのリンクなど、サポートページが充実していることです。

 順番に見てゆきましょう。まず第一点の時代の変化をフォローしているという点からです。
 初版は1997年に出されていて、今回は第四版です。経済の本は、すぐに古くなってしまい古本屋では引き取ってくれないと言う話は以前このシリーズのなかでも書いたことがあります。この本、古本屋に引き取ってもらえなくともよいとばかり、時代と共に改定していて四版までいっています。立派です。四版も、リーマン後の最新の動向に対応して、改定されています。それが証拠には、腰巻にある追加された主なトピックスを見ても、時代の変化をフォローしつつ、それを経済学者の目から読み解こうという姿勢が分かります。ここに比較優位性を感じました。

 第二点の内容の点です。
 全体は二部構成になっていて、第1部は、第1章の日本経済の大きさと不安という全体の概観から始まり、2〜4章で日本経済の歩みを3つの段階にわけて説明しています。ここまでが総論、序論となります。
第2部は、10章分が当てられ、日本経済の各論が展開されます。取り上げあげられているテーマは以下の通りです。
 企業(5章)、労働(6章)、社会保障(7章)、財政・財政政策(8章)、金融・金融政策(9章)、国際金融(10章)、貿易(11章)、農業(12章)、地域経済(13章)、環境(14章)です。

 これをご覧になって何か気づきませんか? そうです。高等学校の学習指導要領で取り上げられている項目のほとんどがここでも取り上げられています。無いのは、経済の基本問題と市場メカニズムのところ、消費者問題くらいのもので、ほとんどオーバーラップしています。それだけ包括的なテーマが取り上げられているということで、これは類書にはない特色です。基本問題や市場メカニズムは、経済学の入門書でカバーすればよいことなので、とにかくこれだけ包括的な応用問題を一冊で読むことができるのは大いなるメリットです。

 私達現場の人間にとっては、本書を机上において、教科書の日本経済の諸問題の各項目と読み比べをするとよいと思います。そうすることにより、高校教科書で十分に書かれていない項目や視点を補足することができます。また、大学教育との接続なども考えることができます。

 第三点目のサポートの豊富さという点です。
 練習問題の解答例がウエッブ上にアップされているのはそれほど驚かなかったのですが、データ源へのアクセスがリンクされているのはちょっと新鮮な驚きでした。出典を明記するのは出版物の基本ですが、それが明記されていても、出所までさかのぼって点検したり、自分でチェックするということは、正直それほどなされていることではないと思います。まして入門書の読者ではなおさらです。それを見越したようなリンクは、教育的だと思います。つまり、リンクがあることでデータまで確認しながら読めよというメッセージが、メッセージだけでなく届くということです。ただし、教育的と先に書きましたが、あまりにも親切だと、データの収集能力を養う機会を失うという逆機能も考えられます。それでも現代の情報環境を考えると、一つの先駆的な試みだと評価できるでしょう。

 三点の優位性を上げました。
 内容に触れれば、野間先生による第1章の概観や、篠原先生の戦後経済の箇所、浅子先生よる第4章のリーマンショック後の日本経済の概観などは読みやすくかつ的確に書かれていて、さすがだと思いました。各論では、それぞれの専門家の先生方がコンパクトに問題をまとめられています。とはいえ、テーマの大きさ、紙数の関係などで記述に濃淡がありますが、まあ、これだけの数の執筆者ですからそれは想定内ということでしょう。

 望むらくは、今回の地震・津波・原発事故後の日本経済について増補されると、入門書としての生命力が増すでしょう。バックアップの厚さがこの本のメリットですから、増補部分は、ウエッブ上でアップするようにするというのも手かもしれません。もう一つ付け加えれば、読んで疑問の部分や意見をウエッブ上でやり取りできるようにすれば、これも新しい入門書の新しいスタイルとなる可能性はあると思いました。

 ともかく、身びいきでなくおすすめ本です。



授業で役立つ本 79回 投稿者:新井 明 投稿日:2011/06/10(Fri) 11:11 No.412

 日記スタイルはちょっとお休みして、今回は本格的?な紹介をして見ます。

 きっかけは、教科の予算で経済学の入門本を9冊ほど購入したことです。最近は、教科予算が厳しく査定されてなかなか研究図書費に割けません。それでも私が現在所属している学校は、「教養主義」を校是として掲げている伝統もあり、比較的図書費でも予算が通ります。とはいえほんのわずかな金額なので、できるだけシリーズものでまとまったものを何冊か購入します。昨年は、東大出版会の『日本経済史』講座を6冊そろえてもらいました。今年は、日経新聞出版社が発行しているゼミナール入門シリーズを買うことにしました。理由は特に無いのですが、経済のテキストを準備室にも何冊か入れておいてもよいかなという思いです。

 ゼミナール入門シリーズは、手元にも何冊があるので、それらもプラスしてまとめて紹介してみようと思います。
 対象の本は以下の9冊です。年号は最初のは初版発行年、後ろは最新版の発行年です。

1 三橋・内田・池田著『ゼミナール日本経済入門』24版、1985−2010
2 福岡正夫『ゼミナール経済学入門』4版、1986−2008
3 斉藤精一郎『ゼミナール現代金融入門』4版、1988−2003
4 伊藤元重『ゼミナール国際経済入門』3版、1989−2008
5 井堀利宏『ゼミナール公共経済入門』2005
6 岩田・飯田著『ゼミナール経済政策入門』2006
7 渡辺隆裕『ゼミナールゲーム理論入門』2008
8 前田章『ゼミナール環境経済学入門』2010
9 伊藤元重『ゼミナール現代経済入門』2011

 これを見ると、大きく二つに分かれていることが分かるのではないかと思います。1から4までは1980年代に最初の本が出され、その後ロングセラーをつつけている定番商品ということです。5から9は2000年代後半の出版で、最近の経済学なりテキストつくりを色濃く出しているといえる本です。それぞれ特色を簡単にコメントしてゆきましょう。

 1は、経済テキストとして画期的なスタイルを確立したロングセラーです。なにしろ毎年改定して手元にあるものは24版です。この本は、「さっと読めます、じっくりも読めます」という売り文句どおり、@日本経済TODAY、A歴史・理論を学ぶ、B統計を読むの三つの部分から構成されています。つまり、ざっと読むには、元新聞記者である著者たちが毎年更新して行く日本経済の分析の文章を読めばよいし、じっくり読むには、ABを読んでゆけばよいわけです。このようなスタイルの本が出版当時はなく、斬新な企画にみんなびっくりした記憶があります。いろいろな大学の入門講義のテキストに使われてきましたが、さすがにそろそろ疲れ始めているかなという感触も受けます。Aの理論のところはほとんど変化がありませんが、金融にしても、財政にしても大きく研究状況なども変わり始めている状況をキャッチアップしていないなとおもうところも散見されます。例えば、金融のところなどはまだマネーサプライ管理となっていて、日銀が通貨の分類を変え、マネーストック統計にしていることなどはフォローしていません。これだけのテキストを毎年変更することの難しさです。
 それでも、私たち現場の人間にとって、まさにざっと読み、全体を俯瞰するには手ごろなテキストと言えるでしょう。意欲的な生徒に@の部分だけでも読んでご覧と勧めるのもよしかもしれません。

 2は、慶應の日吉で長く導入の授業を続けられた碩学が書いた本格的な経済学のテキストです。著者福岡正夫さんは一般均衡論の研究者で、ケインジアンです。テキストは、基本概念、ミクロ経済、マクロ経済、国際経済の四部構成で、索引を入れると600ページを超える本格本です。入門書でこれだけのボリュームを読みきる学生はもう少ないでしょうが、完全マスターというサブノートが別に作成されているので、それをやりながら全体を読めば、経済学部の学生としては完璧です。
 現場の私たちにとっては、通読するための本というより、主流派経済学では問題をどう捉えているかを知るための基準となる本として、参照すると良いかもしれません。もちろん、サブノートをやりながら、経済学を究めるというのも時間さえあれば良しですが、それができるのは学生の特権でしょう。福岡さんの経済社会への診断は、混合経済でゆくことが一番現実的で、政策的にはケインズ政策がベースとなろうというものですが、そのゆるぎない姿勢は一読の価値はあります。

 3,4はそれぞれ金融と国際経済のテキストとしてロングセラーですが、さすがに時代の変化に追いつけなくなってきている部分もあり、3版、4版までいっていますが、3は2005年、4は2008年で記述がとまっています。今回はシリーズの一環として購入しましたが、同じお金を出すなら、もっと新しい別のテキストのほうが良いように思います。なお、4の著者、伊藤元重さんは9の『現代経済入門』を2011年に刊行しています。

 5は2000年代に刊行された比較的新しいテキストです。著者井堀さんは東大の財政の先生です。ほかにも岩波でも同種のテキストを書いています。この本の特色は、理論編と現実編という二つの分け方をしてそれぞれの章を書き分けているところです。これは、1のテキストをかなり意識した構成になっていることがわかります。公共経済学は政治とも密接に絡むし、理屈だけでは説明しきれない部分も多いので、このように二つにわけて説明してゆくのは読み手としては有難いと思います。著者はこの本を、テキストでもあり啓蒙書でもあると規定しています。
 現場の人間としては、1と同じように現実編のところをざっと読み、その理論的な背景を知りたい場合に理論編に戻るという読み方がいいのではと思います。練習問題も巻末についていますが、大きなテーマが扱われすぎていて解答もなくやや不親切です。

 6も最近の著作です。共著者の一人、岩田紀久男さんは、今回は取り上げていませんが、このシリーズで『ミクロ経済学入門』1989年刊を出されています。飯田泰之さんはこの夏の「先生のための経済教室」で講演をする予定です。この本は、岩田さんの『ミクロ経済学入門』に近い感じで書かれているテキストです。導入で経済理論の復習をして、その上でミクロの経済政策、マクロの経済政策、所得の再分配政策を取り上げてゆきます。
 私達現場の人間にとってはこの第1章の「経済学と経済政策の基礎理論」の部分を読むだけでも参考になります。それ以降の事例で取り上げられる問題は現実問題ですが、比較的理論分析に傾斜した書きっぷりです。各章に問題があり、その解答ないしヒントがありその点は親切です。政策問題など簡単に答えは出せませんが、考え方のヒントがあることで著者の考えの方向が分かると同時に、安心感があります。現場の人間にとっては教科書に書かれている政策問題の裏をとるには良い本だと思います。

 7,8は40歳代の中堅の著者による新しいテキストです。7はゲーム理論、8は環境経済学という応用分野を扱っています。ともにこれまでにない切り込み方をしています。7では、名著を目指さない、読者の理解の踏み台になるようにわかりやすく書くと言っています。その心意気よしです。8では、想定読者をはっきりさせ、何が書いてあるかを明確に最初に示し、読み方や学習計画も提示しています。また、内容に関しては標準的テキストを目指したわけではなく確信犯的に自分のこれまでの到達点を書くと言っています。なかなか意欲的である種の勢いというか、これを伝えたいと言う思いが伝わってくるテキストです。
 なかでも、8の4章にある『経済分析の方法』は感服しました。前田さんは、科学方法論としての経済学の基本的な考え方は、モデルを作り検証することであると言い切っています。そして、モデルという考え方がわからないと経済をまったく理解できない、とまで行っています。経済学はモラルサイエンスであるという立場とは一線を画した、思い切りの良さ、政策提言のもとになる学問という明快なスタンスが特徴だと思いました。これを手に取った時に、いい悪いは別にして、新しいスタイルのテキストが出てきたなと思いました。

 9は3で取り上げた伊藤元重さんの一番新しい本です。ずっと前からこの種の本を書きたかったと書いているように、対象も内容も包括的なテキストになっています。伊藤さんは、この間の経済の動きをまとまって伝えることと、同時に経済的な見方を身に着けてもらいたいという二つの目的を目指していると言っています。その点では、たしかに最近の経済の動向をフォローしているし、経済学のエッセンスも入っています。ただ、二兎を追っているので、残念ながらどちらも中途半端な感じがします。その意味では、今経済学どうなっているかの全体像をつかみ、その経済的な意味を概観するには手ごろな本です。

 9冊を取り上げてきましたが、売れてきたものはそれなりの理由があるというのがわかります。私としては、7,8のような中堅の研究者による意欲的なテキストがどこまで読者を獲得するか、興味深いものがあります。

 2000年代のテキストには、分野は違っても共通したトピックや理論を扱っていることが共通にあります。それは、ゲーム理論、社会的意思決定の問題、情報の経済学の問題、異時点間の価値の計算問題などです。もちろんこれらは、3の福岡さんのテキストにも取り上げられていますが、力点が微妙に変化してきたことがこのように何冊かのテキストを並べて読み比べ(眺めているだけですが)見ると分かります。肌合いが変わってきたとでもいうのでしょうか、直感的には、新しい経済教育の時代がはじまりつつあるのかという感じでもあります。

 もう一つ気づいたことは、本の体裁です。それは縦書きに編集するか、横書きにするかによって肌合いが違うことです。
 このなかでは、1,3,4,9が縦書きの本です。のこりは横書きです。縦書きの本は、事実や事件を追った記述が多く啓蒙書的な要素をふんだんに含んだテキストです。それに対して、横書きの残りの本は、現実編と理論編とわけてある5の井堀さんのテキストもありますが、総じて理論志向が強い本です。教科書的と言ってよいかもしれません。9の伊藤さんの本がやや中途半端になっているのは縦書きの本で、理論の部分がそれほどしっかり書きこまれていないからではと思ったりしました。これからは縦書きのテキストが減り、よりテクニカルな横書きのテキストが増えるのではと思ったりします。つまり、横書きの著者には啓蒙書的なものは苦手という雰囲気があります。だから、岩田規久男さんは啓蒙書を結構出していますが、なんだか「ぎすぎすした」感じが多く、胸に響かないのは、横書きの人だからなのかもしれません(岩田先生ごめんなさい)。
 つまらない発見ですが、意外とこんなところがテキストの使い勝手や、肌合いと関係しているのではと思いました。それぞれの目的に応じて購入を決定するとよいと思います。

 テキストでは、ネットワークの篠原代表が編著者となっている有斐閣の本が手元にあるのですが、この本の紹介は次回としたいと思います。ちなみに、篠原先生の本は横書きのテキストです。



授業に役立つ本 78回 投稿者:新井 明 投稿日:2011/05/10(Tue) 22:42 No.410

 地震から2か月。早いと感じます。でも、被災地の方々はまだ時間が止まっているのかもしれません。私たちは、平常に戻ることが一番支援になると思っています。私もやっとすこしづつ平常に戻りつつあります。そんな日常からお勧めの本を日記風につづります。

某月某日 
 連休の谷間に生徒と一緒に裁判所に傍聴にでかける。ところが、ほとんど公判は開かれていない。参った。覚せい剤事件の判決だけ5分聞いて終わり。隣の法廷では民事でJALの不当解雇裁判が行われていたが、傍聴席が一杯で入れず。仕方がないので、旧法務省の中にある資料室に生徒をつれて見学。これが意外と収穫。江戸期からの資料、明治の刑法や民法の導入資料、現代になっての変化、世界の裁判所の模型など、見ごたえがある。いままで知らなかった。こんな宝がうずもれているのだというのが正直な感想。
 そのあと、明治大学の資料館にいって、これも江戸から明治にかけての刑事資料を見る。鉄の処女などの有名な拷問器具も展示されている。ここもあたり。その代り、ちょっとグロテスク。
 それに刺激され、以前紹介した神田の東京堂書店に回り、刑法の本などを購入。法律書などはほとんど読んだことがないので、連休後半に読んでやろうと思う。前半は空振りだったが、後半は収穫アリの一日。

某月某日 
 前日買ってきた、前田雅英『刑法総論講義』東大出版会を読みだす。経済の本との違いがはっきりわかり興味深い。憲法の本もそうであったが、それ以上に一種の形式論理学なんだと思う。それと同時に、人間観、社会観も大きく解釈に影響を及ぼす。刑法でいうと、自由な意思で犯すという客観主義と、犯罪には原因があるという主観主義の対立が二大勢力として対立していたとのこと。以前紹介した、小坂井利晶『人が人を裁くということ』岩波新書が、人間には自由意志はないという立場で論をすすめてていたのを思い出す。小坂井さんは社会心理学者であるが、刑法学の学派の対立を知ることで、見取り図が見えてきた。前田さんは、少年法改正問題では治安維持の立場で厳罰化の路線の重要なイデオローグだったが、この本は司法試験受験者の必読の基本書なのだそうだ。たしかにわかりやすくよくかけている。
 さきの法律解釈は形式論理学であるという話に戻すと、ロースクールの予備試験などで、SPIのようなパズルをなぜ出すのか不思議だったが、これもこういうことなのかと理解ができた。その伝でいくと、法学部の入試で数学の試験を課すのが不思議だったが、これも納得。経済学との違いは、経済学はモデルの世界であり、そのモデルの演繹的展開をすることが多いが、法律学は形式論理であり、基本は帰納による理論化の世界であるということかなと思う。また、場合分けの世界の法律学と、限界的世界の経済学という対比もある。このような解釈が正しいかどうかわからないが、これまでしっかり見てこなかった世界を垣間見ることができ収穫の日だった。なにしろ、600頁近い本を、飛ばし読みながら一日で読了してしまったのだから、われながらびっくりである。

某月某日
 連休を利用して、奥さんと都心のフィールドワークへ。この頃、都心をバスにのって移動する面白さに目覚めたのである。地下鉄で移動するより、景色は見えるし、時間さえ気にしなければ結構快適。特に、休日の都心はラッシュもなく、バスでもすいすい移動できる。安いレジャーである。
 本日は、東京駅から下町へ足を延ばす。門前仲町で降り、深川不動尊、富岡八幡、清澄庭園などを回る。最近、奥さんが、佐伯泰英の小説(『鎌倉河岸物語』『居眠り磐根』シリーズなど)にはまっていて、下町に行ってみたいと言う要望からである。深川地区は、隅田川の向こうで江戸時代に開発されたところで、水路の街でもある。小名木川などは現在でもしっかり残っていて、ああそうなんだとこれも改めて確認。ほとんど人がいない倉庫街を歩き、永代橋を渡り、茅場町まで歩く。茅場町は東京証券取引所のある兜町のとなり。取引所の裏は日本橋川が流れている。大阪も川の街であるが、東京の下町も同じであることを確認した半日だった。帰りは地下鉄を利用したが、味気ないことこの上なしだった。

某月某日
 連休最後の日。刑法の本と同時に購入した、ウイリアム・バーンスタイン『「豊かさ」の誕生』日本経済新聞出版社刊を読む。これがなかなか面白い。
 バーンスタインは投資コンサルタントであり経済史にも関心を持っている人物。この本では、第1部で成長のきっかけを、(1)私有財産制の確立、(2)科学的合理主義の定着、(3)安定した資本市場の形成、(4)通信・輸送インフラの整備の四つとして、それぞれに1章ずつ当てて記述してゆく。第2部では、西欧諸国、日本、イスラム圏で4要素の形成がなぜある国では早く根付きまたある国では遅れたのかをみてゆく。最後の第3部では現状と将来展望を記述するという3部構成をとっている。
 この本、経済史の読み物としては面白いけれど、多分歴史家から言わせると、粗雑ということになるのだろう。また、経済発展を四つの要素に絞りそれが完備されたら繫栄、民主主義国家というのは、歴史の見方としては大胆で説得的だが、やはり粗雑という批判をあびるだろうなと思う。
 しかし、読んでいてとても面白いのである。叙述の生き生きと具体的なところがいいし、大胆に理論仮説をたてそれで押し切って世界を描いてしまうという点でも魅力的だ。こんな本が実務家から出されるのだから欧米恐るべしである。これも一日で読了。勢いというのは怖いものだ。続編の『華麗なる交易』日本経済新聞出版社も読みたくなる。
 これで連休は終わり。遠出もしないし、大して買い物もしない。その意味では、日本経済の復興には役立たないけれど、平凡でなかなかよい連休だった。



授業に役立つ本 77回 投稿者:新井 明 投稿日:2011/04/25(Mon) 14:58 No.408

 久しぶりに登場します。3月11日以降、こころせわしく、本をしっかり読むことができなくなっていました。宮尾先生が「大震災」「原発問題」に関して、精力的に考えを書かれているのを横目で見ながら、なかなか答えが出せずにいました。宮尾先生の問題提起に回答できずに、申し訳ないのですが、ここは正直に、その間に読んだ本や考えたことを日記風につづります。

 3月11日 この日は、日本のこれからの歴史のなかで分水嶺になる日として記憶されるでしょう。したがって、ここでは某月某日ではなく記しておきます。東京では、各人各様に揺れを経験し、その後の交通途絶により「帰宅難民」化しながら、なんとかたどり着いた方が多いはずです。私は、メルマガに書いたような、学校泊、翌日帰宅をしました。

 3月某日 被災者ではないのですが、多くの情報に接することで、同調うつとでも言うような状態になる。理論書などは落ち着いて読めなくなってしまいました。そこで、取り出したのが、三浦哲郎の『完本短編集モザイク』(新潮社刊)です。三浦さんは、ご存じ『忍ぶ川』で芥川賞をとって、多くの長短編を書いた作家です。出身は八戸ですから、今回の地震、津波の一番北の被害地になった場所です。三浦さんの作品の舞台は、多くが郷里八戸や岩手など東北からとられています。この本は、震災前に購入していたのですが、かなりのものは単行本で出版されているうちに一度読んでいたので、ゆっくり読もうととっておいのです。三陸、東北と聞いて何人かの人の顔が浮かびましたが、文学者では三浦さんが頭に浮かびました。
 『短編集モザイク』は、『みちづれ』『ふなうた』『わくらば』という三つの短編集にいくつかの残された作品をあつめて編集されています。掲載されているのは64編です。文学作品を紹介したり、批評したりすることがここの目的ではないので、ぜひ手に取って読んでほしいと思います。私は、「みのむし」の世界を地震と津波は飲み込んだのだと思ったし、「とんかつ」で出てくる若き雲水が修業を終えて、故郷に帰り、今回の被災で頑張ったのではないかと思ったりして、せつなさと希望を持ちました。地震による回復や復興のプロセスなどを語るのが経済学の役割ですが、その前に、日本の地域がどうなっていたのかをしっかり実感しないと、視察の時に「みすてられた人間を通り過ぎるのですか」となじられた某総理大臣のようになるのではと思っています。

 4月某日 新学期はじまる。
 電車は、一部が間引かれているだけで、ほぼ通常通りになっています。でも、主要な大学が連休明けからはじまるということで、車内はなんとなくいつもの年とは違う雰囲気です。人間はのど元族ですから、電車が止まった時や、計画停電の混乱、品不足などをすぐ忘れてしまうのかもしれないなと思ったりしながら、通っています。

 4月某日 新聞やネットだけでは、どうしても毎日の情報に流されるだけなので、月刊誌を読みます。今月は、ぜひ岩波の『世界』を手に取って読んでみたいと思いました。ところが、学校図書館では、かなり前から購入をやめていますし、通勤途上の本屋さんにはおいていません。ネットワークの部会の前に、神保町まで行って、信山社でやっと手に入れました。
 『世界』は反原発の立場で継続的に論陣を張ってきた雑誌です。5月号は、全編を地震、津波、原発にあてています。編集部の「読者に」の文章に、「私たちの主張が、原発政策を変えるほどの力をなぜ持てなかったのか、斬鬼の念をもって振りかえざるをえません」とあり、「私たちは、もはや昨日のようには未来を生きることはできないのです」とありました。リベラル派の誠実さと、それだからこそ、「地獄への道は善意で敷き詰められている」のかもしれないと思わざるをえませんでした。中の文章は、玉石混交です。違和感を覚える文章もありましたが、それでも現在の状況や、分析を誠実に追求しようとしているところを感じました。一番、すぐれているなと思ったのは、ジャンピエールデュピイというフランス人の書いた『ツナミの形而上学』と言う本の冒頭部分の紹介でした。この文章は、スマトラ沖津波に触発されて書かれたものだそうですが、現在の私たちを射抜いていると思われました。「大参事のような特筆すべき出来事が起きるとしたら、それは起きるべくして起きたということである」という箇所に深く納得しました。でも、納得だけでは済まないのが現状ということになります。

 4月某日 やっと手ごたえのある本を読む気になりだした。読んだ本は、遅塚忠躬『史学概論』東大出版会です。この本、一度本屋で手にしたのですが、6800円したので、出入りの本屋さんに注文すれば1割引きになるので、また書棚に戻したといういわくつきの本です。非常勤の公民科教育法の受講者だった史学科の学生で、今春から教壇に立つという「教え子」から、好い本だと教えられた本です。地震直前に注文していたのが、ひと月たって手に入って、読み始めました。
 遅塚さんは、フランス革命史の専門家で、幾つかの大学で教鞭をとっていました。この本のもとになったのは東大文学部での「史学概論」の講義ですが、全編書き下ろしの本です。内容は、歴史学の目的、歴史学の効用と効果、歴史学の対象とその認識、資料と歴史家の関係、事実認識と言語的回転、歴史学の周辺、歴史認識における事実と真実、主観性と客観性、蓋然性と必然性、偶然性と自由意志など、歴史学に関する包括的問題が取り上げられています。遅塚さんの立場は、本人が認めているように折衷論です。実在論と反実在論、カントとポパー、趨勢と偶然の接ぎ木、折衷、接合などが述べられています。パラダイム転換前夜の歴史理論の構築が目指されているとも書いています。この種の折衷性は、リベラル派の魅力であり、かつ弱さ(ヴァルナビリティ)でしょう。でも、病いのなかで、これだけはまとめておきたいという碩学の思いが伝わってくる本でもあります。経済学と歴史学の部分など、経済学の対象がマルクス経済学なかんずく大塚史学と宇野派という東大経済学部のかつての伝統が対象になっている点など、もっと現代的で考えるべきじゃないかなどと思う部分はありますが、読む価値ありの本でした。この本を読んで、ずいぶんリハビリになった感じです。

 4月某日 先日の遅塚さんの本の勢いを買って、これも一度は読んでみたいと思っていた、猪木武徳『経済思想』に挑戦。猪木さんの本は、モダンエコノミックスのシリーズの一冊として1987年刊だから、すでに四半世紀前の本です。久しく品切れだったのが、昨年8刷が出て入手しやすくなりました。とはいえ、なかなか一般の本屋さんにあるものではなく、岩波の信山社に寄ったときに目に入ったので買っておいたものです。この本、経済学史の通史でもなく、テーマごとに学説を振り返るという構成をとっています。特に、スミス以前の古代から中世の経済思想に注目しているところがユニークだし、社会主義崩壊以前に、ハイエクを中心としたオーストリア学派に注目して紹介するという、当時としてはかなり大胆かつ先進的な本です。市場、政府、貨幣、消費・生産・商業、社会主義、労働・知識・自由とそれぞれ銘打たれた各項目を読んでゆくなかで、時代の流れの中で揺らがないものは何か、また、逆に時代とともに流れ行くものは何かを考えさせられました。特に、最終章にある「知識と経済的自由」の箇所は、原発労働者の現在の苦闘を考える上で示唆が多くありました。ルーティーン作業のなかにある段取りの重要さ、暗黙知ともいえる技能など、のちに『自由と秩序』2001年で再論される内容が提示されているのを確認視しながら読みました。一番脂の乗り切った時期の本の勢いを感じることで、また少し元気がでました。

 4月某日 通勤途上で、毎日新聞の週刊『エコノミスト』を久しぶりに購入する。『エコノミスト』は、社会人になって以来ずっと30年近く読み続けたのだが、二年前から定期購読をやめていました。いわば戦線縮小をしたわけです。それでも時々面白そうな特集の時は買うことにしています。今回は、「いまこそ経済学」というサブ特集のタイトルを見て、衝動買いをしまいた。内容的には、経済学者の執筆が半分、のこりはエコノミストです。学者では、岩井克人さん、佐伯啓思さんなどが書いています。両氏とも内容はこれまでの諸説を紹介するのですが、今回の災害を踏まえての紹介でないところが残念です。お勧め本を紹介している小峰隆夫さんが第一番にあげていたのが、大竹文雄先生の『競争と公平』であったことには納得でした。地震依頼そろそろ二ヶ月になろうとする現在、個人的には、やっとすこしずつ回復というところで、次なる経済本を探して読もうという意欲が湧いてきているところです。



「大震災」と「原発問題」に関する本の書評 投稿者:TM 投稿日:2011/04/24(Sun) 18:25 No.407

「大震災」と「原発問題」に関する本の書評

「大震災サバイバル本」

1.『1億人の防災ハンドブック:大震災・テロを生き抜く!』監修青山ヤスシ(2005年、ビジネス教育出版社)
http://www.hanmoto.com/bd/isbn978-4-8283-0091-7.html
このウェブサイトにある目次から分かるように、今から6年も前に大地震と津波の危険性を指摘、それも「今後、宮城県沖で大地震が発生する確率は、(2005年を起点として)10年以内で50%、30年以内で99%」という研究結果を最初に示した上で、防災対策を論じている点は凄い!

2.『大震災サバイバル・マニュアル』朝日新聞社編(1996年第1刷、2011年第8刷、朝日文庫)
http://www.7netshopping.jp/books/detail/-/accd/1101312989
1995年の阪神大震災から学んだ防災の知恵がつまった「すぐれもの」の文庫本で、特に「電話も同じ域内はかかりにくかったが、被災地から遠い地域へは案外簡単につながった。地震の翌日の18日にフランスから安否を気づかう電話がかかった」など、今回の東日本大震災でも見られた現象がすでに指摘されている。

「原発と放射能に関する本」

原発に関する本は、大別すると「推進派の本」と「反対派の本」に分類される。

1. 「推進派の本」、この種の本の多くは「ワック」(WAC)から出版されている:
1-1 『私たちはなぜ放射線の話をするのか』木元、碧海、東嶋(2008初版、2011第3刷、ワック)
1-2 『放射能の健康への影響』大朏博善(2008年初版、2011年第2刷、ワック)
1-3 『放射線の話』大朏博善(2002年初版、2011年第3刷、ワック)

これらの推進派の本の主張の主な柱は以下の通りである:
(1A) 原発の重大事故が起こる可能性は極めて小さい。
(1B) 仮に事故が起こっても原発周囲への放射性物質の放出と範囲は限定的。
(1C) 放射能汚染による健康への悪影響は予想より軽微。

2.「反対派の本」、この種の本の多くは「七つ森書館」から出版されている。
2-1 『食卓にあがった放射能』高木仁三郎、渡辺美紀子(2011年、七つ森書館)
2-2 『内部被曝の脅威』肥田舜太郎、鎌仲ひとみ(2005年第1刷、2011年第3刷、ちくま新書)
2-3 『原子炉時限爆弾』広瀬隆(2010年第1刷、2011年第3刷、ダイヤモンド社)

これらの反対派の本の主張の主な柱は以下の通りである:
(2A) 原発はどんなに安全といわれても重大事故が起こり得る。
(2B) 仮に事故が起これば、放射性物質は広い範囲に拡大していく。
(2C) 放射能汚染はたとえ微量でも健康に悪影響を及ぼす。

福島原発事故によってこれまで明らかになった事実は、推進派の(1A)ではなく、反対派の(2A)の主張「原発はどんなに安全といわれていても重大事故が起こり得る」という主張の柱が支持されたように見える。
しかしこのことは、必ずしも反原発派の他の主張である(2B)や(2C)が正しいことを意味しているわけではない。
実際に、今回起こったことを客観的に見るならば、少なくとも今までのところは、推進派の主張の柱である(1B)「事故が起こっても原発周囲への放射性物質の放出と範囲は限定的」と(1C)「放射能汚染による健康への悪影響は予想より軽微」という見方が崩れたとは言えないようである。
これについては、以下を参照:
『原発推進と反対との岐路に立って』宮尾尊弘(2011年4月22日、日本英語交流連盟):
http://www.esuj.gr.jp/jitow/jp/contents/0322.htm

(宮尾)



大震災とエネルギー問題への対応:問題点の整理 投稿者:TM 投稿日:2011/04/13(Wed) 23:43 No.406

大震災とエネルギー問題への対応:問題点の整理         

1. 備蓄(非常用準備)
(A)電気: 電池(フル充電)、家庭用蓄電池、手動や太陽光発電など
(B)食料・水: 自宅、職場、車などに少しずつ備蓄
        水は普段から風呂の水をためるなどの再利用
(C)衣料品: スニーカーや下着(使い捨て)などを自宅、職場、車の中などに
(D)携帯品: 最低限の食物、水、電池、懐中電灯、ラジオ、地図、磁石など

2. リスク分散(普段から利用)
いろいろな手段の多様化(日頃から使って慣れておく):
(A)エネルギー: 電気だけでなく、自家(太陽光)発電やガスや灯油など
(B)通信――発信用: 携帯、PC、固定電話(電気に依存しない古い型)など
     情報収集用: テレビ、ラジオ、ウェブ情報、携帯ラジオ(電池型)など
(C)資料: バックアップを分散配置(自宅、職場、トランクルーム、「クラウド」)
(D)交通: 鉄道や車に加えて、自転車、徒歩など

3. ライフスタイル(中長期的調整)
(A)エネルギー節約型の生活
  ただし、エネルギー効率だけでなく、分散化・多様化との適切なバランス
(B)職住近接で移動の最小化
  ただし、職場と自宅の両方が被災するリスクを分散することも必要
(C)仕事の仕方の工夫(在宅勤務)
  ただし、通信の混乱などに対するバックアップが必要

4. 社会的な工夫(政策や制度)
(A)非常用の指示や情報の改善: 携帯への発信、街角の地図や方向指示
(B)分散・多様化への誘導・促進: 太陽光発電・エネルギー節約などへの支援
(C)電力などインフラの時間差利用を誘導・促進: 価格と税・補助金の活用
(D)エネルギー政策と電力産業・地域体制の見直し(国有化・再民営化を含む)

(宮尾)



今回の原発事故をどう見るか 投稿者:TM 投稿日:2011/03/31(Thu) 16:46 No.405

「今回の原発事故をどう見るか」(2011年3月31日) 

宮尾尊弘(筑波大学名誉教授)

今回の巨大地震、津波と原発事故は直接間接にすべての人に大きな影響を与えています。しかも事態はまだ収まっておらず、被災の全容も明らかになっていないこの段階で、今回の件をどう見るか、どう考えるかを議論するのは少し先走りすぎていることは確かです。

ただ、特に今回の原発事故に対するマスメディアの報道の仕方や、政府の対応の仕方に限って見ると、まだ記憶に新しい過去数年の間に起こった大きな事故や事件の際に行われた報道や政策と共通する問題点があるような気がします。したがって、この段階でそれらの問題点を指摘しておくことは、それなりに意味があると思い、以下に書き記します。

先生方は生徒たちから、今回の原発事故についてどう考えるか質問されることもあると思います。その際にできるだけ冷静で客観的な答えによって、生徒たち自身にも、冷静に自分自身の頭で考えるように促すことが求められます。その際に何かの参考になれば幸いです。

1) メディアや「世論」による犯人探しと犯人たたき(?)
例えば、2010年に米国南部で起きたメキシコ湾原油流出事故の際には、爆発した石油掘削施設を操業していたBP社がメディアや世論によって徹底的にたたかれ、また石油掘削そのものが悪いこととして批判された(BPという名前から英国の企業として批判されたので一時的に米英関係に影響が出るほどであった)。
また2008年の世界金融危機では、リーマンの破綻があまりに象徴的だったため、米金融機関がたたかれ、「金融資本主義」が悪いといった風潮が広がり、いまだにそれが続いている。
今回はもちろん東電がたたかれており、原子力発電そのものが疑問視され、批判も高まっている。

2)メディアによる危険の強調(誇張?)
2010年の原油流出事故の際には、対応が困難で時間がかかったこともあり、やがて石油がメキシコ湾からあふれて米東海岸を汚染し、やがて欧州の海岸にまで及ぶという見方が、米国のテレビなどで地図を使って何度も報道された。また一部の魚介類の汚染が大きく報道されたために、メキシコ湾岸全域の魚介類が危ないというイメージが広がった。
2008年のリーマンショックの際には、連日のようにどの金融機関が次に危ないといった報道がなされて、それが実際の金融不安を助長した。
今回は、原発事故による放射性物質による汚染が毎日大きく取り上げられ、それが問題の原子炉の施設周辺のことなのか、その他の比較的安全な地域のことなのかの区別がつかないような報道になっている。これは国内外を問わず、今回の原発事故に関する報道の一番の問題点となっている。

3) 政策当局による強い(過剰な?)反応
上記の2つの風潮のもとでは、政策当局は自分自身が批判されないように、過剰ともいえる反応をみせることを余儀なくされるが、それがかえって事態を悪化される方向に働く傾向がある。
実際に、2010年の原油流出事故の際には、全米的に石油の掘削が深海かどうかにかかわらず禁止され、それでなくても不足感のあった石油の供給や価格に影響を与えた。
また世界的金融危機の後では、米国やEUで金融機関への規制が強化され、金融規制法も成立して、それでなくとも深刻化していた金融機関の貸し渋りをさらに悪化させた。
今回の日本の原発事故では、ほとんど予告なしに強制避難命令が出されたり、また非常に(過度に?)厳しい基準をもとに野菜や牛乳や水などの出荷制限や摂取制限が行われ、その解除の条件が示されていないこともあって、すでに巨大地震と津波で阻害されている住民の生活や生産者の活動をさらにいっそう困難なものにしている。
それだけでなく、このような政府による措置そのものが、その意図とは反対に、国内外に対して日本全体(少なくとも東北関東地域全体)の放射線リスクの現状を過大に伝えることによって、いわゆる「風評被害」を助長する役割を果たしているようにみえる。

以上のことから言える暫定的な結論は、今回の原発事故が今後どうなっていくかまだ分からないものの、過去の大事故や大事件の際のメディアによる報道や政府による政策のバイアスや行き過ぎを冷静に比較・評価して、今後の正しい見方や対応を導けるような自己訓練をするよい機会であるといえるのではないでしょうか。
(宮尾)
追伸:今回の震災と事故について以下の2つの論評を日本語と英語で書いて国内外に発信しました。ご参考までに。

「日本の放射能汚染に関するマスコミ報道の問題点」(3月28日)
日本語:http://www.esuj.gr.jp/jitow/jp/contents/0315.htm
英語:http://www.esuj.gr.jp/jitow/eng/contents/0315.htm
「日本は原発危機も経済危機も乗り切れる」(3月20日)
日本語:http://www.esuj.gr.jp/jitow/jp/contents/0312.htm
英語:http://www.esuj.gr.jp/jitow/eng/contents/0312.htm



書評:余剰分析を解説する経済学入門書 投稿者:TM 投稿日:2011/03/03(Thu) 07:44 No.402

書評:余剰分析を解説する経済学入門書

これまで経済教育ネットワークの会合で何度も指摘されているように、競争市場の効率性を「余剰」の概念を使って分かりやすく説明している教科書や参考書が、高校用でも大学用でもほとんど見当たらないのが現状である。
ところが意外にも、一見するとあまり手にとってみようとは思わないようなタイトルや装丁の経済学入門書の中に、余剰分析を適切に分かりやすく行っているものがある。
以下はその2つの例である。

『図解雑学 ミクロ経済学』嶋村紘輝、横山将義著、ナツメ社2009年(初版2003年)
http://www.bk1.jp/product/02277041
この本では第1章「ミクロ経済学とは何か」と第2章「需要と供給」に続いて、第3章として「完全競争市場と効率性」を正面から取り上げている。
その章の中で、「消費者余剰」「生産者余剰」「数値例による経済余剰の計測」「競争均衡の効率性」「価格規制の非効率性」「課税の非効率性」「パレート最適」「厚生経済の基本定理」、そして最後に「効率性と公正」が説明され、効率性のテーマが簡単ではあるがほぼ網羅されている。そして、その後で第4章として「市場の失敗」が取り上げられており、適切なテーマの順番といえる。

『単位が取れるミクロ経済学ノート』石川秀樹著、講談社2010年(初版2009年)
http://www.7netshopping.jp/books/detail/-/accd/1102698010/subno/1
この本では、第1章「限界効用理論」から第10章「ゲームの理論」までを解説した後、第11章で「余剰分析」を取り上げているが、その冒頭で以下のように述べている。
「前回までの講義では・・・現実の経済がどのようにうごいているかを解明してきました。このように、現実経済がどうなっているかを分析する経済学を『実証経済学』といいます。これにたいして今回は『どのような経済が望ましいのか』を考えていきます。このように、望ましさを考える経済学を『規範経済学』といいます」
「今回は、まず『経済の望ましさ』には効率性と公平性という2つの基準(尺度)があり、ミクロ経済学では効率性を中心に検討する、ということを説明します。そして効率性を測定する方法として頻繁につかわれる余剰分析を説明し、その余剰分析をつかって、完全競争市場、独占市場、税金の(非)効率性について検討します」
実際の余剰分析の解説は、2つの図を使い4ページにわたって解説されている。そしてその後の第12章で「外部効果」が取り上げられるという正しい順番になっている。

この2つの入門解説書は、高校の参考書としても適切な内容といえるであろう。
(宮尾)



授業に役立つ本 76回 投稿者:新井 明 投稿日:2011/03/01(Tue) 00:37 No.401

相変わらずばたばたした日々をすごしています。小人だから仕方がないと思いつつ、本を読んでいます。さて、今回も日記風に紹介を続けます。

某月某日 久しぶりに新刊本屋を覗く。非常勤になってからは、そうバンバン、本も購入できないので、なかなか本屋に足が向かなくなっている。高齢化時代には消費が減退する事例かもしれない。本日の収穫は、小坂井敏昭『人が人を裁くということ』(岩波新書)である。小坂井さんは、前著『責任という虚構』(東大出版会)で注目していた社会心理学者。この本は、経済の本ではないけれど、経済でもしっかり考えたい内容を含んでいる。全体は三部構成。TU部で裁判員制度と自白の心理学を検討したうえで、V部で現在としての裁きというタイトルでの小坂井哲学(心理学)が展開される。経済との関連では、自由意志と責任という箇所が最も刺激的。経済学では合理的意思決定が問題となるが、意思決定の主体としての自由意志は、フィクションであるというのが小坂井哲学のポイントであるからである。「責任ある選択ができる人間の育成」をスローガンとする、あらい君の経済教育もこれでは幻想を拡大再生産することになっているだけということになる。さてどう考えてゆくか。新書ではあるが重い問題提起をしている本。サイドラインを引きながら読み込んでゆく。この本、法教育に関心のある先生方にはぜひ読んで欲しい本でもある。

某月某日 図書館で借りた、保坂正康+半藤一利『「戦後」を点検する』(講談社新書)に触発され、『1970年代転換期における「展望」を読む』(筑摩書房)という本を購入。保坂・半藤本は対談集でとても読みやすく、戦後日本の変遷をいろいろなエピソードから読み解いている。安保改定と日中友好という後半の部分は同時代を生きた部分があるので、実感として読める部分もあり興味深い。それに対して、後者の筑摩の本は、なまなましいといってよいかもしれない。『展望』は、1964年に復刊され1978年に終刊した筑摩書房の総合雑誌である。丁度私が高校生から大学生の時期に一番元気だった雑誌である。今残っている総合雑誌では、親父が『文藝春秋』を読んでいて、これは家にあったので読み、『中央公論』は現実主義がいやだったのでご遠慮。身銭を切って買う雑誌は、『世界』か『展望』、時には『現代の目』という総会屋が出している新左翼の雑誌だった。『展望』は、ある種の柔軟性があり好きな雑誌だったので買うことが多かった。この本、筑摩書房70周年記念で出されたもので、大澤真幸、斉藤美奈子、橋本務、原武史の4人が掲載の論文やルポを読み、選択、解説したもの。選ばれた論文がすべて面白いわけではないが、4人が現代の視覚から70年代を切ろうとしているところが面白くその部分だけはしっかり読む。掲載論文では、見田宗介、鶴見俊介+竹内好対談が興味深い。見田、竹内両氏ともお子さんがいて、それらのお子さんと接近遭遇をしているからだ。著作者の公的発言と私生活の落差のようなものが見えるというやや週刊誌的興味かもしれない。若手では、原武史氏の西武鉄道にこだわる解説がいかにもで面白い。ともかく、オンリーイエスタディでありながら、もはや歴史である。それにしても、どうしてみんなあんなにマルクス主義にいかれていたのか、時代精神は恐ろしい。

某月某日 集中講義のための準備で、学校にある古い本をひっくり返す。とにかくストックが多い学校で、準備室の書棚には1980年代までの箱入りの専門書がほこりをかぶったままで結構ある。今回は、岩波の現代経済学講座のシリーズから『所得分析』『経済発展と変動』などを引っ張り出す。読むときは、まずはマスクを用意して雑巾でほこりを払ってからだが、1970年代の本がよみがえるのが面白い。大学の先生方の中にはこれらの本を大学院時代に勉強された人も多いのではなかろうか。私は、数式などの部分は飛ばしながら、エッセンスを読み取ろうとするが、手ごわい。それでも、この種の本をひもとくというのもまた良しである。『展望』で思想系の学者や評論家がおだをあげていた一方で、しっかりモデルを作り、それを考察し、実証してゆくという姿勢で研究が進行していたことが興味深い。それにしても、宇沢さんの論文は読みにくいなあ。

某月某日 一週間ぶりに新刊本屋を覗く。岩田規久男『経済学的思考のすすめ』(筑摩選書)が目に付いたので購入。一読、良い本だと思う。おすすめ本である。この本、シロウト経済学は花盛りという1章からはじまり、最後の経済モデルを検証するまで一挙に読める。内容的には、岩田さんの従来からの主張をコンパクトにまとめたものだが、トンデモ本の辛坊正記『日本経済の真実』(幻冬舎)の批判も、その後の展開も経済学的な思考の大切な部分が書き込まれていると感じる。そのエッセンスは、経済学は演繹法の世界であること、モデルを作り、それを演繹し、検証するという一連のプロセスが必要であること、経済の基本原理をマスターしたうえで思考すること、一般均衡の観点から市場を重視すること、論理も大切だが現実を直視しあたたかいこころも忘れないことなどである。重要概念に、機会費用が一番最初にあがっているのもわが意を得たりで、この本1500円ならお買い得といっておこう。ただし、辛坊本がベストセラーになるのに比べて絶対に売れるとは思えないところが世の中の面白い、いや辛いところである。

某月某日 本日は集中講義の後半。やはり一日がかりで講義をする。飛び入り参加のネットワーク某先生、「黙って座って、話を聞いている生徒の気持ちがよくわかった」との感想。マクロ、財政、金融、国際と盛り沢山の内容を「warm head」の人間が語るのであるから、聞くほうは大変だろう。それでも、先生の卵たちが、経済学のどんなところにひっかかるのか、理解しづらいところは何か、また必要な箇所は何で、いらないものは何かが、かなり分かったという点で、有難いチャンスだった。その意味では、つきあってくれた受講生諸君に感謝したい一日だった。来年度もお呼びがあれば、教員向け経済学に挑戦したいなと思っている。



授業に役立つ本 75回 投稿者:新井 明 投稿日:2011/02/13(Sun) 22:49 No.399

前回投稿から2か月近くたってしまいました。継続は力と言いながら、心せわしく毎日をすごしているうちにこんなことになってしまい、恥ずかしい限りです。この間に読んだ、あまり「役立たない」本を紹介してゆきます。

某月某日 福岡へワークショップにでかける。途中で読もうと思い、空港の売店で、磯田道史『武士の家計簿』(新潮新書)と小林正弥『サンデルの政治哲学』(平凡社新書)の二冊を購入。まず『武士の家計簿』から読み始める。加賀藩御算用者であった猪山家の文書を読み解いた歴記学者の本である。映画の原作にもなったので、どんな本かという興味から読んだのだが、興味深かった。江戸時代の藩は、会社と同じと考えると当然会計部局はあり、今でいう経理部勤務のサラリーマン一家の生活ぶりがわかる本である。仕事ぶり、借金で首が回らなくなり、それを清算しての再出発。明治維新期の財産形成、子弟の教育など、現代に通じるエピソード満載。2003年初版だから刊行いらいかれこれ8年。映画になるまでは注目しても来なかったが、江戸から明治にかけてのミクロの経済がとてもよくわかる。日本史を教えている先生におすすめと思う。

某月某日 ワークショップ終了。帰りに『サンデルの政治哲学』を読もうとしたが、根気が続かず。まあ仕方がない。

某月某日 『サンデルの政治哲学』読了。『これからの「正義」の話をしよう』の解説と、サンデルの他の著書を解説した本で、コンパクトにサンデルの思想が分かる。確かに『これからの』ではよくわからなかった部分がかなり解説されている。要するにサンデルのコニュニタリアリズムというのは、ロールズのリベラリズムが、負荷なきばらばらの個人から出発するのに対して、負荷をもった人間から出発して、共通の善を追求することが正義であるというのである。そうなのかと思っても、じゃあ具体的にどうなんだということは今一つはっきりしない。経済に関する箇所を見ると、市場主義批判の立場がかなり明確である。コマーシャルによる教室の商業化(例えば企業提供の無料教材)批判などが紹介されている。そうすると、私がやっている「株式学習ゲーム」などはその例になる。ウーン、困った。サンデルはどうも私とは違うようだ。サンデルは、ディレンマ学習の事例集として使うだけにしておいた方が良さそうである。

某月某日 通勤電車のなかで武田尚子『チョコレートの世界史』(中公新書)を読む。なにしろ、通勤が1時間半弱。そのうち45分くらいを座って通っているので、何かを読むか寝ているかとなる。この頃は寝ていることが多い(よくいるでしょう電車で寝ているおじさん、それが私です)が、この種の比較的読みやすい本だと手ごろでありがたい。武田さんは社会学者。チョコレートがどのようにヨーロッパで発達してきたのか、その改良と私たちがよく知っているキットカットか開発したロウントリー家の物語である。チョコレートに関しては、授業ではフェアトレードの箇所で試食をするのが私の「おはこ」になってきているが、この本を読んだら、今度はキットカットにしようかと思うくらい、へーという話が満載されていた。チョコレートとクエーカー教徒の関係、ロエントリー家が作った「理想の工場」、キットカットの秘密などなど。批判的視点も大事だけれど、あまり知られていなかった事例をしっかりとした調査に基づいて書くというのも必要と思わせる本。この本でキットカットを見直したけれど、残念ながら現在のキットカットは、ネスレ社製品。このあたりも現代のビジネスの実態がでている。キットカットを教室に持ち込むとしたらどんな授業をしようかと想像させる本だった。

某月某日 学校の帰り、久しぶりに途中下車をして某書店を覘く。この本屋さんは、街の小さな本屋さんなのだが、岩波文庫を全部そろえていることを売り物にしているような本屋さんで、本の陳列もユニークなので、第一次リタイア前は結構かよっていた。今回の目的は、岩波文庫のある英文学の本。4冊そろえの中の第3巻が品切れ増刷予定なしの本があるかなとの思いで覘いてみたのである。残念ながらやはりそこにもなかった。まあ、仕方がない。どうしても必要なら大学の図書館から借りるしかないとあきらめる。でも、ちょっと癪だったので、棚を見ていたら、『シュタイナー経済学講座』(ちくま学芸文庫)が目に入り、買ってしまう。この本、10年くらい前にハードカバーで出ていたけれど、文庫になったんだと思う。人智学の創始者でありシュタイナー教育の提唱者、実践者でもあったシュタイナーが経済学をどうとらえているか、読んでみようと思う。

某月某日 仕事をしながら、先日買ったシュタイナーをちらちら読む。「ながら」読みである。シュタイナーの主張は、空想的社会主義者に近い。彼自身もロバート・オーエンに言及している。分業や交換を否定はしていない。そのあたりは現代人だ。労働の交換の結果うまれる資本を還流させる方法を「経済連合体」に任せるべきと説く。それを国家に任せると最悪の抑圧がうまれると社会主義を批判、しかし放任してもダメという。貨幣に関しては、自然本位制というゲゼルの減価する貨幣に近い主張もしている。このあたりは、現代的な要素も持っているけれど、やはり空想的か。功利主義経済学の流れをくむ現代経済学的にとらえるしか、現代の巨大システムに対して政策提言してゆくことはできないだろうと考えるようになった私としては、解毒剤であるけれど、決定的な処方箋にはならないなと改めて思う。それでも神秘思想の推進者が経済に関して真摯に考察をしているというのは驚きである。とにかく、19世紀末から20世紀初頭のドイツやオーストリアの思想は実に深く多様だ。あまり深入りしない程度に付き合うほうがよさそうだとも思う。

某月某日 大学の集中講義で教員志望の大学院生に「経済学」を教えてくれという要請を受け、経済の入門書を何冊かひっくり返す。サムエルソン、マンキュー、スティグリッツなどアメリカの学者のものを参照することが圧倒的に多い。サムエルソンはやや古くなったとはいえ、問題意識、記述のわかりやすさなどはさすが。マンキューは、標準経済学の標準という感じである。スティグリッツは、基本は標準経済学であるが、各所に批判的な視点がはいっていてこれも捨てがたい。最近は、クルーグマンなどのテキストも翻訳されているが、上の三人でいいんじゃないかという感じである。日本では、伊藤元重さんのものがマンキュー的かななどと思いながら参照している。いずれにしても、しっかりしたテキストを一度じっくり読んでみると、経済学の発想法や論理がおぼろげながらでも理解できると思う。急がば回れかもしれない。

某月某日 入試の手伝いをする。勤務校は中等教育学校で、中学入試である。これまで高校入試は当事者で何度も経験してきたが、中学入試ははじめて。受験者数が多いので、監督は外部に発注。世にいう派遣労働の人たちと接することになる。派遣なので指示はすべて、派遣会社の責任者から出すことになり問題がおきても即応しづらい。それでも何とか無事終了。明日は一日缶詰で採点。

某月某日 入試の採点も終了。ちょっと時間ができたので、吉村昭歴史集成(岩波書店)のなかから『アメリカ彦蔵』を読む。難破してアメリカ船に救出され、アメリカにわたり教育を受け、日本人で初めてリンカーン大統領にあった男の数奇な運命を、吉村さん流に精緻に描いている。吉村さんの特徴は、日付をしっかり確定しその日の天気までゆるがせにしないことがある。また、主人公に乗り移ったような心理描写も特色である。この作品はあまり話題にはならなかったが、それでも面白く読んだ。江戸時代の漂流者の運命や、鎖国とはいえ日本をとりまくネットワークがあったこと、ひょっとして現代人より江戸や明治の人間の方がよほど優秀かもしれないのではと思わせるところなど、興味をそそる内容が多い。歴史集成は学校の図書館に入れてもらって、読んでいる。高野長英(長英逃亡)、蘭学事始(冬の鷹)、オランダお稲(ふぉんしいぼるとの娘)などを面白く読んだ。経済とは直接関係あるものではないが、ひろく歴史や人間を考えることも大事と思うので、授業には直接役立たないけれどおすすめのシリーズだと思う。

某月某日 わが妻が目下熱を入れている宝塚歌劇を一緒に見にゆく。宝塚は、ディープな世界だが、演劇的にも面白いし、なによりそれをきっかけに本を読んだり調べたりすることが多く、結構役立っている。今回は、ヘミングウエイ『誰がために鐘は鳴る』である。有名だが原作を読んでいなかったので、帰ってさっそく翻訳を手に入れて読み始める。スペイン戦争中のマドリッド北方の山岳地帯が舞台。舞台ではよくわからなかった登場人物の行動や思想が、原作を読んだことではっきり浮かび上がる。脚本のうまさとまずさも同時にわかる。スペイン戦争を背景にしたものでは、オーエルの『カタロニア賛歌』(岩波文庫)があり、人民戦線内部の内ゲバやバルセロナ攻防戦などを読んでいたが、ヘミングウエイの本でも、政府側の矛盾や問題がしっかり指摘されている。とにかくまだ読んでいない有名な古典は多い。遅ればせながらの青春の読書なのかもしれない。

某月某日 集中講義は半分終了。経済学に対する思いを語りだしたら、止まらなくなり、どうもバランスがかけたようだが、受講生は思いはうけとってくれたようだ。まだ後半がある。経済を苦手とする社会科の先生が、すこしでも経済は面白い、もしくはこんな見方をすると世界が違って見えるんだという意識をもってもらえるように頑張りたいと思う。役立つ本も、次回はしっかり経済の本を紹介できるように、楽しみながら頑張ろう。




Re: 授業に役立つ本 75回 筑波大院 山崎辰也 - 2011/02/19(Sat) 15:51 No.400

その集中講義では大変お世話になりました。
以下、受講した院生から聞いた感想です。

@経済を勉強してみようという気になった。
A経済の見方を知れば、物事が違って見えるようになることがわかった。

経済を専門としない教師でも、経済を勉強することで、専門とする日本史、世界史や倫理の指導の幅が広がることが実感できたようです。
私にとっても、経済教育と経済学の繋がりを考える良い機会となりました。
今後の経済教育研究に役立てたいと思います。
情熱溢れる講義をしていただき、ありがとうございました。

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