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授業に役立つ本 45 投稿者:新井 明 投稿日:2009/12/20(Sun) 11:45 No.320

センターテストまで30日を切り,教えている三年生の顔つきも本格的受験顔になってきました。

今年は担任がないので,成績処理が終わると一応ひと段落ですが,授業は続いています。とはいえ三年生は問題演習ですから,コピペならぬコピプリが続いていて,年末の気分にはなりそうもありません。

そんななか,本日取り上げるのは新しい本ではなく,いまや古典となっている,サムエルソンの『経済学』です。

なぜサムエルソンなのかは皆さんご承知だろうと思います。著者サムエルソンが,12月13日に94歳でなくなったからです。18日の日経新聞の「経済教室」では,東大の伊藤元重教授がサムエルソンの学問的貢献を書いています。

伊藤さんは,自分たちの時代の人間はサムエルソンの経済学を学んだ人間で,その影響は大きかったと書かれていますが,私にとってもこの本は思い出がある本です。

私がサムエルソンという名前をはじめて聞いたのは,高校生2年生1966年の時でした。夏休みに入院手術をしたときに,隣に入院してきた大学生が,経済学部の学生で,いまサムエルソンを英語で読んでいるだと自慢して,私に,サムエルソンって知ってるかいと聞いたことから,その存在を知りました。

その件の彼氏は,少々素っ頓狂なタイプで,彼が学んでいた大学も現在こそ結構有名になりましたが,私の地元では,当時はそんな大学あるのという程度の大学(失礼)だったので,意外な感じをうけたことを覚えています。

岩波から都留重人氏の翻訳(第6版)が出たのは,66年から67年のはずですから,丁度翻訳が出始めたころで,まだ大学では原本を読んでいたということなんですね。

大学生になって,「経済学」の翻訳を購入したのですが,当時はマルクスを読む学生だったこともあり,眺めただけでした。何しろ私の出身大学は,教授のほとんどがマルクス経済学者だった大学でしたから,こんなのはブルジュア経済学であるということで,横の方においておいたというわけです。

それでも近代経済学(当時はそう呼んでいました)の概略は知っておく必要があろうということで時々は,ちらちら読んでいましたが,本格的に読んだのは教員になってからです。

ところが,マルクス的な思考法になれていた人間にとっては,希少性からはじまり,限界効用逓減の法則が出てきて,マクロ経済学,ミクロ経済学と続く内容を理解するは,その思考方法に慣れるのに結構時間がかかりました。

「経済学」の内容に深く興味をもつようになったのは,経済教育に関心を持つようになってからです。アメリカの当時のJCEE(現在のECC)のベーシックコンセプトの形成にサムエルソンが関係していたことを知ったことが大きかったと思います。

経済教育の観点から読み直してみると,この本の偉大さがよくわかります。つまり,経済学の標準化に大きく貢献していることがよくわかるからです。40ヵ国で翻訳された世界的ベストセラーである所以です。

「経済学」は,初版の1948年から現在まで19版を数えてますが,その変遷を見るだけで,アメリカの経済の変遷,および経済思想の変遷が読めるとも言われています。中央大学の中村達也さんが,かつてそれを行なっていたはずです。

日本では,13版のものが翻訳の最後(現在は品切のようです)ですが,経済に関するほとんどの問題を網羅的に取り上げていて,もう古いと言われている割には,しっかり読めば,高校の教科書にでてくる様々な理論の背景や考え方を理解するのに役立つのではと思います。

もちろん,翻訳で1000ページ近い書物ですから,よほどでないと読み通すことなどはできませんが,第一部の基礎的な概念のところをしっかり読んだあとは,必要と関心に応じて事典的な読み方,つまみ食いでもよいのだろうと思います。

赤貧のなかで研究活動をつづけたマルクスに対比して,経済学者で金持ちになったのは,ケインズとサムエルソンぐらいだといわれたことがありました。制度化された経済学の先駆者として,それだけのことをやったという意味では,サムエルソンは偉いということになりそうです。

高校までの教科書は,学習指導要領や文科省が決める定価によってがんじがらめになっていますが,自由競争になったときに,サムエルソンほどではないとしても,大きな影響力を持つものを作ることができるかどうか,制度に安住するのではなく,考えても良い時期になっているかもしれませんね。

前回の問題の解答です。(1+X)2=(1+0.05)(1+0.04)を解けばよいが答えです。二乗がうまくでませんが2は二乗の意味です。解き方はルートを使います。これもうまく表示できませんので,皆さん各自でやってください。



授業に役立つ本 44 投稿者:新井 明 投稿日:2009/12/12(Sat) 14:43 No.319

定期考査の採点が終わり,ちょっと一息ついています。360枚を一人分平均3分として(結構文章を書かせるのでどうしても時間がかかります),約18時間。これを休日と空き時間に授業をやりながら行なうわけですから,やはり大変です。

昔のことを言ってはいけないのでしょうが,かつては,期末考査が終わると採点期間,生徒は自宅学習でクラブや受験勉強など自由に使う。私たちは時間をかけてゆっくり採点をしていた時代から見ると隔世の感があります。本校では,授業時間確保で,25日までしっかり授業をやります。

さて,そんななかでも暇は作るもの,今回も一冊紹介します。

前回の本が,経済と倫理の関係を扱っていたのですが,今回もテーマは同じです。ただし数学出身の経済学者が書いた本です。

小島寛之『使える!経済学の考え方』ちくま新書,がその本です。小島さんは,現在は帝京大学の純教授,経済数学を教えている先生です。

本屋で新書のコーナーのところで見つけた本ですが,タイトルよりも,サブタイトル「みんなをより幸せにするための論理」というところに目がゆき,購入してみました。

経済の本ですが,幸福,公平,自由,平等,正義など,前回の塩野谷先生の本と同じような言葉がならんでいます。

小島さんの問題意識は,序章と終章に出ています。冒頭,社会生活をする中での人々の幸福や平等や自由について語る本,とうたっています。社会においては,ある人を幸せにすることが他の人を不幸にすることにつながる可能性があるから,この問題をとくのは簡単ではないと続きます。

そして,平等と効率のトレードオフが問題だと提起されてゆき,ミルの考察が紹介されてゆきます。

この本が他の本と違うところは,幸福や平等などの社会問題を数学を使って考えようとするところです。数学者だった著者の面目躍如たるところです。

なぜ数学なのか,数学は非情緒性があること,形式論理のうえでの論証ができること,理想状態で成立する例を与えることができることの三つを小島さんはあげています。これは前々回に紹介した大瀧さんの本でも同趣旨のことが書かれています。

このような問題意識から,幸福はピグーの理論が,公平ではハルサニーの定理,自由ではセンの理論,平等ではギルボアの理論(ここではジニ係数の算出方法などが紹介されています),正義ではロールズの理論が,市場経済の安定ではケインズの貨幣理論が,それぞれ扱われてゆきます。

ここでは,それぞれの箇所を紹介することはしませんが,功利主義の考えや問題点,リベラルバラドックスなどが取り扱われて,これらの価値問題に経済学者や思想家がどのように取り組んできたか,そのプロセスと成果,残された問題が簡潔に紹介されてゆきます。

数学が扱われているからといって,そんなに数式がバンバン出てくる本ではありません。期待値の箇所の何箇所が数式が登場する程度で,ほかは文章で説明されていますから,理解するのはそんなに困難ではありませんでした。

とはいえ,内容は結構こいもので,本当にこれらを理解してゆくのは大変だと思っています。おぼろげながれでも,経済学が何をめざしているかを私たちが理解した上で教室で生徒に語れればいいなと思っています。その意味では,役立つ本だと言えるでしょう。

この本のオススメのところは,終章にもあります。それは,数学だった小島さんが経済学にたどり着き,この種の価値問題を取り上げているかという問題意識の開陳をした部分です。

そこには,小島さんの個人史と教育と平等の問題に逢着した経過が書かれています。東大にはいって,日本の教育制度が,社会を平等化させるのではなく,不平等を助長させるものに気付いたこと,その後,ポールズやギンダスの著書や,アカロフの著作からその理由を考え,現在取り組んでいる「論理的選好」と小島さんが呼んでいる理論までたどり着いたかの記述があります。

経済学の本では,大瀧さんの本でもそうでしたが,このような著者の意識が書かれている本は少数派でしょうが,だからこそ面白いのだと私は思っています。

そういう個人史を含んだ,本書は私たちにも,なぜこれを生徒に教えるのか,教えてなにが得られるのかという問題意識をなげかける点で役立つと思うのです。一読あれ。

さて,冒頭のテストの件,今回は理系の三年生に,小島さんの本でも扱われている,ローレンツ曲線に関するセンターテスト問題(政治・経済で2007年度に出題)を出し,それを発展させる意味で,ジニ係数を計算させ,最近のジニ係数の変化の数字から何が読み取れるかという問題を出しました。

ローレンツ曲線やジニ係数の考え方は授業で説明してありましたが,計算方法までは教えてありません。誘導の文章があるので,それを読んで挑戦してみなさいという応用問題です。

結果は,期待はずれでした。ジニ係数変化は読めた生徒が結構いましたが,かなりできる生徒でも計算はほとんど手がつかず(数学ではなく,算数の領域なんですが)壊滅状態でした。

教えている私自身が,数学が苦手人間ですから,やはり無理なのかなと思ったり,今の生徒は成績が良くても本当はできないんだなどなど,自分を棚に上げて思ったり,いろいろ考えさせられました。

もう一つ余分な話ですが,今回のテストでやはり理系生徒に出した応用問題で出来の悪かった問題に,次のものがあります。もしよかったら挑戦して見てください。

問題「ある年の実質経済成長率が5%だった。次の年の成長率は4%となった。この二年間の平均成長率は何%か。平均成長率をxとして式を立てて,解き方を書きなさい。(計算までしなくてもよい)」

ヒントは,幾何平均の考え方です。これが分からないと高度成長の本当の意味がわからないと思うのですが,とにかく出来ませんでした。





授業に役立つ本 43 投稿者:新井 明 投稿日:2009/12/05(Sat) 23:42 No.318

12月に入りました。師走です。私の勤務校では,後期中間考査中です。二期制なので,こんな名称です。一年と三年向けの3種類のテストを作り,約360枚の答案を採点します。いつものこととは言え,どのくらい生徒が授業を理解しているかが分かるという意味では,答案を読むのは楽しみでもあり,苦行でもあります。全国で,この時期には,どのくらいのテストがされているのでしょうか。

さて,忙中閑有りというより,暇は無理やり作るべしということで,本日も本を紹介します。今回も,多分直接教材には役立たない本です。

紹介する本は,塩野谷祐一著『エッセー 正・徳・善』ミネルヴァ書房刊です。塩野谷先生は,経済哲学の泰斗であり,ケインズの一般理論(東洋経済版)の親子二代での翻訳の完成でも有名な方です。

このエッセー集は,エッセイ(随筆)というより,経済と倫理を巡る経済哲学の基本問題,規範経済学の内容を「やさしく」述べた「小さな専門書」とも言うべき本です。

私は,教育研究の世界に入るきっかけが,高校で「倫理・社会」を担当して,倫理の研究会に参加したこともあり,経済と倫理には当初から興味と関心をもってきていました。だから,塩野谷先生の一連の著作は,結構読んでいました。しかし,『価値理念の構造』からはじまり,最近の著作である『経済哲学原理』までの本は,本格的すぎて,読むは読んだが,本当に咀嚼できたかという点では心もとないものでした。

この本は,その意味で,塩野谷経済哲学を知るには格好の入門書になるだろうと期待して読みました。でも,やはり跳ね返されたという感覚で読み終えました。とにかく,この本から浮かび上がる塩野谷先生の像は,厳父という雰囲気です。

実際,もう15年近く前になると思いますが,一橋大学の学園祭で,学生団体が主催した,経済学を検討するというような論題のシンポジウムに参加されていた学長前の塩野谷先生が,学生の経済学批判に対して,ちゃんと勉強してからそういうことは言うべきだと,たしなめられた発言を聞いたことがあり,そんな雰囲気がこの本からも漂ってきます。

前著の大瀧本でも書きましたが,これは批評ではなく,評価です。現代では少なくなった一本筋の通った研究者の姿がそこに浮かび上がります。

エッセー全体で,塩野谷先生が言いたいことは,経済という営みをきちんと振り返り,新たな形で構築する必要が経済学にはあり,そのためには,経済および経済学は良い社会つくりのために活動しなければいけないということだろうと思います。そのときには,正(正義)が最優先され,次に徳(卓越),そして善(効率)という優先順序で価値が整えられている必要があり,そういう社会をビジョンを持って創る責任があり,その責任をもって進める事が,「経済を投企する」ということだ,と読みました。

経済哲学,倫理学にアリストテレスやトマスなどは常連でしょうが,この本ではついに,ハイデガーが登場しています。ハイデガーの登場する経済学の本は,はじめてです。

その意味では,この本,現代の実証経済学に従事している人たちにはなかなか届かないのではと思ったりしていますが,高校の現場では,倫理を担当している教員には,ぜひ読んで欲しいなと思う本です。それだけでなく,政治・経済の担当者にも手にとって読んでもらいたいとも思っています。全部が全部,厳格ではなく,スポーツを取り上げたり,フリーター問題を扱ったり,入り口は沢山ありますから,関心をもったところから読めばよいと思います。

私は,昨年,倫理部分を教えるために,ハイデガーに再挑戦して,やっと『存在と時』を読み通してみました。読んだというより眺めたという感じでしたが,それでもハイデガーの問題意識は伝わってきました。そんなことがあったので,この本のサブタイトルとなっている,「経済を投企する」にはピンと来るものがありました。

また,塩野谷先生が会長として,この本の元になるエッセイを連載されていた『季刊家計経済研究』の発行もとの,家計経済研究所とは,同研究所が『サイフ学』というパンフレット作成の時にお手伝いをしていたこともあり,接近遭遇をしていたのだとも思いました。

ともかく私も経済教育だけでなく,学校,家庭などあらゆる場面で,ちゃんと「投企」した生き方をしなくてはと反省もさせられています。そのためには,このコーナーに書いているより,まずは,採点をきちんとしなくては。



授業に役立つ本 42 投稿者:新井 明 投稿日:2009/11/28(Sat) 23:31 No.316

早いもので,もう一週間たちました。東京は,今日はあたたかな土曜日でしたが,あすは寒くなるとの予報です。すぐに師走です。

経済は,ドバイショックもあり,円高が進み,二番底になるのではと怖れられています。そんななか,無駄使いを排すと,仕切り役は張り切りますが,ある局面では無駄使いでもいいから,需要を拡大することも必要かもしれません。そんな時に,思い浮かぶのはケインズです。一度は「殺された」ケインズをどう再評価するか,経済政策が問われているといえるでしょう。

さて,本日紹介するのは,大学生向けのテキストです。著者は大瀧雅之先生で,タイトルは『基礎から学ぶ経済学・入門』有斐閣です。

大瀧先生と表記したのは,先生とは教科書の編集会議で一度直接お目にかかって,お話をしたことがあるからです。私は,大瀧先生が書かれた「政治・経済」の教科書には関係しなかったのですが,その時の印象が強く,この表記にさせてもらっています。

ちなみに,大瀧著の教科書は,しっかり書かれていると評価は高いのですが,経済学的にしっかり書かれているものは売れないというジンクスがここでも当てはまり,数年後には姿を消す運命です。

なぜそうなるかというと,経済学の知見から一貫して書こうとすると,現場で使えないということになってしまうのです。これが教科書の宿命であるなら,それをどこかで変えてゆく必要があるというのが,わがネットワークの使命です。

ちょっと横道にそれましたが,今回の本は大学生向けですが,高校までの教科書と同じ運命になるかもしれないなという少々危惧を覚えました。

これは,批判ではなく,評価です。

この本は,著者大瀧先生に曰く,「ミクロ経済学から出発して,マクロのケインズを理解するための入門書」なのですが,ミクロとマクロを別々なものとして解説するのではなく,「それが一体となっている」ところに特色があるからです。

そのため,この本では,市場経済におけるパレート効率性を理解させることがまず目指され,現実の経済での寡占企業の行動と評価をするためのゲーム理論が解説されます。また,経済変動,不況は戦略的補完関係から発生し,総需要外部性の強さを計るには,ミクロには現れない貨幣の存在を導入して,その理解のもとで,財政・金融政策の有効性を確かめるという構成になっています。

このように,いわゆる標準的な教科書とは,一味違う構成となっていることが本書の特色です。

加えて,各所に大瀧節ともいうべき,大瀧先生らしい経済学への思いや,研究者としての思いがつづられています。さらに,読書案内では,漱石の『それから』からはじまり,ケインズの『説得評論集』まで,他の経済学の本とは一味違う本が紹介されています。

私は,ミクロとマクロを一体として理解するという箇所を評価することはできませんが,大瀧節のところはとても面白いと思いましたし,ぜひ皆さんにも読んでもらいたいと思います。

冒頭第一章の,経済学の目的はお金ではない,社会正義とはなにかの箇所などはその通りだと思いながら読みました。こんなにストレートに思いを語る経済学者はいないなとも思います。

ほかにも第二章の消費者主権の考え方で紹介されている,「部分と全体の二分法」の箇所などもとても面白い。ご自身の体験を踏まえた若者への提言なども,私たち高校の教員にも励ましになる部分だろうと思います。

ガイドポストと銘打たれた,「経済学の基礎を習得する道筋」という長いコラムも読ませます。なぜ勉強するのか,教育と家族の経済学なども大瀧先生の思いがあふれています。

だから,危惧も感じます。つまり,この本は教科書ではなく,一般向けの教養書として出したほうが良かったのではということです。教科書では,大瀧先生以外の先生方は使わないでしょう。いや個性がありすぎて使うことを躊躇してしまうのではと思ったりします。でも,高校の教科書と同じ運命になるとすると,もったいないというのが正直な感想です。

経済学者のなかには,主流派経済学批判で日本文化に依拠するということで,これまでの主張を投げ捨ててしまったりするケースもありますが,大瀧先生は,経済学の論理のなかで,問題を突き詰めてゆこうとしています。その姿勢や良しです。

「基礎」は「初等」ではないと喝破され,数式もバンバン使っている本書を,紐解く大学生がどれだけいるか,興味をもって見守りたいと思っています。

追伸ですが,前回書いた,『One Piece』5巻まで貸してもらい,読みました。たしかに面白い,傑作になることはわかる導入でした。ただし,単行本で50巻を超えるすべてを追っかけて読む気力と時間はないので,これでやめておこうと思っていますが,時間があればこれも一読あれ。現代が欲している,「友情」「努力」「勝利」が書かれていることは確かです。

まあ,これも忙中閑有りということにしておいてください。また,英語のつづりが違っていたこともご愛嬌ということでお許しを。



Re: 授業に役立つ本 42 新井 明 - 2009/11/28(Sat) 23:38 No.317

補足:「ミクロとマクロを一体化して理解する箇所を評価することができない」という部分は,内容が間違っているとか,問題だということではなく,私の経済学の理解のレベルでは,その方法が良いか悪いかということ,記述の内容へのコメントは不可能であるということで,大瀧本の内容を否定している意味ではありませんので,補足させてください。



無題 投稿者:新井 明 投稿日:2009/11/21(Sat) 17:00 No.314

家族の変調は,やはり近くにいる人間にとっても全く影響がないわけではないということを感じつつ,生活しています。

とは言え,せっかく与えられた「休暇」(当初は,学会にでかける予定でした)を活用したいと思って,この連載?を続けてみます。

今回紹介する本も,直接使えるという本ではありませんが,読んで面白い,また教員をやっている人たちにとっては参考に,場合によっては批判の対象になるかもしれない本だと思います。

その本は,三ツ屋誠『少年ジャンプ資本主義』NTT出版という本です。

この本,新聞広告でタイトルを見て,またNTT出版という出版社から発行されている点を見て,ピンとひらめいた本でした。前任校の保護者たちとの集まり(卒業6年たっても毎年集まりがあります)があった先週の土曜日に,国立の増田書店に久しぶりに寄って,本物をみつけて早速通読しました。

本も含めて,授業を面白くしたかったらアンテナを張っておく必要があります。本に関しては,新聞広告は重要な情報源です。また,それなりの品揃えをしている本屋さんが近くにあることが重要です。

国立の増田書店は,10年間随分お世話になった本屋さんです。一年ぶりに立ち寄ったのですが,今回もしっかり仕入れをしているなと思う棚ぞろえでした。

さて,この本ですが,著者三ツ屋さんは,全く初めての人です。奥付けを見ると,会社員をしながら書いている人のようです。村上龍氏の『MMJ』というメールマガジンの常連の寄稿者とのこと。

内容は,少年ジャンプの代表作をあげて,その作品が出てきた時代背景と,作品のメッセージを読み解くというものです。

少年ジャンプに関しては,教育関係者からも著作が幾つか出ています。それだけ子どもへの影響力が強い雑誌なんだろうと思います。なにせ,最高時には600万部を超えていたおばけ雑誌ですから。

本書でとりあげている作品は,発行初期60年代後半の「男一匹ガキ大将」,70年代前半の「あすとろ球団」,80年代〜90年代は「リングにかけろ」「キン肉マン」「キャプテン翼」「北斗の拳」「ドラゴンボール」,ゼロ年代になっては「ジョジョの奇妙な冒険」「ONE PEICE」と続きます。

もちろん,これ以外にも代表作やヒット作はあるのでしょうが,著者が選んだこれらの作品から,時代精神を読み解こうというものです。

著者に言わせると,ジャンプ創刊の1968年には,日本は高度成長末期で,次の高度資本主義の時代が幕開けをしようとする時期で,その時代の変化をジャンプは的確に対応しながら成長してきたということになります。

ジャンプのスローガンである「友情」「努力」「勝利」は,普遍的でありながらも,この40年の資本主義の変化のなかのそれぞれの局面で生きてゆくというのが著者のメッセージです。

ほんとうかいなと突っ込みたくなるところもありますし,これってマルクスの土台と上部構造の焼き直しじゃないかとおもうところもあります。でも,ここでの目的は授業に役立つということですから,その観点から言えば良くかけているし利用可能というのが私の結論です。

例えば,戦後の日本経済の歩みの箇所で,石油危機以降の安定成長期,プラザ合意からバブル時,失われた10年と続く説明のなかに,それぞれここで取り上げられた作品を入れながら語るというのも,良いじゃないかと思ったりします。

私自身は,ジャンプとはあまりご縁がなく,自分の子どもが読み出した時に,一緒に読んでいたくらいですから,正直,個々に出てくる作品に思いいれはないのですが,それでも,「帝国」と対峙するためにと銘うたれた「ONE PIECE」は面白そうだと感じました。

この頃は,教室にジャンプがほってあるということがなくなったようで,高校生にはジャンプの威力はなくなっているなと感じています。ところが,同じ社会科で,それ全部持っているよという教員が二人!(ともに40代半ば)いますので,その一人に貸してくれと頼んだところです。

全巻通読できるかどうかはわかりませんが,貸してくれたら早速読んでみようと思っています。暇だなあ!



Re: 無題 新井 明 - 2009/11/21(Sat) 17:04 No.315

タイトルを入れ忘れました。授業に役立つ本 41回目です。



授業に役立つ本 40回 投稿者:新井 明 投稿日:2009/11/14(Sat) 18:44 No.313

家庭の事情から,活動を低下(停止ではありません)させて二週間。家はちょっと大変ですが,逆に,私の方は,少し余裕がでてきたようです。

この連載も復活。どこまで続けられるかやってみようと思っています。

さて,本日紹介する本は,タイラー・コーエン『インセンティブ』日経BP社,という本です。著者のコーエン氏というのは,奥付けを見るとジョージメイソン大学というところの経済学の先生をやっている人のようです。

この本,原題が「内なる経済学者を発見せよ Discover Your Inner Economist」となっているように,経済学の知見を日常生活に応用したらどうなるか,という本です。

この種の本は,このコーナーでも『まっとうな経済学』『やばい経済学』『ひとでなしの経済理論』などいくつか紹介してきました。この本も,その路線にある本です。

ある意味では,同じような本を紹介し続けてもきりがないのですが,『インセンティブ』というタイトルに惹かれて衝動買いをして読んで,なかなか面白いし,使えると思ったので紹介する次第。

本書は,全体は10章からなっています。すべてが面白いわけではなく,役立つなと思ったのは,1章,2章と終わりの方の9章です。

1章では,先行する,D・フリードマンの『日常生活を経済学する』や,ランズバーグの『フェアプレイの経済学』を批判する。経済学者が書くこの種の本は,「バナナを買うような単純な話」にしてしまい,「人間の動機の複雑さや多様性を」とらえきっていないと言う。たしかにそういう点はあるよな,と私も思います。

とは言え,この本がその種の単純さをちゃんと超えているかというと,必ずしもそうは思えない部分は沢山あり,目くそ鼻くそじゃないかと思わないでもないのですが,それでも面白いところがこの本の比較優位かと思います。要するに,コーエン氏は,インセンティブをうまく使えばいいのだということを言いたいわけです。

そのための基本編にあたる2章では,具体例を三つあげています。一つは,汚れた皿の例えで,お皿をだれが洗うかという問題です。二つ目は,自動車セールスマンの例えで,報酬をインセンティブにする例。三つ目は,駐車券の例えで,違法駐車をなくすことができるかどうかという問題で,ここでは文化と人間行動の関係が紹介されています。

三つの事例と,インセンティブの関係は本書を読んで,自身の考えと比較するとよいと思いますから,ここでは書きません。私が面白いと思ったのは,著者の結論の当否より,この種の問題を,私たちは学校で,教室で日常的に経験しているからです。いずこも同じということです。

掃除をどうやらせるか,校則をどう守らせるか,遅刻をさせないようにするにはどう指導すればよいかなど,日々悩んでいる先生は多いと思います。この種の問題に決定的な解決策はありませんが,この本には,解決ヒントが詰まっているように思います。

これって特に経済学の知見としなくてもよいと思うのですが,この本は,その種の事例がたくさん詰まっているケーススタディ集としてみると面白いし,警句も沢山はいっていて活用できると思います。(家庭生活を巡る部分は,少々耳に痛いものが多かったですね。)

3章以下の応用編は,面白い部分と,まあそんなものかという部分がありますが,それはどんな本でも同じでしょう。それぞれの先生が関心に応じて読めばよいと思います。グルメや美術の箇所は,私は面白くはありませんでした。

それでも,9章の「クリスマスプレゼントは世界を救うだろうか?」は考えさせられます。

プレゼントをODAとすれば,援助問題になるし,同章で取り上げられているようにフェアトレードの効果など生徒に考えさせるための素材がここにはつまっています。一つ一つの問題やインセンティブの与え方は,さらに突っ込んで考える必要がありますが,教材の素材になりそうな箇所が結構あります。

著者コーエン氏は,良い経済学と悪い経済学を見分ける三つの原則をあげています。一つ目,はがき大にまとめられるか。二つ目,おばあちゃんに理解してもらえるか。三つ目,あっそうか,を感じる原則であるか,です。

こんなに単純化して本当に世の中分かるのかと思う人もいるでしょうが,これって良い経済学というより,よい授業のポイントかもしれません。なにしろ,私たち教員は教えすぎますからね。反省,反省。



授業に役立つ本 39回 投稿者:新井 明 投稿日:2009/11/08(Sun) 09:39 No.270

前回から一週間。大学は学園祭の季節になりました。受験をする高校生は,センター試験まで70日を切って,追い込みの季節になりました。私の勤務校でも,校内実力テストが先週は行なわれました。

私は,今回,はじめてマークカードの読み取りで問題を出題。採点が楽でびっくりしました。でも,マーク式は生徒の顔が見えないので,良し悪しです。とはいえ,採点だけでなく,正答率まででてくるので,問題が問題であるという点も見えてきて,いま取り組んでいる「入試問題検討プロジェクト」の評価などにも,参考になります。

さて,私の周辺もちょっと慌しくなってしまいました。家庭の事情で,研究会の活動を当分最小限に絞らなくてはならなくなってしまったからです。そのため,予定されていた行事にキャンセルせざるを得なくなり,各方面にはご迷惑をおかけることになっています。

私自身は,今のところ元気?(ただし,風邪をひいて先週はややヘタっていました)ですので,このコーナーの本の紹介は続けようと思っています。

ということで,今回も本を二冊紹介します。でも,今回の本は,授業にはちょっと役立たないかもしれません。私の趣味に近い本です。

一冊目は,ライオネル・ロビンズの『一経済学者の自伝』ミネルヴァ書房,です。ロビンズは,大学の経済学では,経済学は希少資源の分配を巡る科学であるという定義(正確には「経済学は,諸目的と代替的用途をもつ希少な諸手段との間の関係としての人間の行動を研究する科学である」)をした人物として有名でしょうが,高校までには全く出てこない経済学者です。

経済は希少性のもとでの選択である,という私の経済理解の元になった命題の提示者でもあります。だから,ずーっと関心を持ち続けてきたのですが,その自伝が翻訳されて出版されたということです。

単なる伝記ではなく,自分の経済学者としての自己形成と活動記というものなので,そう気軽に読めるものではありませんが,名ばかり有名でなかなか実態がしられていない学者の軌跡を辿るには良い本です。

ロビンスが私の関心とクロスするのは,希少性定義もさることながら,彼がロンドンスクールオブエコノミックス(LSE)の出身であり,そこで活躍した経済学者だからです。

というのは,LSEは主流派経済学の拠点となる過程で,オーストリア学派や北欧などヨーロッパ大陸からの研究者を多く引受てきた歴史があるからです。そのなかではハイエクが一番有名ですが,ハーバーラーやマハループなど,アメリカに渡るオーストリア学派はLSEが結節点になっています。また,一時,ポパーも招かれて講義をしています。(日本の森嶋通夫さんもここで教鞭をとっていました)。

アメリカの経済教育のなかに,オーストリア生まれの機会費用概念が大事なものとして位置づけられているのは何故かというのが,私の長年の疑問でした。その背景になっているのはここLSEでの知的交流ではなかったかというのが,私の仮説なのですが,それを裏付けるものが書かれているかもしれないという,興味もあり,読んでみたということもありました。

残念ながら,機会費用概念に関しての新発見はなかったのですが,高校の教科書との関連で言うと,ベバリッジが登場してきて,おやそうなんだと思いました。

ご存知,ベバリッジは,1942年に発表されたベバリッジ報告のベバリッジです。彼は1919年から1937年まで,LSEの学長を務め,ロビンスはベバリッジ時代育てられた学者だったのです。しかし,ロビンスはベバリッジには批判的で,二人の関係は良くなかったようです。

教科書に出てくる人物で,この人の名前は覚えておきなさいというような授業をよくやりますが,その人物のしっかりした背景などまで知った上で,教えることが少ないのが実情です。そのひとりベバリッジがここでつながり,納得ということになりました。

さて,今日紹介しようとするもう一冊があります。木村雄一さんという新進の学者がかかれた『LSE物語』NTT出版,です。木村さんは,先のロビンスの伝記でも,分担訳をしています。

こちらの本は,LSEに焦点をあて,その誕生から,経済学の世界での地歩を確立するまでが,簡明に書かれた読みやすい本です。この本も,授業には役立ちませんが,ベバリッジの業績や問題点がしっかりかかれていて,全体を理解するのには手ごろな本です。

奥付けを見ると,木村さんは,昨年から埼玉大学の教育学部で,社会科教育講座で経済学を担当はじめた方のようです。教育系の大学生は経済学が嫌いな学生さんが多いという傾向があるようですが,若い木村さんがどんな講義をして,教壇に立とうとする学生に刺激を与えるのか,興味があります。

本の中身とはちょっと関係がありませんが,直接授業に役立たなくても,こんな趣味に近い部分でのストックも授業に多少は味を出す素になるかもしれませんね。



早くも11月,役立つ本番外 投稿者:新井 明 投稿日:2009/10/31(Sat) 18:59 No.267

慌しく過ごしていたら,もう11月になります。

この間,政権交代があり,臨時国会が開かれ,各種の新政策が打ち上げられています。経済教育に関連したものでも,郵政の見直し,公共事業の見直しなどが注目されます。これを見ていると,合成の誤謬だなと思うことがたくさんあります。

授業でも,生徒から質問が出てそれに答えなくてはいけない場面も多いのではと思います。社会科や公民科の教員の見識が問われる時代になっていると思っています。

さて,ここで続けてきた「授業に役立つ本」,細かく内容をまとめながらの紹介は大変なので,この間に読んだ何冊かを読書メモ風に紹介しておきます。

最初は,ちょっと古い本ですが,相田洋他『マネー革命』三冊です。相田さんは,元NHKのディレクターです。この本は11年前に放映されたNHKスペシャルの『マネー革命』の内容を本にしたものです。

なぜ,この本を薦めるかというと,一つは,テレビ番組の制作方法は,私たちが授業をつくるのと大変似ていると思っているからです。生徒を揺さぶる授業は,丁寧な調査と組立が必要です。それを大規模にしているのがテレビドキュメントだと思います。その意味で,この種の本は読みやすく,授業のヒントがたくさん詰まっています。

二番目は,時代の証言の意味です。どうして,サブプライムから今回の金融不況がもたらされたのか,そういった問題の発生源をどのようにすぐれたジャーナリストはとらえていたのか,その証拠があるからです。ともかく,10年前のこの本に,現在に至る問題点がしっかり指摘されていることに驚きます。

三番目は,難しいことをいかに噛み砕くのかの参考になります。これは,池上彰さんが力説していることとも絡みます。複雑な仕組みを,素人の取材陣が専門家に食いつきながら,視聴者に伝える努力。私たちもおなじだなと励まされます。

図書館などにありますので,一読あれ。

二冊目は,ちょっとキワモノ本ですが,東谷暁『エコノミストを格付けする』文春新書です。東谷さんの本は,同じ文春新書の『エコノミストは信用できるか』の続編です。金融不況に直面したエコノミストの「大恐慌ぶり」と言説の軌跡が書かれています。これも一種の証拠本です。

もちろん,ご本人が経済の専門家ではないと言っている様に,それぞれの経済問題への評価は留保する必要はあるかもしれませんが,エコノミストがどのように言ってきたのか,それがこれだけまとめられると壮観です。

三冊目は,諸富徹『経済学』岩波書店です。シリーズ・ヒューマニティーズの一冊です。この本は,内容より「あとがき」に注目です。

というのは,諸富さんは,わが篠原先生の教え子だったのです。篠原先生の講義ぶり,ゼミ生への手厚い指導ぶりなどが書かれています。また,諸富さんの「彷徨い」と現在の到達点が書かれていて,興味深いものがあります。

学者が自分を語りながら,時代と切り結ぶことが少なくなっていますが,コンパクトな本ですが,考えさせられるものがあります。

以上,三冊です。こんな形でまだ続けてみようと思っています。



「公共財ゲーム」について 投稿者:松澤 剛(札幌藻岩高校) 投稿日:2009/09/09(Wed) 15:59 No.264

新井 明 先生

先日は,北海道でのご講演ありがとうございました
早いものでもう1ヶ月なのですね.

本日,このページを見つけたもので,おそくなりましたが,お礼かたがた
「公共財ゲーム」についての感想を述べさせてもらいたい と思います.

 私も近年ロールプレイやシミュレーションを取り入れたワークショップ形式の授業に関心を抱いております.
きっかけは,2000年代にはいってから,なかなか生徒に「ことば」がなかなか伝わらない.ちょっと抽象的な話をすると寝る,といったことが多くなっていることです.
 また,社会全体に多様化がすすみ,今まで,同じ場所で同じ時間を過ごしてさえすれば,何となく一体感を感じることができた教室 の「共通前提」のようなものが失われ,バラバラな個人がただ一緒にいるだけというような状態になってしまったからです.
 その中で授業を成立させるためには,クラスの中に議論の「場」や学びの共通の土台となるようなものを,共通の体験を通じて築き上げていく努力が必要となっているように思うからです.

 さて,今回の「公共財ゲーム」体験を通じて私は多くのことを体感いたしました.
その中でも一番強く感じたのは「顔見知り」であることの重要性ということです.
 うまく説明できませんが,人間も群れの動物である以上,顔見知りであることによって,利他的行動が促進され共通善のようなものが生まれるのではないかと感じました.
 逆に,不特定多数のものが,おなじようなことを行うと,「自分一人くらい」というような感情が生まれ,「社会的ジレンマ」に陥るのではないかということです.
 この教材を使えば,環境問題や年金保険金の未払いなどの問題や,それを解決するための法の整備の必要性などというように,学びを発展させることができる可能性があるのではないかと思いました.

 以上雑ぱくですが,先生には
 またどこかでお会いできることを楽しみにしております

松澤剛(札幌藻岩高校)



Re: 「公共財ゲーム」について 新井 明 - 2009/09/25(Fri) 02:06 No.265

松澤 先生

ご無沙汰しています。9月に入って,なんとなく気ぜわしく(私たちの学校は二期制で9月は期末+文化祭の季節なのです),この欄もご無沙汰で,返事が遅れて申し訳ありません。

札幌ではお世話になりました。

さて,先生のご指摘,私の体験からもうなずけることが多く,共感しました。とにかく,最近の生徒はよく寝ますね。私は「死亡率」といっていますが,それを1割以内に押さえられたら上出来という感じを持っています。

寝かせない授業をいろいろ試みましたが,最近は,あまり力まずに,あとで「あの時聞いておけばよかったなあ,もったいなかったな」と将来言わせるような授業でありたいなどど,少々後退線に近いスタンスで臨んでいます。

そのなかで,生徒を巻き込めるものが参加型の授業でしょう。ただ,常に参加型にするわけにもいかないので,授業内容とタイミングを見計らって,入れるようにしています。今度は,何が出てくるかという思いを抱かせるようになると,素敵ですが,なかなかその域にゆきませんね。

さて,公共財ゲーム,先生のおっしゃるように,参加する生徒の集団によって,結果がかなり違うように思います。これは,昨年「経済教育学会」で発表した,最終提案ゲームの結果でもはっきり出ています。

あまりよく知らない集団(大学の講義)などで実験をすると,ある種意図どおりの結果がでますが,高校のHRだと,いくら相談するな,自分の判断で,合理的に判断せよといっても,そうはならないようです。

これは,生徒自身も自覚しているようで,どうしてそのような判断をしたのか,そういう結果になったのかを書かせると,「クラスで知り合いがいたから」利他的行動をした,ということを書いている生徒は結構多くいました。

このあたりは,非常に興味深い結果だと思います。日本人の特色なのか,それとももっと一般的な親密性があるとそのような結果になるか,比較も面白いと思います。

実験経済学とは違い,私たちは,教室での教育の一環ということで,アバウトに,使えるところは使うという姿勢でよいのですが,せっかくですから,教育研究のテーマとされると,現状の突破口が開ける可能性があるのではという予感がします。

いずれにしても,私たち現場の教員が元気で,いろいろ仕掛けをして,生徒を「寝かせない」ような授業をしてゆく。その成果を,発信してゆく。永遠のテーマですが,遣り甲斐がある挑戦ではないでしょうか。

北海道でも,ネットワークとの連携が進みそうです。先生が指摘されているように,環境問題,年金問題などの授業でも,改良したものを実験され,報告していただけると有り難く思います。

新井 明



アダム・スミス 自由放任と見えざる手 投稿者:北海道江別高等学校 菅原晃 投稿日:2009/09/05(Sat) 16:27 No.262

「アダム・スミス 自由放任と見えざる手」について、専門家の解説です。「見えざる手は市場メカニズムのことではなく、スミスの思想は、自由放任ではない」ことが述べられています。

根井雅弘 京大院経済学研究科教授 専攻:「経済思想史」
『経済学とは何か』中央公論社2008

<見えざる手について>
p6
…スタンダードな経済学の入門書をひもといた途端に資本主義の根幹をなす「市場メカニズム」…の説明がアダム・スミスの「見えざる手」という言葉とともに出てくることである。例えば、N・グレゴリー・マンキューの有名な教科書…
p8
…レオン・ワルラスの流れをくむ現代の一般均衡理論がこのような「価格メカニズム」(=スミスの「見えざる手」)の魔力を解き明かしたのだと説明されているかもしれない。
…だが、このような説明に接すると…スミスの「見えざる手」が独り歩きしているという印象を拭う事ができない。…一般均衡理論の眼でスミスの「見えざる手」(=「価格メカニズム)を捉えてしまうと…どの文脈で使われているのかが全く見えてこない。

(注:このあと、―「国富論」見えざる手の部分を引用−)

P10-11-12
…すなわち、スミスの「見えざる手」は、この文章にあるように、各個人が最大の利潤を求めて資本を自由に動かすこと(これが本来の古典派の「競争」である)との関連で出てくる言葉であり、「価格」のバロメーター機能のみに注目する一般均衡理論とは着眼点が異なっているのである。

…スミスには、「資本投下の自然的順序」こそが富裕に至る自然的進歩の理想であるという思想があった。

…スミスの「見えざる手」は、このような富裕の自然的進歩の思想…を正確に理解しなければ、その言葉がスミスを離れて独り歩きする…。

…それにもかかわらず、ある政治的目的をもった人たちは、スミスの「見えざる手(=「市場メカニズム」)が…完璧に機能するという「レッセ・フェール」の思想を正当化するために利用してきた。

<自由放任について>
『経済学はこう考える』ちくまプリマー新書2009

P27-30
 経済思想の解説書のなかには、ケインズ以前の「古典派」(スミス・リカード・ミルなど)はいうまでもなく…ピグーなどに至るまで、すべて「自由放任主義」を奉じていたかのように書かれているものがあります。…残念ながら、ケインズの有名なパンフレット『自由放任の終焉』のイメージが誤解されて伝わった学説史上の誤解の一つです。

…政府の最低限の義務を三つ(「国防」「司法行政」「公共事業」)挙げましたが…これ以外の介入をまったくおこなわないことを「自由放任主義」と呼ぶのならば、当のスミスでさえ、自由放任主義者ではないことになります。『国富論』の全体を精読するならば…

…たしかに、『国富論』のなかには、有名な「見えざる手」という言葉が登場しますが…自由放任主義によって「自然的自由の制度」と彼が呼んだ一つの理想状態におのずと導かれるかのように誤解されたのは、思想史上の「悲劇」と言ってよいかもしれません。


<教科書、資料集の記述>

 清水書院『現代政治・経済』H21年 p94 
 イギリスのアダム=スミスは、『諸国民の富』において、資本主義経済の自由な競争が「見えざる手」のはたらきにより社会全体の調和をもたらす、と述べた。このばあいの「見えざる手」とは市場機構のことである。個人が自由に自らの利益の拡大を追求することにより、社会全体の利益が増すので、国家は個人の経済活動に介入すべきではない。その際、国家の役割は国防・治安維持など必要最小限の活動にとどめ、「経済に対してはいわゆる自由放任でのぞむべき」である、と考えられた。

浜島書店『最新図説現社』07.10.10 p250
 人々の自由な経済活動に任せておけば神の『見えざる手(市場の働きのことをこう読んだ)』の導きによって、市場はおのずと均衡が保たれてゆくとし、自由放任(レッセ・フェール)政策を主張した。
p137 
…価格の動きによって需要量と供給量が調整された。これを価格の自動調整機能といい、アダム=スミスはこの機構(市場機構、価格機構、プライス=メカニズム)を著書『諸国民の富(国富論)』の中で神の「見えざる手」とよんだ。

山川出版社『新版 現代社会』22.23年度用見本 p89
 アダム=スミスは…政府が経済に干渉しない自由放任主義を唱えた。
p99
 市場価格が需要と供給を調整する働きを価格の自動調節機能といい、アダム=スミスはこれを神の「見えざる手」にたとえた。

東京書籍『最新ダイナミックワイド現代社会』2008.2.1 p109 このような価格メカニズムを『価格の自動調節機能』(プライスメカニズム)とよび、これをアダム・スミスはその著書である『諸国民の富(国富論)』で神の『見えざる手』と名づけた。


山川出版社『新版 現代社会』22.23年度用見本 p64
 また、価格は、供給量と需要量を調整し、資源の最適配分をおこなうように作用する。この働きを価格の自動調節機能といい、アダム=スミスはこれを神の「見えざる手」とよんだ。


実教出版「高校政治・経済」H21.1.25 p105 
…需要と供給の不均衡を解消する価格(市場)の自動調節機能がある。アダム=スミスはこの機能を神の「見えざる手」と呼んだ。

教育出版「政治経済 明日を見つめて」H20.1.20
 このように価格が自動的に調節して需要と供給を均衡させようとする働きを市場の自動調節機能(価格メカニズム@)とよぶ。注@アダム=スミスはこの価格のはたらきを「見えざる手」と形容した。

帝国書院「高校生の新現代社会」H20.1.20 p65 
 このように消費者の需要量と生産者の供給量が、価格の働きをなかだちにして自動的に調整されることを価格の自動調整機能Aといいます。注Aアダム=スミスは…このはたらきを「見えざる手」に導かれた調整とよびました。

 教科書の記述は、アダム・スミスは、「価格の自動調整機能」を『見えざる手』といい、『自由放任政策』を主張したとなっています。

これらの検証については、下記ブログをご参照ください。
『高校生からのマクロ・ミクロ経済学入門』http://abc60w.blog16.fc2.com/



Re: アダム・スミス 自由放任と見えざる手 新井 明 - 2009/09/06(Sun) 10:25 No.263

菅原 先生

投稿拝読しています。

スミスに関しての「自由放任」と「見えざる手」の位置づけ,教科書の記述,教科書会社とのやりとりなども興味深く拝読しています。

教科書を書いている人間として,簡単に,スミス,見えざる手,自由放任という文脈で書いてしまうことに関しての先生の指摘は,反省も含めて参考になります。

さて,この論議いくつかのレベルがありそうです。

一つは,経済学説史上のスミスの位置づけの問題があります。これは,専門家でも多様な見解がありそうで,ちょっと現場の私(たち)にとっては,本格参入は難しいと感じています。

もう一つは,教科書の記述の問題です。これは,さらに二つにわかれそうです。

その一つは,教科書を書いている人間が,きちんと原典や専門家の指摘を踏まえず,通説で書いていることです。先生の指摘されるように,特に,現場の高校教師が書いた場合には,このケースが多いことはその通りだろうと思います。

もう一つは,分かっているけれど,入試やその他の制約,限られたスペースや通説を離れることによるリスクなど,によって通説に近い記述をしてしまうことです。

一応こんな形で分類してみました。

まず,スミスの位置づけですが,どうも東大系とその他では,解釈や位置づけが違うようです。教科書会社が通説としたものは,大河内一男氏のものでしたが,大河内氏だけでなく,例えば,宇沢弘文氏なども,世界大百科(平凡社)の記述で大河内説を受け継いだ記述をしています。

それに対して,一橋系や慶應系などの人たちは,見えざる手=市場メカニズムと理解するのは,全体像を見ていないという指摘をしています。例えば,池上彰さんなども,『見えざる手が経済を動かす』ちくまプリマー新書のなかで,見えざる手の解説は慎重です(同書p34〜)。堂目さんなども同じです。なぜ,そのような理解の差が生じるか,興味深いところでが,そのあたりの分析は本格的な研究史が必要になるのではと思います。

解釈の系譜の違いは,二番目のその一と関連しますが,すくなくとも,いままでの教科書は東大系の記述の系譜を,そのまま踏襲してきたことに反映しているでしょう。

この種の「権威」ある通説に対する批判は大変難しいものがあります。それは二番目のその二と関連しますが,入試問題や現実の授業などでの対応を考えると,従来型の記述を離れて,「正しい」記述にしたときのリスクは結構大きいものがあるからです。なんと言っても,スミス=見えざる手=自由放任,と教えておけば楽だし,それで十分テストに対応できるからです。

ちなみに,私見ですが,経済学的に「正しい」記述,ないし,筋の通った記述をしようとした教科書は売れません。教科書市場では淘汰されてしまうように思います。ただし,これはあくまでも私見です。

その意味で,経済学者が指摘する問題点は,教科書にはなかなか入ってきません。それでも,10年遅れで教科書は変わってゆくという言葉があるように,徐々に変わっては来ていると思います。

この種の変化をもたらすものは,継続的な問題の指摘と,もう一つは,実践だろうと思います。「正しい」知見を生徒にどのように伝え,理解させるか,経済学的な「正しさ」を生徒がどう受け止めて,認識を深めたか,その成果を提示することが,大事かなと思います。

先生の投稿に刺激されて,自由放任や見えざる手に関して,すこしターミノロジー的な詮索をしてみました。また,かつて世界史の教科書に関する批判の本も入手しましたが,長くなりそうなので,またの機会にしようと思います。

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