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「高校生からのマクロ・ミクロ経済学入門」 投稿者:菅原晃 投稿日:2009/03/29(Sun) 21:22 No.233

この度、拙著『高校生からのマクロ・ミクロ経済学入門』星雲社が出版されました。

この本を読めば、高校『政治経済』『現代社会』の教科書・資料集のおかしなところが、一目瞭然です。

正しい経済学は次の通りです。○は正解、×は間違い

○「貿易黒字はもうけ・貿易赤字は損ではない」     ×貿易黒字はもうけ、経済対立のもと
○「貿易黒字は、我々が貯蓄するから生まれる」     ×貿易黒字は貿易立国だから生じる
○「貿易黒(赤)字はお金の貸し借りのこと」
○「不況だから貿易黒字が増える」           ×貿易黒字があるのに、なぜ不況?
○「貿易黒字は国民の生活を直接豊かにするものではない」×貿易黒字が経済成長のもと
○「貿易黒字は海外の資産になる」           ×貿易黒字を、なぜ円に換えて使わないのか?
○「国債は政府の借金=国民の財産」          ×借金大国 日本
○「貿易はゼロサムゲームではない」          ×貿易は勝つか負けるかの戦い
○「輸出を増やし輸入を抑えるのは不可能」       ×幼稚産業保護論

高校で、経済分野を教える教員なら、当然のように知っていなければいけないリカード比較生産費説の要諦(生産量が増えることが、利益ではない)、ISバランスによる経済理解について解説しています。

オンライン書店・全国大手有名書店で販売されています。


また、ブログもアップしました。教科書・資料集のみならず、日経でさえ、おかしな経済記事を書いている点を指摘しています。また、新聞の経済欄の解説も行っています。
記事は随時更新されますので、どうぞご覧下さい。

『高校生からのマクロ・ミクロ経済学入門』
http://abc60w.blog16.fc2.com/  です。



この世で一番大事な「カネ」の話 投稿者:大竹 投稿日:2009/02/25(Wed) 19:36 No.227

 スディール・ヴェンカテッシュ著の「ヤバい社会学」(東洋経済)は、アメリカの貧困層の実態を、研究者が中に入って生き生きと描いたものです。そういう世界を知らなかった著者が、事実を知るたびに衝撃を受けてきた様子がよくわかります。
 これに対して、西原理恵子さんの「この世で一番大事な「カネ」の話」(理論社)は、貧困の世界で育ってきた著者が、実態はこうだと率直に語っているところに特徴があります。いかに貧困と貧困の連鎖が深刻であるか、ということを当事者であるからこそ、はっきりと書くことができるのです。また、労働経済学で補償賃金格差とよばれる仕事の給料の関係についても、体験的でわかりやすい言葉で説明されています。経済学を勉強している人、しようと思っている人にお勧めです。



Re: この世で一番大事な「カネ」の話 TM - 2009/03/02(Mon) 21:46 No.228

大竹先生

いつも興味深い本のご紹介ありがとうございました。
私は最初の『ヤバイ社会学』にざっと目を通したのですが、ロスのスラムの銀行で働いたことのある友人などから聞いている話しと符号するところがあって、実感をもって迫ってくる内容で、いろいろと考えさせられました。どんな社会でも、法律や道徳とは別に、機能したり機能しなかったりする要因がいろいろとあるものだと思った次第です。
この本を読んで思い出したのは半年ほど前に読んだ以下の新書です。

林壮一『アメリカ下層教育現場』光文社新書(2008年1月)

この本は、元ボクサーでノンフィクションライターになった米国在住の著者が、問題児の集まる高校の教壇に立ち、「日本文化論」を教えた経験談が中心で、貧困や犯罪や家庭崩壊といった環境のなかでも努力して貴重な経験を積む過程がヴィヴィッドに描かれていて、貧困という視点からも教育という視点からも興味深い内容になっています。

他方、これも半年ほど前に読んだ本で、やはり米国の貧困に焦点を当てて日本で注目され、2008年の日本エッセイスト・クラブ賞を受賞した以下の本も思い出されます。

堤 未果『ルポ・貧困大国アメリカ』岩波新書(2008年1月)

この本はテーマとしては米国の貧困や社会的問題(肥満、医療、青少年問題、戦争など)を文字通り批判的な目でいろいろな具体例を挙げてレポートしているものです。その限りでは確かに賞を取るほどよく書けてはいるのですが、正直なところどうも読後感がよくありません。
何か、貧困を一段高いところから見て、「米国の体制やブッシュ政権が悪い」といった話しに還元してしまっているような感じがします。この著者はそれほど米国が嫌いなのかと思わせる書き方なのですが、著者の経歴を見ると、ニューヨーク州立大学で国際関係論の学士号と修士号を取得しており、その間に米国の悪い面だけでなく、良い面も経験したり見聞きしているはずなのに、良い点はほとんどこの本に書かれていないのが、読後感が悪い理由かもしれません。
この著書に賞を与えた日本エッセイストクラブの会長が、アメリカ嫌いで有名なジャーナリストだったという人もいるようですが、その真偽のほどはともかく、何でも賞をとったからといって良い作品とはかぎらないことは確かです。
以上、ご参考までに。
TM



Re: この世で一番大事な「カネ」の話 新井 明 - 2009/03/17(Tue) 20:32 No.231

この投稿は実は,授業で役立つ本のシリーズで紹介しようと考えていたものです。大竹先生に先を越されましたが,面白い本ですから,貼り付けておきます。

「授業で役立つ本」

このところ経済教育、特に金融教育に関しては逆風が吹いています。貯蓄から投資へのスローガンのもと、政府や日銀の肝いりで経済教育を本格的に展開しようとした矢先の金融危機で、その勢いがそがれてしまっていることは事実です。

そんな中で、やっぱり金融に関してしっかり教育した方がいいよという本はないものかと探していてぶつかった本を今回は紹介します。ただし、マクロ的な大所高所からの御説ではなく、きわめてミクロ、それも自叙伝的なものです。

その本のタイトルは、『この世で一番大事な「カネ」の話』理論社、です。著書は、知っている人は知っている、知らない人は知らない(当たり前ですが)漫画家の西原理恵子さんです。ちなみに、西原さんの最近の代表作『毎日かあさん』はこの4月からTV放映されることになっています。きっと知る人が増えるだろうと思います。

西原さんは、独特の「へたうま」漫画とするどい突っ込みのコメントで「有名な」漫画家です。私は結構読んでいます。その西原ワールド全開のお金の話です。

お金の話といっても、経済のなかでのお金というより、自分とお金、人生とお金が主題の本と言ってよいでしょう。

全体は5章に分かれています。
第1章は「どん底で息をし、どん底で眠っていた。カネがないって、つまりはそういうことだった。」です。長いタイトルですが、西原さん直筆のタイトルの文字を見ているだけで、この本は本音で書かれている本だなという気分になります。

本書では、各章に内容の要約的なコメントもつけくわえられています。ここでは「生まれる場所を、人は選ぶことができない。だとしたら、ねえ、どう思う?人って、生まれた環境を乗り越えることって、本当にできるんだろうか。」というものです。

これで分かるように、ここでは、西原さんの子供時代、家族、そしてお金とのかかわりが自伝的に書かれています。再婚したお母さんの相手は、タクシー会社を経営していたけれど、結局ギャンブルにのめり込み、自殺的な死に方をするという強烈な生育環境が振り返られます。

第2章は、「自分でカネを稼ぐということは、自由を手に入れるということだ」がタイトルです。コメントは「最下位の人間に、勝ち目なんてないって思う?でもね、最下位の人間には、最下位の戦い方っていうもんがあるんだよ。」。

ここでは、高校を退学させられ、美大を目指して浪人生活をするために上京し、そのなかで自分の生活を確立してゆこうとする若き西原さんの戦いぶりが書かれています。

高校中退というハンデを逆転させるための、大検受験。さらに、美大にゆきたいという西原さんの希望を、なけなしの100万円を渡しては上京をはげましたお母さん。浪人生活のなかで作品を売り込みにあるく、最下位からの戦い方。エロ本を足がかりにカネを稼ぐ苦しみと喜びを語る「プライドでメシは食えません」などてんこ盛りの内容です。

ここでのまとめは、カネを稼ぐことは自由になることです。お金と人生をこれほどリアルに語った人は、それほど多くは無いでしょう。

第3章は、「ギャンブル、為替、そして借金。カネを失うことで見えてくるもの」がタイトルです。コメントは「あぶくみたいに、あっという間に消えるカネ。ただの情報、架空のデータみたいに見えるカネ。世の中には、汗水たらして働いた手で直接つかむ以外にも、いろんな種類のカネがあった」。

ここは、漫画家として成功しはじめ、マンション一室を手に入れた西原さんが、ギャンブル漫画を書くことをきっかけにしてはまり込んだギャンブル地獄がリアルにかかれています。本人曰く、マージャンに10年はまって、5000万円くらいもっていかれたという話です。

マネーゲームもそうですが、人間は理性でわかっていてもどうしようもない情念で地獄に落ちることがあります。西原さんにとってはそれがギャンブルだったわけです。このあたりの自己分析も、経済心理学の観点から再構成してみると面白いと思います。ちなみに、西原さん、現在はFX(外国為替証拠金取引)を漫画連載と並行してやっているそうです。FXは、まさにギャンブルそのものだと西原さんは言います。そんな金融商品が世の中に出ていることの意味(なぜなのか?どこまで規制が必要か?など)をさらに考えたいものです。

第4章は、「自分探しの迷路は、カネという視点を持てば、ぶっちぎれる。」がタイトルです。コメントは、「自分は何に向いているのか。自分はいったい、何がしたいのか。深い迷いで身動きなっているキミを、カネが外の世界へと案内してくれる」。

ここでは、これまでの話を総括して、お金と人間の関係を振り返ります。お金の話は下品か、通貨単位はそれぞれだ、アルバイトは必修科目だ、働くことは収入とガマンのバランスだ、など経済の観点から捉えなおしてもおもしろい話しが続きます。

最終章である第5章は、「外に出て行くこと。カネの向こう側へ行こうとすること」がタイトルです。コメントは、「人が人であること。人が人であることをやめないこと。貧しさの、負のループを越えた向こう側に、人は行くことができるんだろうか」。

ここでは、亡くなった夫の鴨志田穣さんの手引きで、海外への目をひらかれた西原さんの南北問題論、さらには、負のループを越えた世界が、さらにはお金を越えた世界を展望しています。扱われている話題は、人の値段の安さ、スモーキーマウンテンの子供たち、グラミン銀行の挑戦などです。

ここまで紹介してお分かりのように、この本、経済の本と言うより西原人生論と言うべき本かもしれません。しかし、とりあげられているお金と人生のかかわりを、経済学の観点から振り返ることで、経済の本としても十分利用可能です。また、西原語録をピックアップしても活用可能です。

例えば、「貧乏人の子は、貧乏人になる。泥棒の子は、泥棒になる。…これは本当なのよ」などから、それではこの貧困のループを越える道を探すこと。これは、政治家だけでなく、経済学者の責任でもあるでしょう。

西原さんは、出身は高知ですが、現在のフィールドは吉祥寺です。大学も武蔵野美術大学、予備校は立川美術学院。これらは私のフィールド東京の多摩地区と重なっています。買い物、飲んでいる西原さんと出くわすこともあるかもしれないなと思いつつ、この本を読みました。

また、前回紹介した、柳川先生の本とは一味違う、学校から距離を置いた(置かされた)人間の生き方を示したものと言えるでしょう。一読あれ。



金融危機の原因についての学生の反応 投稿者:TM 投稿日:2009/03/03(Tue) 08:08 No.229

金融危機の原因についての学生の反応

2月中旬に米国ロサンゼルスを訪問した際に、当地で短期研修を行っていた大学生(慶応、明治、法政、岐阜経済、北海学園の5校から)8名のグループに、金融危機の講義をしました。
その講義の前に、以下のアンケートを取ったので、ご参考までにその結果をお知らせします。

アンケート質問:
以下の要因のうち、今回の金融危機をもたらした原因として最も重要と思われるものを2つ選び、その順番をつけなさい(1が1番重要、2が2番目に重要):
A) サブプライムローンの拡大(住宅バブルの膨張)
B) 住宅ローンの証券化の拡大と複雑化(金融工学の普及)
C) 投資銀行やファンドの借入による証券化商品への投資(レバレッジ経営)
D) FRBによる金融緩和策と米政府による金融規制緩和策(金融中心主義)
E) 過剰な借入、消費、輸入に依存する米国民の生活(米国の借金体質)
F) 金融システム安定化の意思に欠けた米政府と議会(政府の対応失敗)

結果: ( )内はそれぞれを選んだ人数:
A) 1番(1)、2番(3)
B) 1番(3)、2番(2)
C) 1番(0)、2番(2)
D) 1番(3)、2番(0)
E) 1番(1)、2番(0)
F) 1番(0)、2番(1)

解釈:
サンプル数が少ないので一般的な結論は導けないものの、これだけでも日本の学生の意見が、主としてサブプライムローンの証券化(住宅バブル)を重視するか、あるいは米国の金融中心主義や借金体質(米国の制度・体質)を重視していることが表れています。
学生たちはもっぱら日本のマスコミ報道や日本で出版されている本や雑誌から金融危機に関する情報を得ているので、住宅バブルに焦点を当てる「部分的」な見方か、あるいは米国の「金融資本主義」を問題にする「壮大」な見方か、どちらかになる傾向にあるように思われます。
それらは、もちろん重要な要因であることは確かですが、そこで見落とされがちになるのは、日本ではなじみが薄い(C)の投資銀行やファンドの役割や問題点であり、また(F)の米政府の対応の失敗といった「経済的プレーヤー」の行動とその影響ではないでしょか。また金融危機の中で、なぜ米ドルに対して、円を例外として他国の為替相場が下落しているのかといった現象は、(C)の要因を抜きには理解できません。
実際に、最近になるほど金融危機の傷の深さとそのグローバルな影響の大きさ、さらにそれに対する政府の対応も問題点が認識されてきていることに鑑み、あらためて金融をめぐるプレーヤーの理解が必要になっています。
ちなみに、(C)に関して詳しい本が最近になるほど多く出ていますので、以下にリストしておきます。

参考文献:
岩田規久男『金融危機の経済学』東洋経済、09年2月(特に第4章)
竹森俊平『資本主義は嫌いですか』日本経済新聞、08年9月(特に第II部)
小林・大類『世界金融危機はなぜ起こったか』東洋経済、08年12月(特に第5章)
北村慶『投資銀行が邦銀に屈した日』東洋経済、09年2月(特に第2章)
堀紘一『世界連鎖恐慌の犯人』PHP、09年1月(特に第2、4章)
より簡潔で高校生向きの解説資料:
地主俊樹「米国の金融危機と政策対応」(『経済セミナー』2、3月合併号、p. 20)

以上、ご参考までに。
TM



出社が楽しい経済学 投稿者:大竹 投稿日:2009/02/15(Sun) 17:09 No.223

「出社が楽しい経済学」(吉本佳生・NHK「出社が楽しい経済学」制作班編、NHK出版)は、インセンティブ、機会費用、サンクコスト、現在価値、比較優位、逆選択など経済学の基本的な考え方を、わかりやすく説明してくれます。現在、毎週土曜日に放映されているNHKの同盟の番組からできた本です。さすがにテレビの制作のプロがかかわっているだけはあります。ここまでわかりやすく、楽しく解説することができることに感心しました。需要曲線と供給曲線は出てきません。高校の政治経済の教科書もこんな感じだったらもっと多くの高校生が経済学に興味をもってくれると思います。テレビ番組もデフォルメされているところがありますが、よくできています。



Re: 出社が楽しい経済学 新井 明 - 2009/02/17(Tue) 00:17 No.224

私も見ています。第一回目はビデオを撮り損ねたのですが,その後はビデオをとっていますので,授業で紹介してみようと思っています。

ずーと昔(2000年)に,『世のなかなんでも経済学』という同じくNHK教育TVの中高生向けの番組のお手伝いをしたことがありましたが,それから8年。やっと概念をメインにして経済を考えるという方向に市民権が与えられるようになってきたという感慨もあります。

当時のディレクターの方と先日お目にかかりましたが,先駆的でありすぎたかもしれなかったと言っておりました。



Re: 出社が楽しい経済学 TM - 2009/02/22(Sun) 18:00 No.226

「出社が楽しい経済学」を読んで

大竹先生、新井先生、私もこの本を読んでみましたが、取り上げられている経済用語がすべて身近なエピソードを交えて分かりやすく説明されているので感心するとともに、一気に楽しく読むことができました。
高校生にも問題なく読めて、経済学的な考え方の一端を理解させるのに役立つ内容であることには異論はありません。

もしあえて一言コメントするとすれば、それはそれぞれのエピソードが身近でおもしろいだけに、その内容の経済的な意味を考えさせる点では物足りないところがあり、もう少し結論部分で工夫ができたかもしれないということです。
具体的にいえば、それぞれの問題が以下のどれに当たるか:
(1)個人が合理的に行動しているかどうか、あるいは損しているか得しているか(例えば、第1章の「サンクコスト」、第2章の「機会費用」、第11章の「現在割引価値」)、
(2)市場の特殊なあり方や機能の例を説明しているのか(例えば、第7章の「価格差別」、第8章の「裁定」)、
(3)市場の失敗の例を説明しているのか(例えば、第5章の「モラルハザード」、第6章の「逆選択」、第9章の「囚人のジレンマ」、第10章の「共有地の悲劇」、第12章の「ネットワーク外部性」)、
(4)効率的な経済制度や制度の設計を論じているのか(例えば、第3章の「比較優位」、第4章の「インセンティブ」)
以上のように位置づけるだけでも、読者にその章で扱っている問題の意味が、経済全体の中でよりよく理解できるのではないでしょうか。
もちろんそれがテレビ番組の目的の範囲内に入らないことも分かるので、この本を使って教室で生徒たちに経済を教える際に教師が心すべきことといえるのかもしれません。
TM



授業で役立つ本 34回 投稿者:新井 明 投稿日:2009/02/17(Tue) 00:18 No.225

今回も直接教室で役立つというのではないけれど、先生方だけでなく生徒が読んで役に立つであろう本を取り上げます。

タイトルは『独学という道もある』(ちくまプリマー新書)です。書いたのは、東大の準教授の柳川範之先生です。

実は、柳川先生、いや柳川さんと言わしてもらったほうが好いような気がしますが、とはご一緒にe-教室(ネット上の教室)で先生をやったことがあり(現在休眠中)、共著を出させていただいていますので、まあとても身近な方です。その意味では、身内の本の紹介になるのですが、なかなか面白い本なのでぜひ紹介したいと思いました。

この本、タイトルどおり、独学ルートで大学院に進学し経済学者になったというユニークな経歴を持っている柳川さんの半自叙伝、プラス経済学のすすめの本です。

この本、全体は三章に分かれています。第一章は、「道はたくさんある」で、お父さんの仕事の関係で子供時代3年間をシンガポールで過ごし、中学は日本で過ごしたのですが、高校に入る段階で日本の高校にはゆかず、お父さんの転勤先のブラジルで過ごすことを決意、現地校にはゆかず独学で勉学を進める選択をした経緯が紹介されます。

独学にはメリットだけでなくデメリットが当然あるわけですが、柳川少年は閉じこもることなく、ブラジル現地の小学生とサッカーに励んだり、大人とテニスをやったり、自分のペースで勉強したり、自由闊達に過ごしてきたことがわかります。また、ブラジルでは貧富の格差の現実を直接見聞することで、社会や経済への目を開かされるきっかけが得られたことも書かれています。

第二章、「こんな勉強をやってきた」では、大検合格のプロセスの中で、どんな勉強方法をとったのかが具体的に書かれています。例えば、ノートは作らない、マーカーは引かない、テキストは二回読むなどは、勉強の一つの方法として参考になります。

第三章、「いつでもやり直せる」では、会計士を目指して進んだ、慶應の通信制で経済学に開眼し、そこから東大の大学院に進学し、さらに学者への道を歩んだ軌跡がかかれています。慶應で大山道弘先生にであったこと、さらに東大の講義にでかけ、そこで伊藤元重先生に見出されてゆくという人との出会いが書かれています。

経済教育の観点からは、このあたりがとても興味深いものがあります。通信で経済学をマスターする時に役立ったのが、日本の教科書よりアメリカのテキスト(ドーンプシュ・フィッシャーの『マクロエコノミクス』)であったこと、第二外国語がなかったので東大を選んだという大学院受験の理由や準備の様子などが書かれている箇所です。また、論文作成の様子なども、ガイダンスになります。

そして三章後半では、それまでのご自身の体験を総括されて、いくつかの提言をしています。例えば、シンガポールやブラジルでの体験から芽生えたもやもやとしていた問題意識が、経済学と出会うことによって考える道筋が鮮明になるということ。独学でトライアル&エラーで学んだ体験のなかでの違う角度からものをみること、すべてを疑って自分の頭で考えてみることなどが、学者としてオリジナリティを要求される場になった時に役立っていること。現代日本を覆っている閉塞感を打破するには、道は多様だというメッセージを発信することが役立つのではないかと言うことなどです。

他にも、現代の経済学で重要な概念とされているインセンティブをうまく活用して選択肢の広い活力ある世界を作ること、そのことによって現代の課題である温暖化や環境問題、少子化の問題を解決しながら、経済成長をはかる道を考える必要があることなどが提唱されています。

そんな社会をつくるために、日本でも高校からストレートの大学に進学するのを禁止し、一度社会に出た人間だけが、大学に入るというような仕組みにするという荒療治が場合によっては必要なのではとの提言もしています。

プリマーブックスは中高生向けの本ですが、この本、中高生だけでなく、大学生にも、大学院進学を考えている学生にも、いや学生だけでなくすでに社会に出ていて、これからのことを考えている人にも読んで欲しい本となっています。もちろん柳川さんのような道、自由と自己責任の道をたどってゆける生徒ばかりではないと思うのですが、それでもモデルがあることは、大いなる励みになることでしょう。

ちなみに、私は現役あと少しですが、これからもう少し本格的に経済学を勉強してみたいという願望をもっていますので、柳川さんのメッセージがとても有難く思いました。その点、もう少し経済の勉強方法などが詳しいといいなとも思いましたが、それはこの本の読者が要求する内容ではないでしょう。

現在、金融危機のなかで市場経済への批判が強く出されていますが、リターンマッチが効く、働き方を含めて一本道ではない自由さを持てる社会というのは、市場経済が保障するものと考えると、柳川さんの提言は、自分の主体性を持ちながら試行錯誤して均衡にいたるという市場経済の原理的な生き方の勧めともとれますね。



授業に役立つ本 33回 投稿者:新井 明 投稿日:2009/02/11(Wed) 23:29 No.222

今回は趣向を変えて、直接授業に役立つわけではないけれど、ぜひ一度読んで欲しいと思った古典を取り上げます。

古典というのは、名ばかり有名で、誰も読まないと相場が決まっていますが、最近は新翻訳が続々出てきて、ブームにもなっています。

実は、私もこの正月に、亀山訳の「カラマーゾフの兄弟」を読み通し(昨年教えていた生徒でカラマーゾフが愛読書という女生徒がいて、カラマーゾフを読む少女というのもいいなと思っていたことがあります)、ドストエフスキーの世界の面白さ、深さを改めて発見したのですが、その勢いで、今回はゲーテの「ファウスト」に挑戦してみました。

なぜ「ファウスト」かというと、このところ読み続けている一連のサブプライム本のなかで読んだ一冊に、竹森俊平さんの「資本主義は嫌いですが」があり(この本はまた時間があれば紹介します)、そのなかで「ファウスト」が取り上げられて、未読のこの本を読んでみたいと思ったからなんです。

竹森さんは、現代の錬金術であるサブプライムと同じようなものは、昔からあり、その例として「ファウスト」を取り上げています。

ご存知のようにゲーテの「ファウスト」は、二部に分かれていて、主人公のファウスト博士が悪魔のメフィストフェレスと契約をして、魂を売り渡す代わりに若さを手に入れ、地上の快楽やあらゆる可能性を体験するという話です。

一部では、若さを手に入れたファウストがマルガレーテという女性と恋をし、その兄を殺し、母親の毒殺を教示し、マルガレータを妊娠させてしまいます。妊娠したマルガレータは嬰児殺しをし、牢につながれます。自分の罪をしったファウストが、マルガレータを助けに急ぐというところで話は終わります。

二部では、眠っていたファウストからはじまります。財政の破綻しかかった帝国の建て直しにメフィストフェレスが、新しい錬金術を教え、それが成功します。そのなかで、仮面舞踏会や劇中劇が展開されます。ファウストの冒険話は続き、人造人間のホムンクルスの成功、ヘレナとの結婚、出産、家庭生活と続きます。ところが成功したはずの金融システムは破綻、国は乱れ戦争になります。戦争終結後の財産の分捕り合戦、そのなかでファウストは海辺の干拓を許されます。様々な体験を終えた、ファウストは目が見えなくなり、見えない目で干拓の結果をみようとして「時よ、とどまれ」と口にして、死を招きます。

第一部は、人生の悲劇としてなかなか読ませますが、第二部は、手引きがなければ途中でいやになるくらい錯綜しています。でも、骨組みを捕まえると、話しはゲーテが生きたフランス革命からナポレオン戦争、ウイーン体制の時代に対する鋭敏な反応が底流となって、それにギリシャ以来のヨーロッパの精神史が加えられて書かれているのだということがわかります。

経済の観点から注目される、第二部に登場するメフィストフェレスの錬金術の部分は、現実にフランスであったジョンローの事件を下敷きにしています。イギリス生まれのジョンローは、フランスに渡り銀行を設立、ミシシピーの株を発行、また、不換紙幣を発行することで、当時のブルボン朝の財政危機を救ったとされましたが、結局バブルは破裂、フランスは大インフレに襲われたという話です。

ゲーテ自身も、ワイマール公国の財務局長を務めた人物であり、この錬金術はゲーテ自身の経済観を良く表しているとも言われています。その意味では、文豪と呼び、神棚に祭り上げられてしまっていた感のあるゲーテは、本当はかなり現実に通じたなまなましい人間だったといえるでしょう。そうでなければ、第一部の若返ったファウストの遍歴などは書けなかったはずです。

私は池内紀さんの訳でよみましたが、訳者池内さんも「ファウストは野心をたぎらしたエコノミストとして死んだ」と解説で書いています。もっとはやく知っていれば、その面白さにもっと早く目覚めたのにとちょっと残念でした。「時よ、とどまれ」より「時よ、戻れ」ということなのかもしれません。

とはいえ、訳者池内さんも「年をとったらゲーテをよもうと思っていた」そうですから、私にとっては決して遅くない読書だったのかもしれません。ちなみに、この翻訳、詩の形態で忠実に翻訳するより、ゲーテの本意をより柔軟に今の日本語で受け止めたらどうだろう、という訳者の意図が見事に発揮されていて、とてもよみやすい本になっています(多分、正確さや格調高さを望む向きにとっては許しがたい翻訳とされるのかもしれません)。ドストエフスキーもそうでしたが、翻訳一つで全くちがった世界になるのですから、これも一つの錬金術かな。

経済の話に戻れば、現代の私たちのなかにいるメフィストフェレスは誰なんでしょうか。また、その錬金術におどった私たちの罪と罰はなんでしょうか。そんなことをまさか「ファウスト」から考えさせられるとは思いませんでした。意欲と気力がある人、一読あれ。



授業で役立つ本 32回 投稿者:新井 明 投稿日:2009/01/31(Sat) 18:29 No.220

前回の役立つ本は25回ではなく31回でした。したがって今回は32回となります。

今回は一冊です。このところ金融関係の本を読んでいます。一番大きな理由は、この間の金融恐慌に近い経済状況を自分なりに理解したいという思いがあります。もう一つは、来年度の金融の授業を展開する時に役立つものを探したいという気持ちです。

市場原理主義批判や強欲金融資本批判は、たしかにスローガン風には現在の状況にぴったりなところがあるのですが、内在的に今回の状況を説明する原理となるかというと、前回も書いたように違和感があります。また,中谷さんの本を巡って討論室でも話題になっているように「役立たない本」も結構あります。では、どんな論理でうまく説明できるか,それを明確に述べている本には、なかなかそれが見当たりません。

このような状況を一発で説明すること,それをやっているぞという本はたいていは眉唾なんだろうと思います。じわじわ現状を分析したり,様々な角度から問題にアプローチするなかでだんだん本質が見えてくるのではないかと思っています。

今回紹介する本は、直接マクロの金融危機に答える本ではありませんが、そんなブックハンティングのなかで出くわしたのもので、新保恵志『金融商品とどうつきあうか』という岩波新書です。

この本、タイトルどおり、直接的に資本主義や市場経済のあり方を問うというものではなく、もっと実務的,実践的な内容ですが、読んでみて、社会全体の動向や市場経済のあり方などを考える上でヒントになる内容が多く書かれている、いい本だと思いました。

新保さんは、現在は東海大学で金融論を教えている先生ですが、経歴をみると一橋大学をでて、旧日本開発銀行、住友銀行などで調査やデリバティブを中心に金融商品の開発などを行ってきた実務家だったようです。その経歴を活かした記述が各所にみられます。

同じ実務家でも、『強欲資本主義ウオール街の自爆』文春新書を書いた神谷秀樹さんとは違い、記述は冷静で客観的です。

新保さんは、前書きで、大学の経済学部を出たけれど、金融をほとんど理解していない状態で銀行に就職したと正直に語っています。しかし、経験を重ねることで金融は理解できる、だから社会人や学生にも金融知識を理解させることは可能であると言います。

マクロではなくミクロの金融に対する理解の薦める本書の内容は5章に分かれています。第1章「世界の金融危機、身近な金融リスク」では、世界の金融危機についての概観と、金融リスク知識の欠如による身近な金融被害の実例が紹介されます。第2章「金融リテラシー」では、金融被害に巻き込まれないための金融リテラシーと、資産運用の観点からの金融教育のあり方について考察されます。第3章「金融知識を身につける」では、具体的な金融商品に関してリスクとコストの理解について紹介します。第4章「金融商品を見分ける」では、投資信託や仕組み預金などから、消費者に見えない金融リスクについて触れられます。第5章「社会人のための金融教育」では、英国や米国の金融教育の実情と、日本での金融教育のあるべき姿が提言されています。

教師にとって役立つのは、消費者教育の観点から金融を取り上げるとすると、1章後半、2章、3章、4章が良いと思います。例えば、4章の「金融商品を見分ける」では変額個人年金保険が扱われています。これは問題の多い金融商品で、銀行が手数料稼ぎを目指して高齢者を対象に販売攻勢をかけてきた商品です。実は、私も実家の母が契約寸前までゆきましたが、受取人が私だったので、やめさせた経緯がありました。金融教育の必要性を訴えている人間の家族が、問題商品の被害者になったらしゃれになりませんから、危機一髪だったわけです。

これも金融商品に対するある程度の知識と、情報収集の仕方を知っていたから何とかなった事例ですが、金融リテラシーがすべての人に必要なゆえんでもあります。ただし、これらの記述なり、取り上げている金融商品に対する知識が、すべての学生や生徒にどこまで必要かは、それぞれの状況によって異なるでしょう。

もう一つ役立つとすると、金融教育に関心のある先生方には、2章の米国の金融教育についての紹介の部分と、5章全体です。2章では、1980年の確定拠出型年金の導入以来、金融教育(ただしここでは大人のための投資教育)が強化された米国の例が紹介されます。投資教育の成果については、組織的、持続的に行うことで一定の効果が現れることが実証されているとのことです。

とはいえ、結果としてサブプライムローンのような問題ローンを組む人間がでてくる(売る人間が問題だけれど、それに乗る消費者も問題)くる現実を見せられると本当かなと思うところもありますね。

5章では、学生を含む若い人に対してどのような金融教育が行われているかを米英の実態と、日本の実態を比較しながらまとめた箇所です。

ここで特筆すべきは、その紹介のなかで、ネットワークに関係ある先生方の本や実践が紹介されていることです。本は、三重大学の山根栄次先生が書かれた『金融教育マニフェスト』明治図書、です。山根先生は、昨年の総会のシンポジウムで司会をされた方です。

もう一つは、山岡道夫先生を中心とした、早稲田大学経済教育総合研究所が実施した「生活経済テスト」が引用されていることです。これは、著者の新保さんが教えている大学生の金融知識を確認するために実施したテストで使われています。山岡先生を中心としたグループもネットワークと密接に連携しています。

ちょっと内輪ほめになってしまいますが,私(新井)は、ここを読んで、うれしくなりました。経済教育,金融教育の重要性と必要性を継続して語ってきたことは無駄ではなかったのだということです。まさに継続は力ですね。ただし大学生の金融知識は十分とは言えない状態で、日本においてもまだまだ課題は大きいということが指摘されています。

では、日本に比べて先進的、比較的整備されているはずのアメリカでなぜサブプライム問題のようなことが起こるのか、について新保さんは次のように言います。

一つは、サブプライムの供給側の問題です。リスクを巧妙に隠した金融商品が出た場合、いくら金融教育をほどこしてもそれを見破るのは難しいということです。実際、新保さんでもサブプライムの問題点を2004年の時点では理解できていなかったと正直に書いています。新保さんは、こんな商品を販売するような金融機関に対する金融教育が不足していると書いていますが、リスク管理の失敗なのか、それとも意図的なものでこれは構造的犯罪に近いものか、さらに資本主義経済の宿命的なものかに関しては、ここで言う金融教育の範疇では処理できないのではと思いました。

もう一つは、借りる側の問題です。借りる側も借りるリスクに対する認識が甘かったと指摘しています。つまり、まだ教育の成果が現れていないということです。もっとも、アメリカの教育は州ごとに違うし、いくら体系が整備されていると言っても、本当に必要な層に金融教育がほどこされているか、そのような環境があるかは疑問ですから、借りる側への注文もちょっと無理な要求である面が強いような気もします。

役立つと言いながら、記述に対する批判的コメントとなりましたが、新保さんの指摘は冷静かつ客観的なものだと評価できると思います。

だから、今回の金融危機も、いきなり資本主義の問題とするのではなく、市場の失敗の一つとしてとらえ,企業の社会的責任が全うされていなかったこと、新保さんの言う、企業は資金を提供してくれる社会に責任があり、その根幹は情報に対する公平かつ正確な提供が必要であることに対して歯止めがかかっていなかったという結論は現実的な説得性があると思います。

この認識を踏まえれば,緊急の経済対策,景気対策と並行して必要なことは,市場の適切な管理,それを行うためにはどうすべきかという政策論議になってゆくはずです。

金融の世界だけでなく,経済の世界でははまだまだ課題は多く、政策も教育も発展途上と考えることが必要なんですね。



Re: 授業で役立つ本 32回 TM - 2009/02/08(Sun) 10:10 No.221

新井先生

大変よい本をご紹介いただきありがとうございました。
早速読んでみましたが、確かに現在の「金融危機」を理解するためにも、また本来の「金融教育」を考える上でも、いろいろなヒントを与えてくれる盛り沢山な内容と思います。
ただし、おそらく「金融危機」については、「金融教育」についての内容について書きあがった際に、サブプライムロ−ン問題が深刻化してきたので、編集者と相談して、比較的短く、第1章の前半(p. 3-14)と第4章の最後(p. 158-164)、そして結論部分(p. 176-178)に必要最低限の内容が、「接ぎ木」のように書き加えられたように見えます。
それにもかかわらず、「金融危機」についても、短いながらかなりきちんとした説明になっており、例えば、単にサブプライムローンの証券化だけに焦点を当てるのではなく、さらにその背後でレバレッジを効かせて事態をここまで深刻化させた投資銀行やヘッジファンドや保険会社のあり方の問題点をコンパクトに説明しているのは流石です(p. 11)。
もちろん、「金融教育」のあり方について教えられるところが多いのは、新井先生が指摘されたとおりで、全体として先生方に推薦できる本であることに異論はありません。

ただし、金融危機の問題を「接ぎ木」のように書き加えたことは、それなりの問題を提供しているように思えます。
例えば、システム全体のリスク(不確実性)と、平時における個々の市場や商品のリスクとにつて、前者が「地球規模の大規模」なリスクであり、後者が「個人の身近なところ」のリスクとだけ述べて、並列しているのは、かえって金融リスクに対する誤解を生む可能性があるのではないでしょうか。
実際、新井先生も指摘されているように、この本の結論部分で著者自身が、いくら金融教育をやっても、リスクが意図的に隠されていれば、どうしようもないといった意味のことを述べて、金融機関に対してこそ金融教育が必要とか、個人は借入を行わないことも考えるべきといった結論になっているのは、この本の趣旨である個人の金融教育が必要ということをある意味で否定することにもつながりかねません。
はやり、平時における通常の「個別的リスク」の世界での金融教育についての本と、今回のように誰の予想も超えた異常時におけるシステム全体の危機(リスクというよりは不確実性が極限まで展開した状況)についての本は、分けて別々に書かれるべきではなかったのでしょうか。
もちろん、このことは、著者がこの本の中で、それぞれの問題について非常によい説明を行っているという事実を否定するものでないことは再度強調したいと思います。
TM



「金融危機」に関して推薦できる本とできない本 投稿者:TM 投稿日:2009/01/20(Tue) 08:21 No.215

「金融危機」に関して推薦できる本とできない本(経済教育の視点から)

現下の世界的な金融危機について色々な本を読んでみましたが、その多くが専門的すぎたり、思想的すぎたりで、中高生の経済的な考え方を助けたり、促進したりすることに役立つものはあまり見当たりませんでした。
その中でも以下のものが言及に値する(良い意味でも悪い意味でも)と思ったのでご紹介します。

1)難しい事実の流れを分かりやすく説明しているという意味で推薦できる参考文献:
中空麻奈『早わかりサブプライム不況』朝日新書(2009年1月30日)
http://item.rakuten.co.jp/book/5950293/
この本の第1章が「世界一簡単にサブプライム問題を解説する」となっているように、証券化の概念や金融機関の抱えた問題点などをポイントを逃さず、しかも実に分かりやすく解説している新書で、最後に日本への影響や日本がやるべきことにも触れられています。先生にも生徒にも、手軽に読める参考文献として推薦できる本です。

2)簡単な経済学の概念を使って分かりやすく分析しているという意味でもっとも推薦できる資料:
日経ビジネス臨時増刊『一冊丸わかり金融危機』日経BP社(12月9日号)
http://ec.nikkeibp.co.jp/item/books/181290.html
特に役立つのは、「緊急開講・竹中平蔵特別ゼミナール」(p, 6-19)
さらにこの後に収められている「図解、キーワード、参考文献」
この資料の良い点は、何が起こったかだけでなく、なぜ起こったかも分析しており、特に「市場の失敗」と「政府の失敗」を強調して説明し、何をなすべきかを論じている点。
なお、先生が黒板に何を書いてどう生徒に説明したらいいか具体的に描かれており、また「放課後」という節で想定問答も書かれていて非常に有用と思われます。

3)経済的な考え方に誤解を与え、経済学そのものに不要な疑問を抱かせるという意味で推薦できない本:
中谷巌『資本主義はなぜ自壊したのか』集英社(2008年12月20日)
http://www.bk1.jp/product/03058505
生徒たちにもよく知られている評論家だけに、「新自由主義を推進してきた者の懺悔の書」としてマスコミで取り上げられていて影響力が大きな本であるが、その内容は感心できないだけでなく、経済的な考え方や経済学そのものに対する誤解を生む類の「百害あって一利なし」の本。市場原理主義を批判するのは別に個人の信条で構わないのですが、その「とばっちり」で、以下のような表現をして、マーケット・メカニズムそのものの意義を疑わせるのは問題:

「あくまで私は一学徒として、マーケット・メカニズム、それの進化形としてのグローバル資本主義が本質的に持っている限界や欠陥を本書の中で明らかにしたいと思う」(p. 69)。
それだけでなく、著者は「厚生経済学の二つの原理」を曲解し、それに対して誤った批判を加えているといえます。著者は次のように述べています:

「厚生経済学の第一定理とは、簡単に言ってしまえば『マーケット原理に任せれば、資源は無駄なく、効率的に配分できる』ということである」(p. 105)
「第二定理が言わんとするところを簡潔に述べれば、『税金や補助金、社会保障給付などを通じて人々が納得する所得の再分配が行われれば、社会的に見て人々の厚生水準が最大化されることが可能になる』(p. 106)

よく知られているように、第二定理を証明するに際して、「初期条件が所得再分配などで変えられれば」という前提を必要とするだけであって、「人々が納得する」という意味合いはまったくないことは明らか。さらにこの第二定理の解釈として著者は次のように述べています:
「『人々を幸せにするには政府が川下=市場に関わる必要はない。川上=所得再分配さえきちんとやれば十分である』というわけで、要するに『小さな政府のススメ』を言うのだが、ここにも『もっともらしい欺瞞』あるいは『虚妄』がある」(p. 107)
以上のように厚生経済学の二つの定理を曲解し、誤解を招く表現で意味のない批判を行っている点が大きな問題です。

言うまでもないことですが、厚生経済学の二つの命題は、二つ合わせて、「パレート最適な資源配分の集合と完全競争均衡解の集合が一致すること」を述べているだけで(その前提条件は、所得分配などで初期条件が調整できることと、市場の失敗がないことで、前提条件そのものの現実妥当性はこの定理の枠外の問題)、それ以上でもそれ以下でもないことは明らかです。したがって、この定理が『小さな政府のススメ』を意味するという著者の解釈は、経済学を知らない人に対して誤解を与える危険があります。
これでは、ますます高校や大学で、経済の基本的な考え方が教えられなくなるのではないかと心配です。教えられるべきことは、以下のようなことではないでしょうか。
「一定の条件のもとでマーケット・メカニズムが働けば効率的な資源配分が達成され、またどんな効率的資源配分も適当な所得再分配を行うならば市場で達成できる」。
この定理から出発して、どのような場合に、市場が失敗するか、政府が失敗するか、そしてどうしたらいいかという政策論が出てくる(それが立場や場合によって、「大きな政府」を正当化するためにも必要)と思われます。
TM



Re: 「金融危機」に関して推薦できる本とできない本 菅原晃 - 2009/01/21(Wed) 22:39 No.217

中谷巌『資本主義はなぜ自壊したのか』集英社(2008年12月20日)
について、全く同意見です。
私は、この人の「入門 マクロ経済学第4版5版」日本評論社で勉強しました。その内容は、オーソドックスな経済学で、まさに、日本で一番読まれている経済学書にふさわしい内容でした。

しかし、今回の本については、「べき論」「価値論」に終始し、「○○学=因果論・相関論」が全くない、エッセイにすぎない本です。

「アメリカは神の栄光を地上に広げようとしている国」「日本はすべての神仏を受け入れる国」、だから、「自然を支配しようとする一神教思想」と違って「人間は自然の一部」とする、日本的な思想こそ、「環境問題を解決する思想」とするなど、経済学以外では、ものすごく一般的な論をもとに自説を展開する、浅薄な本です。経済学以外は、単なる居酒屋で、自説を述べるおじさんとかわりありません。

徹頭徹尾「学問(たとえば経済学)」で、説明すべきです。哲学なら哲学で構わないのですが、深みのある哲学ならまだしも・・。

たとえば、小野 善康『不況のメカニズム―ケインズ一般理論から新たな「不況動学」へ』 (中公新書) (新書) のように、ISバランスからみて、ケインズの乗数効果というのは、本当に存在するものかどうか・・などあくまで、経済学のフィールドで述べてほしかったです。



授業で役立つ本 25 投稿者:新井 明 投稿日:2009/01/07(Wed) 13:48 No.213

あけましておめでとうございます。
前回の紹介から、3ヶ月近くたってしまいました。継続は力といっている割にはだらしないことこの上ないのですが、正直首が回らなくなってきて、優先順位が下がったことが一番です。

今年度は、持ち時間が18時間。種類が4つ(一年「現代社会」3クラス、三年文系「現代社会」4クラス、理系「現代社会」1クラス、選択「政治・経済」1クラス)あり、それに非常勤講師で一週間に一度大学で教えるとなると、特に後期になったら、教材を用意するだけで時間が一杯になってしまいました。

加えて、12月のはじめに経済教育学会があり、そこでの発表の準備があり、共同研究なので大変だからやめるというわけにもゆかず、ちょっと切羽つまったこともあります。

さて、新年早々、ぐちを言っても始まらないので、本論にうつります。

この間に、読んだり考えたりしてきたのは、やはり金融問題です。生徒のなかにも、受験勉強やっていても、金融恐慌が心配で…というような発言をする生徒まで出るような状況になっています。

経済雑誌なども、「金融崩壊」「ドルの落日」「大不況」「恐慌大研究」などおどろおどろしい見出しが躍っています。

そのようななかで、今回紹介するのは、三土修平『株とギャンブルはどう違うのか』ちくま新書、と小幡績『すべての経済はバブルに通じる』光文社新書の二冊です。ともに、現在の経済を教えるための参考に読みました。

まず、三土さんの本です。三土さんは、現在は東京理科大学の教授ですが、かつて愛媛大学時代に書いた『はじめてのミクロ経済学』や『経済学史』などの本は結構参考にさせてもらいました。最近は、仏教に関心を持たれているようで、略歴をみると東大寺で得度したとあり、ちょっとびっくりの経済学者です。

この本、理系大学の一般教育向けの本(『為替と株の経済学』日本評論社)を下敷きにしているので、数式がでてきます。それでも、基本は無限等比数列の総和ですから、ある程度数学を学んだ高校生でも十分理解できます。

とはいえ、本書は決してやさしい本ではありません。正直言えば、全体が8章からなる本書の6章までは、本来ならばしっかり読むべきなのでしょうが、すっと読めるわけではないからです。それは、三土さんも書いていますが、まず、理論的に株式とは何か、それはどう評価されるべきかという問題を、株式や会社の資産価値を考える時の根本原理である、資本還元の公式(ここで無限等比数列がでてきます)から説明しているからです。

高校低学年で扱うことの多い「現代社会」では、このあたりは数学で学んでいませんから、扱う必要ない箇所です。ただ、無限等比数列の総和に関しては「現代社会」でも信用創造の箇所で登場しますが、教科書では結果だけがかかれています。学校によっては、三年生で扱う「政治・経済」では、数学で学んでいる生徒もいますから、背伸びをしたい生徒が多い学校では知的刺激を与える意味で、公式の導き方を教えることもよいのではと思います。

ちなみに、私は、三年生には公式を教えるのですが、数学が苦手なので教壇で立ち往生することもあり、無理をしないほうがよいなと思うことが結構あります。それでも理系の選択者には、しょうこりもなく紹介して、なおかつテストにも「挑戦問題」として出しています。(生徒は意外と出来ません)。

さて、三土さんの本に戻りますが、結論を紹介すると、短期やバブルの時はギャンブル的要素が表に出るけれど、長期的にはギャンブルとはいえないというものです。確かに、長期的には株式はインフレに強いし、日経ダウなどの推移を見ても、値上がり率は経済成長率より高いことからそれがいえます。ただし、個人投資家が株の持つメリットを生かすには、「すぐに使う必要のない余裕資金を年間所得の数倍規模で所有している人」ということになり、結局は、マネーゲームに巻き込まれてしまうというのが三土さんの結論になります。

個人がリスクをとって投資をしなければ時代に取り残されるというような言説がながれていましたが、三土さんの指摘している結論を踏まえれば、「しっかり分散投資して、20年、30年という長い期間所有」する必要があるということになり、直接現在の問題に応える結論にはならないということになります。

じゃあこの本は役立たないかというと逆で、理論の根幹を理解しておく、理解させておくことによって、自分の立ち位置を確認することが出来るはずで、その意味で役立つし、教える私たちにも示唆を与えるものとなっていると思います。

もう一冊の『すべての経済はバブルに通じる』は話題の本で、いろいろなところで紹介されているので読まれた方も多いでしょう。著者の小幡さんは、元大蔵官僚で、現在慶應のビジネススクールの準教授です。個人投資家でもあり、なにやら村上さんとも似ている感じですが、ファンドをたちあげて云々ということはやっていないようです。でも、プロフィールに東京大学経済学部首席卒業と書くところは、なにやら同種のキャラクターを彷彿させますね。

さて、この本は、最初が一番面白い本です。まえがきで、@お金はなぜ殖えるのだろう?A経済はどうやって成長し続けるのだろう?B資本主義とは何だろう?という問題が出されます。@は高校生用、Aは大学生用、Bは大学院生用となっています。小幡さんの答えは、@〜Bすべて「ねずみ講」だそうです。これで90点。のこりの10点分を残りの本で説明するというわけです。

「ねずみ講」の仕組みは、次々と出資者が増えることが条件ですが、小幡さんは、株式投資も、経済の規模の拡大も参入者があるから殖えてゆくと説明します。@でいえば、株式の値上がりを狙う人間がいるから、株価が上がるわけです。しかしキャピタルゲイン狙いの投資家がいなくなれば、株価はそれ以上、上がらないといいます。Aの資本主義は、分業による資本蓄積により規模拡大を推進しましたが、ほかには、技術進歩、教育投資によって子簿拡大を成し遂げたといいます。しかし、これもフロンティアがなくなればアウトということになります。

そこで、資本は別の利潤獲得の方法を探り、その結果が市場資本主義の金融資本主義への変化だといいます。この結果、投資による利益が上がれば、どんな機会も逃さないいわば「強欲」のかたまりの金融資本が誕生するというわけです。この金融資本の本能がバブルを生んだというのが小幡さんの見立てです。

しかし、金融資本も当然フロンティアがなくなります。それを解決するために編み出されたのが高度な金融手法の開発だというわけです。「実物的に付加価値を生み出さなくても、金融の世界の中で、富を生み出せばよい」というのが金融資本の本質と指摘します。ここからバブルの本質が導き出されます。

つまり金融資本の時代にバブルは必然というわけです。バブルが必然なら、それが崩壊するのも必然で、みんなが今は金融商品の価格が高いから、もう少し様子をみようと思えばバブルは崩壊するというわけです。そして今がそれだといいます。

以下、本書全体でその背景の説明と、歴史的な推移が説明されてゆきます。現在のバブルは金融工学バブルであり、裁定取引のチャンスがなくなればそれを拡大するにようにレバレッジを利かせて運用する。そうなるとリスクは拡大する。だから今回のバブルはリスクテイクバブルだということになります。

この本、最初の三土さんの本が読みにくい本だったのに対して、とても読みやすいし、一貫した説明で良く分かるし、体験も踏まえた様々な事例も興味深く読めて面白い本です。

でも、少し考えると、たしかに資本主義は「ねずみ講」だけれど、それだけかなという疑問もわいてきます。例えば、@の株価の上昇も、先ほどの三土さんの本にあったように、キャピタルゲイン狙いの短期ではそうかもしれないけれど、長期投資だったらまた別の価値基準があり、それも無視できないはずなのに言及がありません。また、Bの金融資本主義に関しても、現状分析ではその通りだろうと思うのですが、金融の本質や必要性を考えると、強欲にならないような制度設計は出来ないものか、その点の言及がほしいなと思います。

小幡さんは、東大首席だそうですが、どうもその筆致を見ると、かつての東大マルクス経済学の痕跡が見える感じがします。明快だけれどどこか高踏的。そして、処方箋があまりない。これだけ明確なら、それを阻止することはできないのか。できないというのが小幡さんの結論だけれど、ほんとうにそうなのかなとも思えます。

このあたりは、本の紹介から離れてしまいますが、正直なところです。小幡さんのこの本、とっても面白かったがゆえに、ちょっと待てよと考えるには沢山ヒントがつまっている本です。

授業では、最初の質問を生徒に投げかけてみると良いと思います。きっといろいろな回答がでる(いや、こんな難しい問題には応えられ高校生がほとんどかもしれませんね)でしょうから、そこから資本主義の本質論、これからどうなる、どうするという話をしてゆくことが出来るのではと思います。



Re: 授業で役立つ本 25 TM - 2009/01/12(Mon) 17:41 No.214

新井先生、いつもながら有益な書評をありがとうございます。本年のまたよろしくお願いいたします。

さて、新井先生の紹介されている2冊目の本、小幡績『すべての経済はバブルに通じる』について、話題になっていることもあり私も読んでみたのですが、基本的に新井先生の批判である「マルクス経済学の痕跡が見え・・・・処方箋があまりない」という点に賛成です。
新井先生も指摘されているように、この本の冒頭で、以下の「3つの金融の試験問題」とやらが提示されています。
高校生用には「@お金はなぜ殖えるのだろう?」
大学生用には「A経済はどうやって成長し続けるのだろう?」
大学院生用には「B資本主義とは何だろう?」
と問うています。
新井先生のいわれるように、これらの質問自体は悪くはないのですが、その答えは何と、「すべて『ねずみ講』と書けば90点」というから驚きです。
これでは学生に読ませても、百害あって一利なしの本になってしまいます。
「一利」もないことは、100点をとるための残りの10点分と思われる著者自身の説明を読むと分かります。

1)高校生用の質問@に対する答えでは、著者自身が「利子」と「利潤」とを区別せずに、両方とも、「自分は何もしていない、お金が代わりに働いてくれるのは」、常に新しい人が株式市場などに入ってくるので、株が買った値段よりも高く売れるためにお金が殖えるため、つまり「ねずみ講」であるといった説明をしています。
これは基本的に誤った見方、あるいは非常に誤解を招く説明です。なぜなら、貯蓄したお金を金融機関に預けることはれっきとした経済行為で、その対価が利子であり(たとえば時間選好で説明できます)、決して「何もしていない」わけではないからです。利潤も、株をより高く買ってくれる人がいるから上がるというわけではなく、努力して事業を興したり、リスクを取って投資をするから上がるわけで、それが「超過利潤」であれば、やがて市場での競争で消滅する運命にあります。ただし、それとお金が利子をかせぐこととは全く別のことです。これは少し勉強すれば、普通の高校生でも理解できるでしょう。
どうやら著者は、異常に利潤が上がる「バブル状態」が続いている場合を前提に、それがやがて破たんする運命にある「ねずみ講」だといいたいようで、最初から自分の取り上げたい場合に限って説明を展開しているようにみえます。

2)大学生用の質問Aについては、まず著者はまともな答えを出して、「資本の蓄積と分業」および「技術の進歩と教育投資」などによって経済が成長するといいます。しかしそこから著者の説明が迷走し始めます。
著者は、はたして成長して拡大した生産物を買ってくれる人が出てくるのかという「有効需要」の話を持ち出します(有効需要の問題は、経済が成長しようとしまいと出てくる問題では明らかですが、それは置いておきましょう)。著者によれば、需要を拡大するには「経済規模の拡大」が必要で、そのためには「世界経済におけるフロンティアが必要」ですが、「未開の地は減少し続けていくのに対して、資本の膨張のスピードは加速していく」ので、「生産プロセスへの投資だけでは十分な利益獲得が不可能になったため、資本は別の利益獲得方法を探ることになる」、それが「金融資本への変化」だというのです。
どうやらここで金融資本が自分自身の価値を自分でつりあげて、付加価値が増大したように見せかけるという「ねずみ講」が出てきて、その結果、「利子はプラスとなるため、金融資本は成長し続ける」。しかしそれは永久には続かないので、「バブル崩壊」が起こるというのが著者の説明のようです。
利子の説明について上記の質問@に対する答えはさて置いても、何やら長期利潤率低落の法則や金融資本主義に関するマルクス経済学の議論を思い起こさせる説明で、これを今の高校生や大学生に理解せよというのは無理ではないでしょうか。

3)大学院生用の質問Bについては、すでに上の質問Aに関する著者の答えにもあるように、「産業資本が金融資本に変質することにより、富がもたらされる仕組みも変質した」ということがポイントのようで、「産業において生み出された利益を蓄積した産業資本を離れて、資本として独立した金融資本が、独自に利益の機会を求めて世界中を移動」するというのが、バブルを生む元凶ということのようです。
このようにとらえるために、バブルの発生と崩壊が不可避となり、新井先生がいわれるように、「処方箋がない」議論になっています。
そもそも「資本主義」という言葉はあいまいなもので、むしろ「市場経済」という制度的な表現のほうがあいまいさがなくなり、そこで今回の問題が主に市場の失敗から生じたのか、経済主体の判断や行動の誤りから生じたのか、政府の失敗や制度の不備から生じたのかがはっきりして、有効な処方箋も書けることになります。

その他、この本では、ローンの証券化の行き過ぎと、レバレッジという意味での借入の行き過ぎとの区別が分かりにくく、この本の主な部分では前者だけが強調されており、一番最後の主な章である「バブルの本質」で(244頁の本の最後の215頁目以降で)、初めて「レバレッジ」という言葉が出てくるなど、今回の金融危機の本質をどこまで著者が理解しているか疑問の点が多々ありますが、それらについての批判はまた別の機会にしたいと思います。
また「金融バブル」の発生については、「資本主義」を持ち出さなくても、単純な投資のモデルで、複数の資産が存在する場合に、体系が不安定になる、つまりバブルが発生して崩壊する傾向があるというトービンのモデル(実物資本と貨幣という2つの資産を仮定した成長モデル)を考えるだけで十分です。ちなみにそのためにトービン教授は、有名なグローバルな資本取引に税を課すというトービン税のアイデアを打ち出したわけです。
そのような点を、この著者は大学で勉強したのでしょうか。
いずれにしても、これは高校生や大学生に対してだけでなく、誰に対しても推薦できない類の本といわざるをえません。
以上、ご参考までに。
TM



ご参考:大竹論文の英訳(抄訳)をウェブにアップ 投稿者:TM 投稿日:2008/12/08(Mon) 14:18 No.211

ご参考:大竹文雄先生のエッセイの英訳(抄訳)

 経済教育ネットワークの2008年度年次総会(9月6日)における大竹先生の閉会挨拶を、大竹先生自身がエッセイにまとめられましたので、そのエッセンスの英訳を以下の「情報発信プラットフォーム」のウェブサイトに掲載しました。

「日本での市場制度の理解と経済教育の問題」
大竹文雄 (大阪大学教授)

 大竹文雄教授は以下の英文の論文において、日本経済が他の国と並んで、サブプライムローン問題を発端とする米経済の不況の影響を受けているために、米国型の市場主義経済はすべてだめだという意見が日本で広がっていると述べている。このような世論の振れ方は、今回は日本だけではないにしても、日本における市場制度への批判はかなり極端で、市場は悪いと決めつける人が目立っている・・・・(中略)・・・・・誰にとっても厳しい市場競争という仕組みを私たちが使っているのは、市場競争のメリットがデメリットよりも大きいからである。経済の世界で市場競争とうまくつきあっていかねばならない現実の中では、市場競争のデメリットばかり強調することは非生産的である。市場競争のメリットを最大限生かすように規制や再分配政策を考えるという、市場競争に対する共通の価値観を私たちは持つべきであると、大竹教授は述べている。

英語の原文:"Understanding Market Mechanism and Economic Education in Japan"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20081208_ohtake_market/

なおこのレポートは、経済教育ネットワークのホームページの「English」欄にも掲載されます。

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